第78話 新たなガーディアンキラー

 双頭巨人の守護者を倒した俺たちは、獣人区に戻った。神部たちは多くのコボルトとオークを倒し、大量の闇属性の心臓石を手に入れたという。


「河井さんは、大蜥蜴区の守護者は倒せたんですか?」

「ああ、倒したぜ。『五雷掌』のスキルをマックスにした」

 土田と石渡は感心したように頷いた。


「さて、拠点に戻って、夕食の準備をしよう」

 俺が提案すると、皆が賛成する。俺たちは小獣区の学習塾に戻り、食事をして雑談を始めた。


「銀山町の食糧事情はどうなの?」

 美咲が神部たちに尋ねた。

「元々農地だった土地は、少し反収が減った程度だったんですが、新しく農地にした場所は不作でした。予定していた収穫量の六割ほどしかなかったと聞いています」


「ふーん、それじゃあ厳しいな。でも、あなたたちが食料エリアから甲冑豚やプチ芋を持ってくるようになれば、大丈夫なんでしょ?」


 美咲の質問に神部たちが頷いた。

「でも、私たちが怪我したらとか、考えると、後六人ほどはガーディアンキラーを育てなければ、と考えているんです」

 水瀬はしっかりした考えを持っているようだ。


「コジローさんたちは、これからどうするんです?」

 神部の質問で、俺に皆の注目が集まった。

「取り敢えず、耶蘇市にいる守護者を全部倒して、異獣について調べようと思っている。分裂の泉とか制御石とか分からないことだらけだからな」


 皆が頷いた。神部は美咲に目を向けた。

「美咲さんはどうです?」

「私は、まず耶蘇市の東上町を、安全で暮らしやすい町にする。それができたら、耶蘇市全体、県、国というように活動範囲を広げるつもりよ」


「凄いな。二人とも俺たちとはスケールが違う。俺たちなんか、明日の食料ばかり心配していたからな」

 土田がそう言ってから溜息を吐いた。


 期限まで神部たちを鍛え、最後の日にパン工場から小麦粉の袋を駅まで運んだ。

 プラットフォームで装甲列車を待っていると、一〇分ほどで列車が到着。列車から降りてきた県の役人が山積みになっている小麦粉の袋を見て、目を丸くする。


「これはどうしたんです?」

「パン工場の倉庫にあったものだ。一年以上経っているものだから、早めに食べないとダメになると思うんだ。皆で分けたいんだが、手配してくれないか」


「それはありがたいです。我々が分配します」

 俺たちは小麦粉を列車に運び込んだ。列車に乗っていた探索者たちも小麦粉と聞いて手伝ってくれた。


 列車が走り出し、役人に今回の作戦は成功だったのか尋ねた。

「はい。概ね成功でした。ただ守護者に殺された者もいます。こういう作戦の場合は、仕方ないと上は判断しているようです」


 探索者をしていれば、異獣に殺される者も出る。仕方ないと割り切るしかないのだが、何とも言えない気分になる。


 耶蘇市に列車が停車する。俺たちが列車を降りると同時に、東下町の探索者がプラットフォームに姿を現した。ほとんどは知らない男だったが、中に一人だけ有名人が交ざっていた。


 プロの格闘家である浅井鬼一だ。総合格闘家でテレビで見たことがある。

「浅井鬼一よ。フロリダ州にいると思っていたけど、日本に帰っていたのね」


 日本チャンピオンにもなったことがあり、かなりの実力者だった。

「でも、今頃ガーディアンキラーになったんだろ。遅くないか?」


 河井は浅井ほどの格闘家なら、ずっと前にガーディアンキラーになっていても、おかしくないと言いたいらしい。


「でも、人間相手に戦うのと、異獣を相手にするのは違うからな。それに格闘家は武器を持たずに戦うのが基本だろ。武器なしじゃ、異獣はキツイ」


 俺が答えると、河井が納得したように頷いた。

「そんなことより、帰りましょう」

 美咲に言われて、俺たちが駅を出ようとすると、浅井が近寄って声をかけた。


「おい、あんたたちもガーディアンキラーになったのか?」

「いや、俺たちはガーディアンキラーになる手伝いをしていたんだ」


 俺が答えると浅井が目を見開いた。

「そうか、あんたたちが東上町の探索者か。確か摩紀小次郎だろ。あんたは有名だぜ」


 自分も同じ有名人だという感じだ。

「浅井鬼一さんだろ。昔、テレビで見たことがある」

「嬉しいね。同じガーディアンキラーになったんだ。よろしく頼むぜ」

「ああ、こちらこそ、よろしく」


 浅井は美咲とエレナを値踏みするように見てから、東下町へ戻っていった。

「凄い自信家みたいですね」

 エレナが浅井について感想を言う。


「実力が伴っていればいいんだけど、異獣はパンチで倒せるような相手じゃないん……」

 美咲が河井に視線を向けた。

「そうか、『五雷掌』のスキル持ちなら、パンチでも倒せるのか」


「ゴブリンだったら、コジローも倒せるだろ。それに浅井が素手で戦うスタイルかどうかは、分からないぞ」

「まあ、そうね。馬鹿じゃない限り、武器を選ぶでしょう」


 俺たちは浅井を話題にしながら、東上町へ戻った。

 保育園に入ると、子供たちがエレナを見つけて走ってきた。

「エレナ先生」

 子供たちがエレナに抱きつき、嬉しそうに笑う。


 メイカが俺に駆け寄り抱きついた。

「コジロー兄ちゃん、お帰り」

「ただいま。元気にしてたか?」

「うん、メイカは元気、でも、お肉がなくなっちゃった」


 武藤たちは食料エリアには行かずに、漁をしていたらしい。なので、肉が無くなったのだという。飼い始めた鶏と豚は、もう少し数を増やさないとダメなので、食料エリアへ行く者がいないと肉がなくなるのだ。


「明日、甲冑豚を狩ってくるから、今日は魚にしよう」

 メイカが顔を歪めた。魚より肉が好きなのだ。


 翌日、俺とエレナは転移ドームへ向かった。河井と美咲は休みである。偶には休まないと過労死するという。

「個体レベルが上がっているから、過労死はしないと思うけど、休みは必要だ。俺たちの休みは明日にしよう」


「ええ、メイカちゃんのお願いがありますからね」

「でも、武藤さんたちは、どこまで漁に行ったんだろ」


「二日も帰っていないんでしょ」

 武藤たちは船で大物釣りに行ったらしい。まさか遭難したということはないと思うが、少し心配だ。


 公園の入口で竜崎と昨日知り合った浅井たちと出会でくわした。

「コジロー、お前たちも食料エリアか?」

「ええ、甲冑豚を狩ろうと思って。竜崎さんもですか?」


「そうだ。こいつらが本当にガーディアンキラーになったかどうかも、確かめたかったんでな」

「じゃあ、途中まで一緒に行きましょう」


 俺たちと竜崎たちは転移ドームへ向かった。

 転移ドームの壁からリンク水晶を外しているので、行き先を選択せよという声はしないはずだ。


 ドームに入って模様の前に立ち、俺たちから先に食料エリアへ転移した。転移した後、ストーンサークルの外へ出る。


「どっちへ行こうか?」

「そうですね。今日は西へ行って見ましょうか?」


 西の方角には池のようなものが見える。

「おい、何であっちが西だと分かるんだ?」

 背後から声がした。浅井が転移してきたようだ。


 竜崎も不思議そうな顔をしている。俺は蓬雷山と名付けた山を指差した。

「あの山を『蓬雷山』と名付けた。そして、仮に北ということにしたんだ」


 竜崎が『なるほど』というように頷いた。

「そいつは便利だな。俺たちも利用させてもらうよ。君たちが西に行くなら、自分たちは東に行ってみる」


「そっちに行くなら、巨虎に気を付けろ。たぶん竜崎さんなら大丈夫だと思うけど」

 浅井が鼻で笑った。

「ふん、虎ぐらいなら、僕でも倒せるさ」


 実力を知らないので何とも言えないが、自信家だというのは分かった。


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