第69話 ゴキブリ区

 大澤町の守護者は、全て倒した。

「どうする? もう、帰るのか?」

 武藤が尋ねた。まだガーディアンキラーとなっていない柏木・黒井・二之部の三人に視線を向けた。


「それじゃあ、柏木さんたちが可哀想だ。三谷町へ行きましょう」

 俺の提案を聞いたエレナが、鋭い視線を俺に向けた。

「そういうことなら、私たちは大澤町で留守番しています」


 美咲も頷いた。

「そうね。ゴキブリ区の守護者を倒して、ゴキブリ護符を手に入れたら合流する」

 余程一メートルのゴキブリが嫌なようだ。


 男性陣だけでゴキブリ守護者を倒すことになった。

「何か、美咲さんたちだけ、ずるくないですか?」

 高校生の二之部が言う。武藤が苦笑した。


「だけど、女性は生理的に嫌いな人がいるからな。無理に戦えとは言えないぞ」

「僕も嫌いなんですけど」

「いい機会だから、苦手意識を克服しろ」

「うわっ、差別だ」


 話しながら三谷町に進んだ俺たちは、巨大ゴキブリが居るという三谷町に到着した。

「前に来た時は、この辺りで遭遇したんだ」

 弘樹が言った瞬間、待っていたかのように巨大ゴキブリが這い出てきた。


 その姿を見て、嫌な気分になる。ゴキブリに似た昆虫型異獣だと思っていたのだが、ゴキブリをそのまま巨大化した姿を見て、その認識を改めた。


「こいつは、ゴキブリだな。何でゴキブリが巨大化しているんだ?」

「そんなのどうでもいい」

 二之部が【爆炎撃】を放った。巨大ゴキブリがスッと避け、二之部に向かってきた。


「うわっ」

 叫んだ二之部がウォーハンマーを振り下ろす。俺が製作したウォーハンマーは、先端が金槌と鋭い爪の形になっている。二之部が振り下ろしたのは、三〇センチほどの爪の方でゴキブリを刺し貫いた。


 その途端、巨大ゴキブリがわらわらと這い出てきた。

「近寄らせるな」

 巨大ゴキブリは近付いて人間の肉を食べようとする。弘樹たちが巨大ゴキブリを嫌っていたのも当然だ。


 俺は影刃狼牙棒の【螺旋影刃】を使って、巨大ゴキブリの頭を貫いた。それから迫ってくるゴキブリを片っ端から倒し、心臓石に変える。


 どのくらい戦ったかは分からないが、やっと巨大ゴキブリが駆逐された。

「巨大ゴキブリの心臓石は、闇属性なんだな」

 黒井が心臓石を拾い上げて呟いた。


 闇属性の心臓石が大量に手に入ったので、またシャドウバッグを作れそうだ。

 ゴキブリ区を探し回って、守護者のいる場所を発見した。そこは大きなスーパーマーケットだった。


 中に入った俺たちは、三メートルほどもある真っ黒なゴキブリと遭遇した。

「ゴキブリキングだ」

 忠宏が嫌そうな声を上げた。


「ねえ、こいつは誰が倒すの?」

 三弥がまだガーディアンキラーでない三人に尋ねた。


 三人とも譲り合って自分が倒すとは言わない。そこで俺が告げた。

「それじゃあ、三人で攻撃してもらい。誰が倒すかは神様に決めてもらおう」


 子供の頃にした遊びの中に『山崩し』というゲームがある。砂を盛った山の頂点に棒を立て、棒を倒さないように砂を取り、棒を倒した者が負けというゲームだ。


 今回の戦いは、それに似ていた。ゴキブリキングが強敵だったら違った戦いになっただろうが、この守護者は強敵ではなかった。


 三人は順番に攻撃し、少しずつゴキブリキングにダメージを与えた。そして、二之部がウォーハンマーを守護者の背中に叩き込んだ時、動かなくなった。


「嘘だぁー!」

 二之部が叫んだ。その叫びを耳にした俺は、苦笑いするしかなかった。


 幸いなことに守護者を倒した褒美は、一つのスキルをマックスまでレベルアップするというものだった。二之部は『操炎術』をレベルアップさせた。


 個体レベルも上がった。苦痛に耐えた二之部は分裂の泉の前に立った。服を脱いでトランクスだけになった二之部が、

「『五雷掌』のスキルを手に入れられるチャンスだったのに……」


 武藤が早く入れと促した。

「全員がガーディアンキラーになったら、次の守護者は譲ってやるから、ゴキブリ護符を選べ」

「分かった」


 二之部は制御石の選択でゴキブリ護符の作り方を選んだ。

「コジロー、ゴキブリ護符は普通のゴキブリにも効くのかな?」

 俺は首を傾げた。大きさは別にして同じに見える。もし効果があるのなら、家庭の必需品になるかもしれない。


 俺たちはエレナたちと合流して、三谷町の奥へと向かう。ゴキブリ護符を身に着けた俺たちには、巨大ゴキブリが近付かなくなり、二人も安心したようだ。


 三谷町にはゴキブリ区の他に亀人区・さい人区があり、亀人区の守護者を倒したのは黒井だった。その守護者は甲羅を纏った亀人間だったが、防御力が高く倒すのに苦労した。


 そして、一番苦労したのは犀人区の守護者だ。パワーとスピードがあり、武藤と同じバトルアックスを武器とする守護者で、無尽蔵のスタミナを持っていた。


 その守護者を倒す役割を割り当てられたのは、柏木だ。身長が三メートルある犀人キングは、凶悪な威力を持つバトルアックスを振り回し、柏木に迫る。


 俺たちは援護するために、犀人キングの手足や肩を攻撃した。

「俺たちが手足を潰すから、柏木さんは首に槍を突き立てるんだ」

「了解」


 犀人キングを取り囲んだ俺たちは、守護者の手足を切り刻み穴を開けた。そして、犀人キングが倒れた瞬間、柏木が突進して、笹穂槍を首に突き立てる。


 守護者の褒美は、亀人区の守護者を倒した黒井と同じく、全てのスキルを一つレベルアップすることだった。そして、制御石の選択で手に入れたスキルは、黒井が『八段錦☆☆☆』という気功関係のスキルで、柏木が『念動力☆☆☆』だった。


 『八段錦』のスキルを手に入れた黒井は、身体が改造される苦痛を味わった。レベルシステムの気功は、どうしても身体に経脈を張り巡らす必要があり、激痛が付きものであるようだ。


 そのスキルが『小周天』と違う点は、自然治癒力を高める効果があるというものだ。『小周天』にも少しだが、そういう効果もある。だが、『八段錦』の方が効果があるらしい。


 柏木が選んだ『念動力』は、意志の力で物を動かす力である。但し、生物の体内には効果を及ぼせないようだ。生物の持つ意識が邪魔するらしい。


 弘樹が目を輝かせた。

「『念動力』か、凄えな。それでどれくらいの物を動かせるの?」

「スキルレベル1だと、二キロの重さが精々だ」


 スキルレベルで動かせる重さと範囲が変わるという。それを聞いた武藤がニヤッと笑った。

「農業や漁にも便利そうなスキルだな」

「えっ」

 そう言われた柏木は嫌な顔をする。高いところに実っている柿などの果物を、念動力で収穫する自分を想像したようだ。


 俺は全員の顔を見回した。

「これで全員が、ガーディアンキラーとなったわけだ。どうする?」


 俺がどうする、と尋ねたのは、三谷町を探索している間に発見した食料エリアへの入り口の件だった。三谷町にも公園があり、そこにドーム型の建物が存在した。


「確認するしかないでしょう?」

 美咲が主張した。その意見には俺も賛成だ。他の皆も賛成らしい。

「私も賛成しますけど、今日は休んで明日にする方がいいと思います」

 エレナが疲れた顔をしている弘樹たちを見て言った。


「そうだな」

 三谷町で野営して、翌日に公園へ向かった。形や大きさは耶蘇市のものと同じだ。内部に入ると同じような模様が描かれている床がある。


「あれは何かしら?」

 美咲が内部の壁に紫色の水晶玉が五個嵌め込まれているのに気付いた。俺は近付いて水晶玉に触れる。その時、頭の中に水晶玉についての知識が流れ込んだ。


「わっ、びっくりした」

 美咲が首を傾げている。

「どうしたの?」

「水晶玉の使い方が分かった」


 美咲も近付いて水晶玉に触れた。そして、驚いた顔をする。その水晶玉は他の転移ドームとリンクするキーとなるものらしい。


 転移ドームには同じような水晶玉があり、それを交換して壁に嵌めれば、三谷町の転移ドームから入って耶蘇市の転移ドームから出ることも可能になる。


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