第91話 紅雷石の値打ち
美咲は手に入れた紅雷石をどうするか考え、やはり政府に頼んで研究してもらうことにした。東上町には研究する人材も設備もなかったからだ。
「コジローはどう思う?」
美咲が自分の考えを言ってから、俺に尋ねた。
「紅雷石が日本の未来に関わるような重要なものなら、政府に頼むしかないかな。でも、無料で政府に渡すのも……」
コジローは自分で調べてどうにか利用しようとしたが、中々調査が進まなかった。半ば諦めかけていたのである。
「そうね。食料エリアの鉱脈や土地が所有できるのかも分からないから、難しいかも……政府と個別に契約するしかないかな」
俺はどうするか迷った。紅雷石に関する情報が少なすぎて判断できない。
「『上級知識(食料エリア)』を取得したら、紅雷石の情報が出てくると思うか?」
美咲は分からないと答えた。『上級知識(食料エリア)』は星四つなので、スキルポイントが『81』も必要である。俺が溜めているスキルポイントでは足りない。
「飛竜区の守護者でも、倒しに行こうかな」
「知識スキルを取得するために、守護者を倒そうと言うの?」
「それしか方法がない」
美咲も食料エリアに関する情報がもう少し欲しいと思っていたらしく賛成した。エレナと河井も賛成である。俺たちは支度をして、飛竜区へ向かった。
飛竜区の守護者は、大きな書店の隣りにあるショッピングモールを棲家にしていた。分裂の泉は駐車場だった場所にあり、マグネブバードやベカラノドンなどが棲み着いている。
俺たちがショッピングモールに近付くと、まずベカラノドンが攻撃してきた。空中から火を吹く翼竜のような化け物を、俺たちはそれぞれのスキルを使って攻撃した。
意外にも一番活躍したのは、エレナの『精霊使い』だった。トールの電撃ビームやアグニの紅炎ビームは威力が上がっており、一撃で翼竜を仕留めたのだ。
「凄いな。トールとアグニは、少し大きくなったんじゃないか?」
俺が尋ねると、エレナが頷いた。
「最近、トールとアグニと一緒に狩りをするようになって、精霊のレベルが上がり、威力が増すようなんです」
エレナはトールとアグニを成長させるために、奇獣区や小竜区へ行って精霊たちに狩りをさせていたらしい。その成果が現れたということだ。
ベカラノドンが片付くと、次はマグネブバードが襲ってきた。空から急降下して、クチバシで貫こうとするマグネブバードの攻撃を避けてから、地上にいるうちに獲物で攻撃するというのが有効だった。
河井の大剣が叩き付けられ、美咲の薙刀が切り裂く。俺は擂旋棍でマグネブバードの頭をかち割った。影刃狼牙棒が壊れた後、まだ修理していなかったのだ。
マグネブバードを駆逐した後、守護者との戦いになった。守護者はドラゴンやワイバーンに近い異獣だった。
「あれって、ワイバーンよね」
美咲が守護者を見て言った。俺はワイバーンとドラゴンはどう違うか知らないが、美咲は二本足か四本足の違いでワイバーンとドラゴンを区別しているらしい。但し、その区別方法が正しいかどうかは分からない。
バサリと羽ばたいたワイバーンは、俺たちの上空を旋回し始めた。その時、ワイバーンの頭から生えている二本の角が輝いた。それから大きく息を吸い込んだワイバーンは下に向かって強烈な炎のブレスを吐き出した。ベカラノドンも炎を吐き出すが、両者は火炎放射器とクッキングバーナーほどの違いがある。
俺たちは逃げ回り、強烈な炎を避けた。ワイバーンの火炎ブレスが途切れた瞬間、俺は大量の神気を衝撃波に変えて、ワイバーンに放つ。
空中で衝撃波を喰らったワイバーンは、ダメージで一時的に飛べなくなり落下。その巨体が駐車場に停めてある大型バンを押し潰し破壊した。
河井が『縮地術』を使って接近し、【地雷】を使って内部破壊する蹴りを入れる。ワイバーンの口から血が吐き出された。エレナが祝福で威力を上げ爆裂矢を射る。
ワイバーンの背中に爆裂矢が刺さり爆発。悲鳴を上げたワイバーンは空へと逃げた。俺はその姿を目掛けて、また衝撃波を放つ。
また落下したワイバーンを美咲とエレナ、河井が寄ってたかって攻撃。ワイバーンが空へ逃げようとすると俺が衝撃波で叩き落とす。それを三回ほど繰り返すとワイバーンは瀕死状態となった。
最後は俺の衝撃波を撃ち込んでトドメを刺した。どの部位を残すか選択を促す声が聞こえたので、俺は輝いた二本の角の事が気になり角を選んだ。
【守護者ハフヴァルスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】
俺は『大周天』のスキルを選んだ。
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
俺はレベルアップ苦痛を堪えてから、スキル一覧を確認した。残念ながら紅雷石に関係するスキルは存在しなかった。『上級知識(紅雷石)』みたいなものが一覧に増えているのを期待したのだが、そんなものはないのかもしれない。
制御石の選択では、『上級知識(食料エリア)』を取得した。俺の頭の中に膨大な情報と知識が流れ込み刻まれる。俺は何度か知識スキルを取得することで、情報と知識が違うものだと分かった。
『上級知識(食料エリア)』などには膨大な情報が含まれている。だが、俺が膨大な情報を受け取っても、それを理解しなければ知識とはならないのだ。
単なるデータを整理して意味や価値を与えられたものが情報で、その情報を俺が理解できれば知識となるのだ。なので、膨大な情報の中で知識となったものは、ほんの僅かである。
分裂の泉から上がった俺は、エレナたちを探した。三人は倒した異獣が残した心臓石や身体の一部を集めていた。身体の一部というのは、俺のスキルによって残されたものだ。
「コジロー、紅雷石に関して、何か情報が見つかった?」
美咲が俺に確認した。俺は頭の中にある情報から紅雷石に関するものをピックアップした。ほとんど初級知識と同じようなものだったが、紅雷石から電気を取り出す大まかな条件が分かった。
その条件というのは、二酸化チタンと紫外線が必要だということだ。二酸化チタンは光触媒であるので、そのことに関係するのかもしれない。やはり政府に頼んで研究してもらうしかないのだろう。
政府に頼むなら早い方がいいので、美咲は県知事に頼んで日本政府のエネルギー対策特命担当大臣である
生駒大臣はすぐに会おうという話になった。どうやらエネルギー問題では、頭を痛めていたようだ。
臨時の装甲列車が走り、俺たちは臨時政府がある長野県に向かった。いくつかの列車を乗り換えて、長野に到着する。
駅には役人の
「遠藤さんは?」
「私です」
美咲が声を上げた。貴島は生駒大臣の下で働いていることを伝える。
臨時政府は大型ホテルを議員宿舎兼仕事部屋にして、政治を行っているらしい。俺たちはホテルに向かった。
ホテルに到着すると、生駒大臣が仕事をしている部屋に案内された。俺は生駒大臣を知らない。というか、テレビに出てくるような有名な議員しか知らないのだ。
つまりテレビが見れる頃は、あまり知られていなかった議員ということになる。
「耶蘇市の方々ですね。エネルギー対策特命担当大臣の生駒です」
自己紹介をしてから、用件に入った。
俺はポケットから紅雷石を出して、テーブルの上に置いた。
「ほう、これが紅雷石ですか。赤いという以外は、変わった石には見えませんが?」
美咲が生駒大臣に視線を向けた。
「私の同僚である摩紀は、『上級知識(食料エリア)』という知識スキルを取得しました。その中に紅雷石についての情報がありました」
生駒が頷いた。
「その『上級知識(食料エリア)』というのは、星がいくつなのです?」
「星が四つです」
生駒は厳しい顔をする。確かめるのが難しくなったからだろう。
「それで紅雷石というのは、どのようにエネルギーと関連するのですかな?」
「紅雷石は、ある条件を満たすと電気を放出するようになるのです」
「それは、どれほどの電気量なのです?」
「掌に載るほどの紅雷石で、一〇〇世帯分の電気が供給できます」
生駒大臣が笑った。その笑いは信じられないという感じだ。
「もちろん、すぐには信じられないでしょう。政府で紅雷石を研究してください。五個ほどお渡ししますので」
「ありがとう。ところで、その紅雷石を手に入れたのは、どこなのです?」
美咲が笑った。
「まだ教えられませんよ。紅雷石がどれほどの価値を生むか。大臣なら分かるのではないですか?」
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