第89話 藤林との死闘

 食料エリアに転移した俺は、素早く横に跳んだ。藤林の奇襲を予想していたからだ。予想通り、俺が立っていた場所を稲妻が通り過ぎた。


「お前が考えそうなことだ」

 藤林が唇を噛み締めて、俺を睨んでいた。

「私の邪魔ばかり……君には死んでもらいます。そして、私が強くなる糧になれ」


なこった。誰がそんなものになるか」

 藤林が雷槍から稲妻を放った。俺も衝撃波を放ち、命中した稲妻のエネルギーを『変換炉』で神気へと変換する。但し、全てが変換されるわけではないので、身体に痛みが走った。


 一方、衝撃波を食らった藤林は、七メートルほど宙を舞い地面に落下して転がる。『機動装甲』のおかげで無傷だった藤林は、素早く立ち上がる。


 そして、顔をしかめているが、それほどダメージを受けていない俺を見て、首を傾げた。

「君は、『雷撃耐性』でも持っているのか?」

「そんなものがあるのなら、欲しいくらいだ」


「ふん、やせ我慢しているのか。どれほど耐えられるか試させてもらおう」

「俺はマゾヒストじゃないんだ。何度も痛い思いなんかできるか!」

 影刃狼牙棒を握り締めた俺は、藤林に向かって飛び出した。藤林が俺に雷槍を向ける。神気の力を借りて、横に跳んだ。


 俺の横を稲妻が通り過ぎる。影刃狼牙棒から黒いビームサーベルのようなものが伸び、それで藤林を斬り付けた。黒いカミソリのような刃に変化した影刃が藤林の胴体に当たり、障壁のようなものに阻まれた。


「チッ、それが『機動装甲』とかいうスキルなのか?」

「素晴らしいスキルでしょう。これがあれば、私が負けるということはありません」


 そう言った直後、藤林が雷槍を横薙ぎに払う。俺は影刃狼牙棒で受け止めた。雷槍と影刃狼牙棒を駆使した攻防が続いた。


 パワーは神気を持つ俺が上で、技術の面では藤林が上だった。力任せに叩き付けた影刃狼牙棒の柄に向かって、雷槍の刃が閃いた。影刃狼牙棒の柄が斬り飛ばされる。


 ヤバイ。不用意な攻撃だったと後悔しながら、俺は後ろに跳び離れて、衝撃波を放った。

 衝撃波は藤林を弾き飛ばすが、ダメージは与えられなかった。俺はシャドウバッグを出して、擂旋棍を取り出す。


 俺と藤林は戦いながら、戦いの場を草原に移した。

 これはちょっと失敗だったと反省する。この草原にはピンクマンモスがいたからだ。俺と藤林が戦っているとピンクマンモスが近付いてきた。


 自分たちのテリトリーを荒らされたと感じたピンクマンモスが、俺たちを襲ってきたのだ。俺は素早く逃げ出したが、藤林は自分が最強だという自負心があったからなのか、雷槍から稲妻を放ってピンクマンモスを攻撃する。


 だが、その稲妻ではピンクマンモスを倒すことはできなかった。却ってピンクマンモスを怒らせた藤林は、ピンクマンモスの群れに取り囲まれて、散々踏みつけられる。

 俺はちょっと距離を取ってピンクマンモスの怒りが収まるのを待った。


 しばらくして藤林からピンクマンモスが離れる。地面に身体をめり込ませた藤林が、ゾンビのように起き上がった。

「あ~あ、もう少し寝ていればいいのに」

 俺が言った途端、またピンクマンモスが近付いて長い鼻で、藤林を撥ね飛ばした。そして、群れで近付き踏みつける。


 ちょっと可哀想になるほどの惨状だ。ピンクマンモスが去った後、今度は藤林もすぐには起き上がらなかった。これで起き上がったら、アホである。


 ピンクマンモスが完全に去ったのを確認してから、藤林が立ち上がった。ピンクマンモスは襲わなかったが、俺が特大の衝撃波を放つ。


 藤林が空を飛んだ。ハンマー投のハンマーのように飛んだ藤林は、地面に落下して二、三度バウンドする。

 マンモスが踏んでも大丈夫だった藤林が、血を吐き出した。特大の衝撃波のパワーは、『機動装甲』の防御力を超えたらしい。


 負けるという恐怖を感じた藤林は、自身が持つ最大の攻撃手段を繰り出した。レベルマックスになっている『操炎術』の【プラズマ砲】である。


 【プラズマ砲】はスキルレベル7で使えるようになるもので、『上級知識(炎)☆☆☆☆』を手に入れていない藤林が持つ最高の攻撃手段だった。


 血を吐きながら、藤林が【プラズマ砲】を発動する。ソフトボールほどの超高熱のプラズマが生まれ、俺に向かって飛んできた。それが危険なのは即座に分かった。俺は顔を強張らせ必死で逃げる。強化された足と神気を使ってプラズマを避け、辛うじて命中するのを逃れた。


 プラズマが地面に着弾して、それが内包していた熱エネルギーを解放する。地面が焼けただれ、加熱した空気が爆風となって周りに広がる。もし俺に命中していたら、骨も残らず灰になっていただろう。


 爆風は逃げた俺のところに到達し、身体ごと吹き飛ばした。熱した空気が、俺の肌を焼きヒリヒリする痛みを覚えた。立ち上がった俺は、藤林を探す。


 藤林が俺に向かって走っていた。その手には雷槍が握られている。俺はシャドウバッグを出して、中から鋼鉄鞭を出した。


 『操磁術』を使って一〇メートルの鋼鉄鞭を操る。振り上げられた巨大な鋼鉄鞭が藤林に向かって振り下ろされる。吊橋を支えるワイヤーケーブルのような強靭で重い鞭は、高速で振り回すと凶悪な武器となる。


 鋼鉄鞭は空中でしなり高速で藤林を襲った。藤林は必死で避ける。藤林の肩を掠めた鋼鉄鞭は地面に叩き付けられ、土砂を撒き散らして溝を作る。


 藤林が顔を青褪めさせた。鋼鉄鞭は地面を叩いた反動で上空に持ち上がる。そして、軌道を修正した鋼鉄鞭がもう一度振り下ろされた。


 今度は藤林の頭に当たる。だが、藤林には『機動装甲』がある。弾き飛ばされただけで、ダメージはほとんどなかった。俺も鋼鉄鞭を叩き込んだくらいで倒せるとは思っていなかった。


「無駄だ。そんなもので、私は倒せん。だが、君は次で終わりだ」

 藤林がギラついた目で俺を睨むと、また【プラズマ砲】を発動する。先ほどはソフトボールほどだったプラズマが、今度はバレーボールほどになってから飛翔を始めた。


「ヤバイ、あれはヤバイ」

 俺はプラズマに内包されているエネルギーが、戦術核に比肩するほどの威力を秘めているように感じた。と言っても、戦術核がどれほどの威力を持っているのかは知らないのだが、それほど巨大なエネルギーを感じたのだ。


 俺は体内にある神気の全てを衝撃波に変え、藤林に向けて撃ち出した。藤林が顔を強張らせたのが分かった。俺が作り上げた衝撃波も驚異的な力を秘めていたからだ。


 衝撃波を撃ち出した瞬間、余波を食らった俺は後ろに弾き飛ばされた。その直後、中間点でプラズマと衝撃波がぶつかりプラズマが爆発する。


 爆発の位置は、俺より藤林に近かった。俺は余波で後方に飛ばされたので、プラズマ爆発の影響はほとんど受けなかった。だが、藤林はもろに喰らったようだ。


 飛び散ったプラズマが藤林に降り掛かった。そして、爆風が藤林を揉みくちゃにしながら飛ばす。俺は地面に伏せたまま爆風が収まるのを待つ。


「藤林の奴、もろに爆風で飛ばされやがったな。ざまあみろだ」

 爆風が収まった後、立ち上がると藤林を探す。藤林が倒れているのを見つけた。近寄って様子を確認する。まだ、死んではいないようだ。


「……私は最強なんだ。負けない。負けるはずがない」

 小さな声でブツブツと呟いている。その右手に握られている雷槍がプラズマを浴びて壊れていた。


「おい、藤林。大丈夫なのか?」

 俺は県から捕縛を頼まれていたことを思い出した。この状態なら捕縛できそうだと考えたのだ。


「……死ね」

 藤林は何かに取り憑かれているかのように、半身を起こして壊れている雷槍を突き出した。その手を払い除け、殴ろうとした。だが、藤林が力尽きたように顔から地面に倒れる。


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


【適格者一九四八が持つスキルリストを、転送します】


 俺はレベルアップ苦痛を堪えてから、スキル一覧を確認した。見覚えのないスキルが増えている。その中に『機動装甲☆☆☆☆』と『亜空間☆☆☆☆』を見付けて藤林のスキルリストが追加されたのだと分かった。


「しかし、例の声が藤林のことを変な呼び方していたな」

 例の声は、藤林を『適格者一九四八』と呼んでいた。適格者とは何だろう? 後ろの数字も謎だ。


 藤林は異獣ではないので、死骸は消えなかった。その代わりに藤林が亜空間に仕舞っていたものが、辺りに散乱している。大部分は食料と水だった。


 中には日本刀や変なものもあった。

「コジロー、藤林を倒したのか?」

 河井の声だ。他の皆が食料エリアに転移してきたようだ。時間がかかったのは、稲妻のダメージから回復するのを待っていたからだろう。


「これは何?」

 美咲は藤林の持ち物が散らばっている中から、赤い石を拾い上げた。


「大丈夫ですか?」

 エレナだけが俺の身体を心配してくれた。涙が出そうなほど嬉しい。


「大丈夫。でも、藤林は殺すしかなかった」

「仕方ないですよ。悪いのは藤林です」

 後味が悪い結末になった。


 俺たちは県に藤林が死んだことを報告し、報酬をもらった。報酬は大量の軽油だった。重機やトラックなどはディーゼルエンジンのものが多く、軽油が必要なのだ。


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