第124話 クゥエル支族の自慢
河井がクゥエル支族の歴史記念館のような塔を見上げて、
「この塔をクゥエルタワーと呼ぶようにしようか」
「いいんじゃないか。それより源斥力というエネルギーが気になる」
「クゥエル支族が秘密にしている事だろ。ここを調べても分からないんじゃないか?」
「いや、そのクゥエル支族だが、自己顕示欲が強い種族なんじゃないかと思うんだ」
俺がそう言うと、河井がクゥエルタワーに目を向けた。
「なんか、そんな気もするな」
「詳しく調べてみよう。ただ俺たちだけで大丈夫かが問題だな」
俺も河井も科学的な知識に乏しい。エネルギー関係の知識を調査するとなると、適任ではないのだ。ヤシロで暮らしている人間の中には、理学部教授やエンジニアも居る。
しかし、それらの能力を持っている人材を活かす職場が少なかった。エンジニアが畑を耕していることもあるし、理学部教授が小麦粉の粉挽きをしていることもある。
食糧生産が軌道に乗ったので、それらの人材を引き抜いてもヤシロの暮らしには問題ないだろう。
俺たちはクゥエルタワーの二階で寝ることにした。二階はクゥエル支族が生まれた惑星についての歴史が残されているのだが、太陽系ではないということだけしか分からなかった。
翌朝、朝食を食べて六階から上の調査を始めた。この辺の歴史は人類の石器時代に似ている。九階に上がると中世に入ったようだ。そして、十三階で産業革命が起きる。
人類は産業革命で蒸気機関を発明したが、クゥエル支族は栄養分を与えると宇宙に充満している源斥力を吸収して推進力に変化させる生物を発見した。
俺は首を傾げた。クゥエル支族は源斥力を秘密にすると宣言しておきながら、源斥力を発見した時のことを自慢気に言及している。理性では隠しておこうと思っているが、自慢はやめられない種族なのだろうか?
十三階の調査が終わった頃、誰かが階段を登ってくる気配がした。俺たちは身構えて待つ。
「コジロー、お手柄じゃない」
階段を上がってきたのは美咲だった。その他には関西の大学で理論物理を研究していた野崎准教授が一緒だ。
「おっ、野崎さんも一緒ですか。ちょうど良かった」
「何が良かったの?」
「クゥエル支族の源斥力というのを調査していたんだけど、野崎さんにも調べて欲しいんだ」
俺はクゥエル支族の歴史を聞く方法を教えた。野崎准教授はクゥエル支族の声を聞いて、目を輝かせ始めた。
「素晴らしい。こんな場所で、新しいエネルギーの情報を聞けるとは思わなかった。興味深いね。ここは本格的に調査すべきだよ」
美咲が頷いた。
「野崎准教授が太鼓判を押してくれるのなら、予算を組みましょう」
その一言で、本格的な調査が始まった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
調査が始まった初期の段階で、紅雷石のことが分かった。紅雷石は、この場所を提供してくれたモファバルが作ったものだと思っていたのだが、違ったらしい。
紅雷石はクゥエル支族が開発したものだったのだ。紅雷石というのはクゥエル支族が生み出したファダラグという人造生物が源斥力を吸収して結晶化したものだという。
初期の頃に開発されたファダラグが作る紅雷石は不純物が多く混ざっており、エネルギー源として効率が悪いものだそうである。クゥエル支族の文明が進んでもっと純度が高い結晶を作れる人造生物が開発された時に、ファダラグのほとんどは始末され、観賞用として一部のファダラグが残されたようだ。
クゥエル支族が食料エリアに移り住んだ時、ファダラグも一緒に持ち込まれた。そして、それが逃げて野生化したらしい。
ヤシロの人々が採掘している紅雷石は、その野生化したファダラグが作り出したものだと野崎准教授は推測した。
新しく建てられたヤシロの行政府ビルで、報告を聞いた美咲はホッとした顔をする。
「つまり、そのファダラグを確保して、人工的に飼育するようになれば、継続的に紅雷石を入手できるようになるのね?」
野崎准教授が頷く。
「ファダラグの捜査は、コジローさんにお願いしています。たぶん紅雷石を採掘している場所に居るはずです」
「他に何か分かりましたか?」
「紅雷石のエネルギーは、電気だけでなく源斥力としても取り出せるようです」
「源斥力というと?」
「反重力みたいなものだと考えてください。正確には違うのですが、説明すると難しくなるので省きます」
野崎准教授はコジローたちに源斥力について説明しようとしたのだが、無駄だったという経験を活かして、美咲にそう説明した。
「その源斥力を使えるようになるの?」
野崎准教授が難しい顔になった。
「すぐにということではないのですが、このまま研究を続ければ、使えるようになると思います」
「分かりました。研究を続けてください」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺たちは野崎准教授に頼まれて、ファダラグの捕獲に来ていた。場所は紅雷石鉱山である。
「どこを探せばいいんだろう?」
俺が呟くと、河井が鼻をひくひくさせながら山の中に入っていった。
「あいつは犬か。仕方ない、俺も探しに行こう」
紅雷石の埋蔵量を調査した鉱山技師は、広範囲に渡って紅雷石が埋蔵されていることを発表している。
範囲が広大なので調査するのは大変である。特にファダラグという生物は地中を棲家としているようなので、探すのは苦労するだろうと俺は思っていた。
河井は相変わらず鼻をひくひくさせながら、山の中をさまよっている。俺は見当もつかなかったので、ダウジングロッドでも持ってくれば良かったと後悔する。
「コジロー、ここを掘ってみよう」
河井が赤い土が見える場所を指差した。
「何か匂いを感じたのか?」
「ファダラグの匂いなんて、知るわけないだろ。直感でここだと思っただけだ」
何だ、匂いじゃなかったのか。ちょっとガッカリした。これが匂いだったら、子供たちに面白い話ができたのに。
河井が『操地術』を使って地面を掘り始める。五分ほど掘った頃、空洞を発見した。その空洞を覗き込むと、スライムが居た。血のように赤い色をしたスライムだ。
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