第79話 浅井とピンクマンモス
俺たちは竜崎たちと別れて、西に向かった。
「竜崎さんたちは、大丈夫かな?」
エレナが心配そうな顔で後ろを振り返った。
「大丈夫じゃないか。あれだけの人数がいるんだから」
巨虎なら大丈夫だと思うが、ピンクマンモスの群れに手を出せば危険だ。だが、竜崎が居るのだ。馬鹿な真似はしないだろう。
湖に辿り着く途中、甲冑豚の群れを見つけた。八匹ほどの群れだ。東上町で配るには四匹を狩る必要がある。気配を消してゆっくりと近付く、俺は擂旋棍を握り締め駆け出した。
半分の距離を走ったところで、甲冑豚に気づかれた。そこにエレナの放った矢が甲冑豚の首に突き刺さる。普通の矢に妖精の祝福をかけて貫通力を増したようだ。
豪肢勁を駆使してスピードを上げる。『大周天』に統合してから、豪肢勁もパワーアップしていた。一瞬で甲冑豚のところまで到達し、甲冑豚の頭に擂旋棍を叩き込む。
その一撃で甲冑豚が倒れる。もう一匹もう一匹と倒していき合計四匹を倒したところでやめた。
「メイカちゃんが、喜びますね」
俺は笑って頷いた。
血抜きをしてシャドウバッグに甲冑豚を詰め込む。それからプチ芋を二トンほど掘り出した。これには時間が掛かった。
目当てだった甲冑豚とプチ芋を手に入れた俺たちは、湖の方へ向かう。湖はかなり大きく東上町が丸ごと入ってしまうほどだ。
「透き通った綺麗な水だ。ここには魚がいるのかな?」
「いるんじゃないですか。鮎みたいに美味しい魚がいれば、嬉しいんですけど」
「でも、釣りの道具も網もないからな。今度持ってこよう」
湖の水面から魚が飛び跳ねて、また水中に戻った。
「魚がいることは確認できたな」
「でも、東上町には海があるから、ここの魚を獲らなくても」
「そうだな。でも、
俺は鰻が好きなのだ。長い間食べていないので食べたい。
湖を離れ引き返し始めた。ストーンサークルに戻って耶蘇市に戻ろうとした時、東の方角から爆発音が聞こえた。
「竜崎さんたちが、戦っているのかな」
エレナが東に目を向けながら言った。
「あいつら、ピンクマンモスに手を出したんじゃないだろうな」
エレナが眉間にシワを寄せる。
「行ってみましょう」
俺も賛成して、確かめに向かった。駆け足で爆発が起きた場所まで行くと、心配していたピンクマンモスに追われている竜崎たちの姿が見えた。
「あああ、何でピンクマンモスに手を出すかな」
ピンクマンモス一匹だけなら倒せると思うが、この異獣は群れで活動するのだ。現に竜崎たちは十数頭のピンクマンモスに追われて、草原を全力疾走している。
「竜崎さんたちは、森に逃げ込もうとしているみたい」
「あっ、誰か捕まった」
ピンクマンモスの鼻で持ち上げられた男が、ポイッと捨てられた。その男は空中を飛び草原を転がって動かなくなった。
「まさか、死んだんじゃないですよね?」
「あれくらいで死ぬようなガーディアンキラーはいない。気を失ったか、死んだふりだと思う」
ピンクマンモスは倒れた男にトドメを刺す気はないようだ。まだ逃げている竜崎たちを追いかけ続けている。
浅井がピンクマンモスに向かって、『操炎術』の【爆炎撃】を放った。
炎の塊がピンクマンモスに向かって飛び、その巨体に命中して爆発した。だが、少し血が流れた程度でさらに怒り狂って追ってくる。
「余計な真似をしているな。逃げることに集中すればいいのに」
「竜崎さんが何か怒鳴っているみたい」
「たぶん余計なことをするな、と怒鳴っているんだ」
「あっ、浅井さんが遅れ始めた」
スキルの能力を使うと精神力と体力を消費する。【爆炎撃】が人間の精神力と体力をエネルギー源としているわけではないのだが、発動するために消費されるようなのだ。
遅れた浅井はピンクマンモスの鼻に捕まり、持ち上げられた。振りかぶったピンクマンモスは、こちらに向かって浅井を投げた。
「ヤバイ、隠れるぞ」
俺はエレナの手を掴んで森に飛び込んだ。木の陰から覗き見ると、浅井は地面を転がって起き上がると湖の方へ駆け出した。
「あいつタフだな。さすがプロ格闘家だ」
「でも、馬鹿です。死んだ真似をすれば良かったのに」
というのは、起き上がって逃げたからだろう。ピンクマンモスは竜崎たちではなく浅井を狙って追い駆け始めたのだ。
俺たちは何もせずピンクマンモスを見送った。下手に助けに入れば、こちらが襲われそうなのだから仕方ない。それに湖まで逃げ切れば、浅井は助かると判断したのだ。
「二人とも見ていたのか?」
背後から竜崎の声が聞こえた。俺は振り返って竜崎たちの無事を確認した。ただピンクマンモスに投げられた男だけは全身に擦り傷を作り痛々しい。
「ピンクマンモスに投げられて、気を失っていたのか?」
「いえ、死んだふりをしていました。マンモスは熊と違って死んだ真似が効くようです」
重要な情報かどうかは分からないが、一つ異獣の情報が増えた。
「浅井は大丈夫なのか?」
竜崎が渋い顔になった。
「大丈夫だ。あいつは『剛体☆☆』というスキルを持っている。たぶんマンモスに踏まれても生き残るだろう」
俺が持っていた『硬気功』に似たスキルなのだろうか? たぶんパワーアップはせずに、ひたすら頑丈になるようなスキルなのかもしれない。
「浅井さんが、捕まりました」
「あああ」
ピンクマンモスに捕まった浅井は地面に叩きつけられ、巨大な足で踏まれた。それも何度何度も踏まれた。
気が済んだらしいピンクマンモスが去った後、俺たちは浅井が倒れている場所に駆け寄る。
浅井がピクピクしているが、五体満足で大きな怪我はないようだ。
ちょっと勿体ない気がしたが、ポーションを取り出して飲ませた。ピクピクが止まり、単に気絶した状態となった。そして、五分ほどで気がついた。
「……お花畑で、死んだばあちゃんが、おいでおいでしている夢を見た」
竜崎が笑いを堪えながら、
「そうか、貴重な経験をしたな。次からは絶対にピンクマンモスには、ちょっかいを出すなよ」
俺とエレナは後ろの方で、何だかツボに嵌って、笑いを堪えるのが大変だった。ポーションは勿体なかったが、これだけ愉快にさせてくれたのだから、いいかという気分になる。
浅井が立ち上がれるようになると、俺たちはストーンサークルへ戻った。
「そう言えば、食糧は確保できたのか?」
俺が竜崎に確認すると、甲冑豚五匹とプチ芋を回収したらしい。その後に浅井がピンクマンモスを狩ろうと言い出したようだ。
俺たちは耶蘇市に戻り、竜崎たちと別れた。
東上町に戻ると、保育園に武藤の奥さんが来ていた。
「コジロー、やっと帰ってきたか。待っていたんだぞ」
河井が声を上げた。
「何かあったのか?」
「それが武藤さんたちが、戻ってこないそうなんだ」
武藤たちは富永町という町の港に、エンジンと帆の両方が付いている船が停泊しているという情報を思い出して、それを手に入れようと思い出掛けたらしい。
「そうか。帆走もできるなら便利だからな」
「でも、昨日帰ってくる予定だったそうなんだ」
「一日くらいなら、何かの都合で帰りを伸ばしたんじゃないか?」
武藤の妻である佳奈美は、俺に顔を向けた。
「今日は、娘の誕生日で必ず帰ると言っていたんです」
「それで、不安になっているんだ。武藤さんは娘さんを可愛がっていたからな。俺もちょっと不安になってきた」
「どうしたらいいんでしょう?」
「武藤さんと連絡がつかないと、どうしようもないんだけど……危険を覚悟で無線で呼んでみるか」
河井が顔をしかめた。
「マグネブバードが襲ってくるぞ」
「そうなんだよな。無線機を小鬼区へ持っていって、使ってみよう」
美咲が口を挟んだ。
「無線と言っても、周波数はどうなっているの?」
「緊急用の周波数は決めているから、それを試す」
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