第90話 火炎牛と紅雷石

 俺たちは今までの生活に戻った。畑や水田を耕し、食料エリアでプチ芋と甲冑豚を回収する。

「プチ芋と甲冑豚には、飽きたな」

 河井が言い出した。


「贅沢な奴だな、プチ芋も食べられない者も居るんだぞ」

「そうだけど、偶にはステーキとか食べたくなるんだ」


「今となっては、牛肉は貴重だからな」

 牛を飼育していた者も居たのだが、その飼料のほとんどは海外から輸入していた。それが輸入できなくなって、ほとんどの牛は屠殺されて食べられたらしい。


「食料エリアに牛が居ないかな」

 河井が言うと、美咲が教えた。

「県の役人に聞いたけど、食料エリアには火炎牛という牛が居るそうよ」


 河井がジト目で美咲を見る。

「火炎牛? それって本当に牛なのか?」

「その肉を食べた人は、牛肉だって言っていたけど」


「よし、その火炎牛を狩りに行こうぜ」

 取り敢えず何もすることはなかったので賛成した。

 公園の転移ドームから食料エリアへ転移して、俺たちは南に向かった。レッドサウルスを倒した山に到着。そこの周辺を探した。


「あらっ、この石は藤林が持っていた石よ」

 藤林が持っていた赤い石が層になっている場所を見つけた。俺は赤石を拾い上げる。ズシリと重い。


「地層になっているのを見ると、石炭みたいなものなのか?」

 俺が首を傾げていると、エレナが傍に来て赤石の地層を観察する。

「本当に石炭みたい。これって燃えるんですかね?」


 エレナが首を傾げている。

「どうだろう。試してみよう」

 俺は地面に赤石を放り投げ、『操炎術』を使って赤石の上に炎を生み出した。結果として、赤石は燃えなかった。


「石炭みたいなものじゃないな。何だろう?」

「何か調べる方法はないのかな」

 エレナに言われて、藤林から入手したスキルリストの中に食料エリアに関するものがあったのを思い出した。『初級知識(食料エリア)☆☆』『中級知識(食料エリア)☆☆☆』『上級知識(食料エリア)☆☆☆☆』である。


 俺がその知識スキルの事を皆に言うと、試しに『初級知識(食料エリア)』だけでも取った方が良いということになった。


 俺は『初級知識(食料エリア)』を取得した。食料エリアに関する知識が頭の中に流れ込んでくる。その中に食料エリアの地図があった。但し、俺が行ったことのある食料エリアの地域の中心点から、八〇キロほどの範囲を地図化したものだ。


 その中には耶蘇市の転移ドームに繋がるストーンサークルや田崎市に繋がるストーンサークルも描かれていた。


 そして、赤石に関する情報も見つかった。赤石は『紅雷石こうらいせき』と呼ばれているものらしい。ある条件が揃うと内部に蓄えられている電気を放出する特性を持っているという。


 初級知識だからだろうか。それ以上の詳しい情報は得られなかった。俺から紅雷石について聞いた美咲は、真剣な顔で考え始めた。


「紅雷石なんて、どうでもいいから、火炎牛を探しに行こうぜ」

 河井は紅雷石には関心がないようだ。

「ミチハル、考えているんだから静かに」


 美咲に叱られて、河井がふてくされる。それを見て俺とエレナは笑った。

「コジロー、紅雷石に関する知識はないの?」

「今のところはないけど、調べていれば、そのうちにスキル一覧にアップされるかもしれない」


 俺たちは紅雷石の鉱脈を採掘して、大量の紅雷石を掘り出すとシャドウバッグの中に詰め込んだ。東上町に持ち帰って調べようと考えたのだ。


 それから火炎牛を探し始めた。地図によると紅雷石の鉱脈があった山から南東に行くと草原がある。そこを探そうということになった。


「美咲さんは、紅雷石を電池に使えると考えているんですか?」

「そうね。紅雷石に蓄えられている電力量によるかな。僅かだったら意味がないし、膨大なものならエネルギー資源になる」


「紅雷石の電力量が膨大で、紅雷石が大量に埋蔵されていたなら、元の便利な世界に戻れるかな」

「電気だけじゃ無理だと思う。石油や資源を大量に輸入していた日本だから、その代替品が見つからない限り、きっとダメね」


「おっ、川だ」

 俺は大きな川を見つけて声を上げた。地図上には曲がりくねった線が引いてあるだけだったのだが、その線は川だったらしい。


 その川に向かって進むと、川原に何か居る。

「あれは牛じゃないか?」

 河井が嬉しそうに声を上げた。地球の牛より一回り大きく、口がカラス天狗のように三角形の口になっている。そんな牛が十数頭ほど群れて草を食べている。


「あれが火炎牛なの?」

 美咲が首を傾げながら尋ねる。それを聞いた河井が口を尖らせる。

「火炎牛のことは、美咲から聞いたんだぞ」


「私だって、話を聞いただけで実物は初めてなのよ」

「見分ける方法はないのか?」

「火炎牛は、攻撃されると口から火を吹き出して反撃するそうよ」


 俺は頷いてから、河井に顔を向けた。

「ミチハル、確かめてこい」

「コジローが行けばいいだろ」

「適材適所だ。ミチハルは『縮地術』のスキルを持っているだろ。逃げ足が一番速いのは、お前だ」


 河井は嫌な顔をしたが、牛に近付いていった。一〇メートルほどの距離まで近付いた時、牛が一斉に草を食べるのをやめた。


 ジロリと河井に視線を向ける牛たち。河井がもう一歩だけ足を踏み出すと、牛が集団で河井に近付いてくる。

「あれっ、何か見た覚えがある」

 俺は既視感デジャヴを覚えて声を上げた。


 エレナが俺に顔を向けた。

「どうしたんです?」

「分かった。藤林がピンクマンモスに踏み潰された時と同じなんだ」

「へえー」


 牛たちは河井に向けて口から火を吹き出した。

「うわーっ!」

 河井が叫び声を上げると、回れ右をして逃げてくる。


「ミチハル、『縮地術』だ!」

 その声が聞こえたのか、河井の姿が一瞬消え五〇メートル先に現れた。火炎牛たちは河井の姿を見失って追撃をやめた。どうやら火炎牛の視力は良くないらしい。


 河井が戻って来た。

「あいつは火炎牛だ。間違いない」

「さて、どうやって狩る?」


 エレナが手を挙げた。

「私が遠くから、弓で狙いましょうか?」

 美咲が頷いた。

「それがいいかも、でも、どうやって回収するの?」


「俺の衝撃波で追い払うのはどうだ?」

 皆が賛成したので、エレナが羅刹弓を取り出して、火炎牛に見つからないように近付き弓を引き絞る。


 凄まじい勢いで矢が飛翔し、外側に居た火炎牛の頭を貫いた。火炎牛がクタッと倒れる。仲間が急に倒れたのを見て、他の火炎牛たちが不安そうな様子を見せる。


 そして、俺が軽い衝撃を放つと逃げていった。

「上手くいったな」

 河井は火炎牛のところに行って血抜きをする。


 目的を達成した俺たちは、東上町に戻って火炎牛を解体した。これには武藤たちも手伝ってくれる。俺たちが川原ではしゃぎながら解体していると町の人々が集まってきた。


「口元が変な牛だ」

「しかし、デカイね」

「コジローさん、この肉も分けてくれるのかい?」

 近くに住むおばさんがコジローに声を掛けた。


「ああ、これだけの肉の量があるから分ける。でも、入れ物は用意してくれよ」

「分かった。すぐに鍋を持ってくるよ」

 何人かのおばさんたちが家に向かった。これで町中に火炎牛の肉のことが広まるだろう。


 解体した火炎牛の肉を配り、俺たちはログハウスですき焼きパーティーを開いた。保育園の子供たちは喜び、保育士のおばさんや園長も笑顔になる。


 火炎牛の肉は、最高級の牛肉に匹敵するほど旨かった。甲冑豚の代わりに火炎牛を狩るのもいいかもしれない。


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