第125話 ファダラグ飼育場
俺たちは紅雷石を作り出すファダラグという人造生物を発見した。それは真っ赤なスライムという姿をしていたが、意外にすばやい動きで逃げて行った。
「げっ、どうやって素早く動いているんだ?」
俺は用意してきた網を取り出した。
「そんな事より、捕まえるぞ」
俺たちは懐中電灯を取り出してから空洞に下りて、ファダラグが逃げた方向に向かう。空洞の幅は一メートル、高さは一メートル半くらいだろう。
腰をかがめて進まなければならないのはきつい。五分ほど進んだ頃、ラグビーボールを巨大化したような地下空間へ出た。
その地下空間を懐中電灯の光を向けると数万という数のファダラグが群れをなしていた。
「うわーっ、これだけの数が居るのなら、紅雷石の採掘量が納得できる」
河井の言葉に頷いた。
「問題は、どうやって捕獲するかだな。あの中に下りて行きたくはないぞ」
「同じく。下りて行ったら埋もれて窒息死しそうだ」
ファダラグは光を浴びても反応しないようだ。眼もなさそうなので、光を感じられないのかもしれない。そうなると何を使って周りを把握しているのか気になる。
「初めて見たファダラグは、俺たちの存在に気づいただろ。俺たちの何に気づいたのだろう?」
「光じゃないとすると、匂いか音じゃないか」
俺は小石を拾って地下空間の反対側に投げる。小石は反対側の壁に当たって大きな音を立てた。ファダラグの群れが一斉に動きを止めた。
だが、音がしなくなると関心を失ったようだ。
「音か、音に反応するようだな」
「最初のファダラグは俺たちが立てた音に気づいて逃げたってことだろ。それなら、ここで大きな音を立てて脅かせばパニックになるんじゃないか。その隙に捕まえられないか」
「最初の時は一匹だけだったからな。これだけの数がいる場合は、攻撃してくるかもしれないぞ」
「反撃して数を減らしては、ダメなんだよな」
「当たり前だ。こいつらが紅雷石を作っているんだぞ」
そうなると空洞を通過するファダラグを一匹ずつ捕獲するしかなさそうだ。俺たちは土のサンプルを取ってから、空洞を戻って、河井が掘った穴から外に出た。
「この空洞を通るファダラグを網で捕獲することにしよう。全部で五匹くらい捕獲すればいいだろう」
「強烈な酸を出して、網を破くとかしないかな?」
「さあ、やってみないと分からない」
俺たちはファダラグが通るのを待ち、四十分ほど経過した頃に赤い姿が見えた。俺は網を伸ばしてファダラグを捕らえる。網の中で暴れたが、酸を吐くようなことはなかった。
捕らえたファダラグは、持ってきた鋼鉄製の箱に入れた。同じようにして五匹のファダラグを捕獲した俺たちは、持ち帰って生物の研究者に渡した。
このファダラグを研究した結果、この生物はミミズのように土を食べることが分かった。驚くことにファダラグはシリコンゴムのような物質で出来た珪素生物だった。
この生物は分裂して数を増やすそうだ。分裂するためにはいくつかの物質が必要らしく、その物質というのは硫黄・リン・マグネシウムである。
ヤシロでファダラグの飼育場を建設することになった。ヤシロの郊外に東京ドーム並みの飼育場が建設されることになり、工事が始まった。
俺は建設を決定した美咲に尋ねた。
「いきなり東京ドームクラスの飼育場というのは、思い切りが良すぎるんじゃないか?」
「そうなんだけど、電力の需要が急激に増えているのよ」
「それは紅雷石の採掘量を増やせば、対応できると思うが」
「現在はそうだけど、あの紅雷石の鉱脈はファダラグが造ったものだと考えると、埋蔵量は限られていると思うの」
「埋蔵量を調査して、大量に有りそうだという話になったと思うが、違ったのか?」
「前提条件が違ったみたい。石炭のように考えて試算したのだけど、ファダラグたちは硫黄・リン・マグネシウムの三つが揃っている場所でしか、紅雷石を生産しないみたい」
「あの規模の飼育場だと、どれほどの紅雷石が生産できるんだ?」
「約五十万キロワット分だと言っていたかな」
それが多いのか少ないのか、俺には判断できない。ただ原子炉一基の標準的出力が百万キロワットだと聞いたことがあるので、少なくはないと思う。
アガルタの人口は元の二割にも届かないほどなので、必要な電力は異変前の日本における電力出力量の二割ほどだと考えている。石油が使えなくなったので、その分をプラスして二割である。
但し、それは日本の絶頂期である時を基準にしているので、実際は一割ほどで我慢してもらおうと考えていた。
「ヤシロでアガルタ全部の電力量を生産するつもりなのか?」
「まさか……飼育場はアガルタ中に分散するつもりよ。そして、その時は他の都市に貸しを作る形にする」
俺は肩を竦めた。
「あまり貸しだとか言うと、嫌われるぞ」
「忠告は聞いておくけど、タダで教えるほどの余裕はないのよ」
ヤシロの内政は上手くいっているように見えるのだが、それでも余裕はないらしい。クゥエルタワーのことが気になったので質問すると、調査は進んでいると言う。
「ただ絵や記録だけだと分からないことが多いらしいの。実物とか、せめて模型でもあると分かりやすかったのだけど」
クゥエルタワーの記録は絵と文章だけなので、正確に把握することは難しかった。ただ野崎准教授を筆頭とする調査団は優秀な人物ばかりだったので、クゥエル支族についていくつか判明したことがあるらしい。
「へえー、どんなことが分かったんだ?」
「クゥエル支族は、重力の制御ができたそうよ」
「重力……それは凄いけど、重力を制御して何をしていたんだ?」
「それは……重力を制御するのに、どれほどのエネルギーを必要としていたかによるんじゃない」
「なるほど、空を飛ぶために飛行機よりエネルギーを使うのなら、空を飛ぶためには使わないということだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます