第117話 東上町の襲撃者

 俺と河井は襲撃者たちを見張ることにした。気付かれないように跡を付けて観察する。三十人ほどの集団は、全員が小銃と拳銃で武装していた。


「コジロー、あいつらの中で強そうなのは、誰だと思う?」

 俺は彼らを観察して、二、三人ほど強いと思う者をリストアップした。一番強そうなのは、食料エリアで逃げられた日本語を喋る男だ。


 次がリーダーらしい男で、その次がリーダーの副官らしい男である。それを河井に伝える。

「自分と同じだな。どんなスキルを持っているんだろう?」


 襲撃者たちはゴーレム区の奥へと入って行った。そして、最初のゴーレムに遭遇する。驚いた襲撃者の一人が銃の引き金を引いた。


 銃弾がゴーレムの胸に命中したが、簡単に跳ね返される。周りの兵士たちが次々に銃を撃ち始めたが、リーダーが射撃をやめろと命じている。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「やめろ! 無駄弾を撃つな」

 ソン少将が大声を出して命じる。それと同時に『天風』のスキルを使って、上空に風の渦を作り出した。強烈な渦は竜巻へと変化してゴーレムを巻き込んだ。


 普通の竜巻ならゴーレムほどの重量がある物体を持ち上げられるはずがなかった。だが、『天風』のスキルで発生した竜巻は、ゴーレムを軽々と持ち上げる。


 上空二十メートルほどまで上昇したゴーレムを竜巻が放り投げた。頭から落ちたゴーレムは地面に衝突して、轟音を響かせて砕ける。


「他に居ないか注意しろ」

 ソン少将は警戒を促し自分自身も周りを見回した。そして、顔を強張らせる。前方から三体のゴーレムが近づいてくるのが見えたのだ。


「ファン大尉とチャオ少尉に任せる」

 自分のスキルがゴーレムと相性が悪いと思った少将は、部下の二人に任せた。


 ファン大尉は『操闇術』の【闇位相砲】を放った。その一撃は一体のゴーレムに命中し、その硬い体を砕いた。一方のチャオ少尉は、『縮地術』を使って一気に距離を詰め右手をゴーレムの胴体に叩き付ける。


 その瞬間、ゴーレムの胴体が爆発したように砕けた。ダメージを負ったゴーレムが地面に倒れる。チャオ少尉は倒れたゴーレムの頭に右手を叩き付けトドメを刺す。


 チャオ少尉の右手からは、目に見えない力が放出されるらしい。その威力は尋常ではなく、ゴーレムの硬い体も簡単に砕くだけの威力があった。


 残った一体は、兵士たちが『操炎術』の【爆炎撃】を一斉に放って仕留めた。一発の【爆炎撃】なら耐えられるゴーレムも複数の【爆炎撃】が同時に命中すると耐えられなかったようだ。


 少将はファン大尉とチャオ少尉の二人と相談して、進む方角を決めた。それは東上町が存在する方角だった。ゴーレム区から、制御石が破壊された小鬼区に入る。


「おかしい、異獣の数が少ないと思わないか?」

 少将がファン大尉に問い掛けた。

「もしかすると、制御石を壊したのかもしれません」


 チャオ少尉と少将が頷き、東上町の方へ視線を向ける。

「あの町へ行って調べよう」

 彼らは東上町を調べて、少し前まで住民がいた形跡を見つけた。


「ここの住民は、全員が食料エリアへ転移したようだな。……なぜ日本なんだ? 我々の故郷に、そんな転移ドームがあれば、生き残った全員を移住させたのに」


 ソン少将は誰でも転移できる転移ドームが、偶然耶蘇市に発生したのだと考えているようだ。


 少将は町に何か使えるものが残っていないか探させた。だが、そんなものはなかった。元の住民が食料エリアへ全部持って行ったのだと分かる。


 日が暮れ始めたので、その日は東上町で休むことにする。布団などはないが、屋根がある場所で寝られるのは嬉しい。


 翌日起きた少将たちは、水場が有るのを発見した。綺麗な水だ。故郷では飲める水を確保するのにも苦労していたが、ここの水はどうだろうと兵士たちが話している。


「この水は山の湧水を、そのまま使っているようです。飲料水用の水質検査キットで調べましたが、飲めるようです」


「ほう、さすが日本だな。水道水がそのまま飲めると聞いたことがあったが、山の湧水も飲めるのか。羨ましいことだ」


 少将の故郷では、文明が崩壊する前の水道水でも飲めなかった。飲料水は必ずミネラルウォーターを購入したものだ。


 ユウチョンの町では食料を手に入れるのも難しかったが、水の確保も困難だった。『操水術』のスキルを手に入れた者が居たので助かったが、そうでなければ大勢が死んでいただろう。


 少将は湧き水を飲んでみた。

「美味しい水だ。こんな水がある土地を捨てて、食料エリアへ移住したんだ。食料エリアへ一度でいいから行ってみたい」


 それを聞いたファン大尉が笑う。

「弱気になっているのですか? 我々はここの転移ドームを奪って、必ず食料エリアへ行かねば」


「そうだな。だが、油断するな。ここにはガーディアンキラーを倒した者が居るんだからな」

「そうですが、人間が相手なら銃で倒せます。必ずかたきを討ってやりますよ」


 少将たちは転移ドームを探し回り、ついに公園にある転移ドームを発見した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「コジロー、これってもう戦争じゃないか?」

 俺は顔をしかめて頷いた。

「まあ、そう言えるかもしれない」


 相手が銃を持って攻めてくるのだ。これはもう小さな戦争だった。

 転移ドームには武藤たち探索者と佐久間たち自警団の人たちも揃っていた。


 ドーム入り口から外を見張っていた佐久間が警告の声を上げる。

「来たぞ」


 俺は『機動装甲』のスキルを使ってから外に出た。

「止まれ、どんな目的があって、ここへ来た?」

 日本語が分かる者もいたらしいので、日本語で尋ねた。


 その日本語が分かるチャオ少尉が代表して答える。

「我々は中国軍だ。この土地は我々が占拠する。住民は命令に従え」

 最初からハッタリだった。中国軍ではなく元中国軍が正しいのに、未だに中国軍を名乗っている。


「断る。ここは日本だ、中国軍は出ていけ!」

 俺はきっぱりと言い返した。

「ふん、断るのは自由だが、それが原因で起きる事態は、全てお前たちの責任になるぞ」


 中国らしい言い方だった。自分たちが攻撃するのに、責任は相手にあると言う。 弱腰だった日本政府なら、あたふたするかもしれないが、異獣と戦いを繰り広げた俺たちには『何を言っているんだ?』みたいな感じにしか聞こえなかった。


「馬鹿か。死にたくなかったら、日本から出て行け」

 俺が大声を上げると、チャオ少尉が通訳した。それを聞いた者たちが笑い始める。


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