第38話 小山農場の農作業

 保育園にログハウスが完成すると、俺はログハウスで寝起きするようになった。すると、保育園の子供たちや保育士たちも一日の半分をログハウスで過ごすようになる。


 本来、保育園は生活する場所ではないので、何かと不便なのだ。それにちゃんとした屋根のある厨房や風呂は、魅力的だったらしい。


 ログハウスのダイニングで食事をしていると、河井が来た。今日は小鬼区の農地を整備することになっていたのだ。


 食事を終えた俺とエレナが支度をして、小鬼区へ向かう。小鬼区の農地は二箇所、小山の上にある農地と一〇アールほどの小さな農地である。


 小さな方は武藤たちに任せることにした。俺たちは小山の上にある農地、河井が『小山農場』と名付けた農地へ行った。この小山農場には、物置小屋と小さな作業小屋があった。


 その作業小屋で出荷作業の箱詰めなどを行っていたらしい。物置小屋にはかまくわなどの農具、それにトラクタが置いてあった。但し、トラクタには燃料が入っておらず、使えなかった。


 俺たちは鍬を使って畑を耕し始めた。俺の筋力はレベルアップにより、通常人の五倍ほどになっている。ただ力が五倍になったからと言って、畑を耕す速さも五倍かというとそうでもない。


 深く耕せるようにはなったが、速さは二倍から三倍ほどでしかなかった。漫画やアニメに出てくる主人公のようにはいかないらしい。ただ二時間ほど続けても全然疲れない体力があるので、一日でかなりの面積を耕せる。


「ううっ、腰が……。コジロー、魔法みたいなもので、一気に耕せないのか?」

 腰に手を当てた河井が弱音を吐く。河井の個体レベルは『07』になっていた。ゴブリンの相手を、すべて河井に任せた結果だろう。


「魔法? ああ、操術系スキルのことか。できるのかな?」

「なんだ。知らないのか」

「取得したことのないスキルは、知らないよ。お前が取ればいい」


 河井が嫌そうな顔をする。

「そうしたら、自分だけに畑を耕させる気だろう」

「当たり前だ。便利なスキルは使わなきゃ損だろ」


 そんな冗談を言いながら、俺たちはジャガイモとサツマイモを栽培する畑を耕した。数日かけて整備した畑に、芽が出たジャガイモとサツマイモの苗を植える。


 このジャガイモの種芋とサツマイモの苗は、吉野から分けてもらった。昨年の夏に収穫したものの中から小さなものを選んで保存していたものだという。

 俺たちは、お返しに労働力を提供する予定だ。


 ここの農地で一番の問題は、水のようだ。元の持ち主は、雨水を池に溜めて使っていたらしい。

「この溜池も整備しないとダメだな」

 溜池には半分くらいまで水が溜まっている。水草が生い茂り、池の底には泥が溜まっている。一度泥を掻き出して、綺麗に掃除する必要がありそうだ。


「ジャガイモとサツマイモだけでは、畑の二割も使ってません。後はどうするんです?」

 エレナが尋ねた。

「大豆やカボチャを栽培しよう。まあ、将来的には小麦かな」


 小麦の栽培は難しいと聞いたので、簡単なものから栽培しようと決めていた。それに小麦と米は、異獣のテリトリーを探せば、まだ見つかりそうだ。


 河井が水筒の水を飲んで一息ついた。

「なあ、最近レベルアップしなくなったんだけど、どうしてだろう?」

「決まってるだろ。ゴブリンから得られる経験値みたいなものでは、上がるのに時間がかかるようになったんだ」


「そうか、そんなところもゲームに似ているんだな」

「どうする? ホブゴブリンと戦うか、それとも獣人区に行くか?」


「獣人区というと、オークか。ホブゴブリンとどっちが強い?」

 河井が目を輝かせた。俺たちが獣人区に連れて行ってくれる、と気づいたからだ。

「強さで言うと、ホブゴブリンが強いな」


「オークがいいな。連れて行ってくれるんだろ」

「まあ、頑張っていたからな。だけど、お前の武器は戦棍だろ。スキルレベルはどうなんだ?」

「あんまり上がらないな。自分には合ってないかも」


「そう思うなら、武器を変えろよ」

 俺の言葉に河井が難しい顔をする。どんな武器が合ってるか分からないのだろう。


「オークの牛刀を使ってみるか? あれなら手に入れられるぞ」

「そうなのか、どうやるんだ?」

 俺は異獣の武器を奪う方法を教えた。


「そんなやり方で武器を奪うんだ。その擂旋棍が、何で消えなかったんだろうと思っていた」

 俺たちは農具を物置小屋に仕舞ってから、小山農場を出た。


 小山を下りて西に向かう。獣人区に入ると、河井が緊張した顔になった。

「オークが出たら、俺が相手するから」

 五分ほど歩いた頃、オークと遭遇する。


「うわっ、オークってデカイんだな。それに豚顔、猪じゃないんだ」

 河井が感想を言った。それに答えるようにエレナも口を開いた。

「いつも思うんですけど、オークはつぶらな眼をしてますよね。でも、可愛くないのはなぜでしょう?」


 返答に困った俺は、凶悪そうな牙のせいじゃないかと答えた。その悪口が聞こえたのだろう。オークが牛刀を振りかざして襲ってきた。


 俺は擂旋棍を牛刀を持つ腕に叩き込んだ。落ちた牛刀を素早く拾い上げ、痛そうに腕を押さえているオークの首に叩き込む。そのオークはあっさりと死んだ。


「本当に、包丁が消えずに残っている」

 河井は牛刀が残っていることに驚いていた。俺は牛刀を河井に渡した


「ありがとう。試してみるよ」

 河井は玩具をもらった子供のように喜んだ。ただ牛刀でオークと戦うには度胸がいる。河井より身長も体重も上回っている相手と戦うことになるからだ。


 次のオークに遭遇した時、河井が戦うことになった。そこでアドバイスを贈る。

「オークの動作は遅いから、敵の攻撃を確実に躱して首に斬りつけろ」

「わ、分かった」


 頼りない返事なので、俺は腰のポーチから投げナイフを取り出した。河井が危なくなった時の用心のためである。


 オークが牛刀を振り回す。河井は大きく反応して跳び下がった。初めて戦う相手なのだから慎重になるのは当然である。


 河井は一〇分ほど激烈な戦いを繰り広げ、隙を見つけてオークの首に牛刀を突き入れた。オークが粉々に分解し粒子となって消えた。


「はあはあ……しんどい」

 河井が息を切らして、道路に座り込んだ。

「早く立て!」

 俺が河井に怒鳴った。


「少しくらい休ませてくれよ」

「バカヤロー、周りを見てみろ」

 河井が顔を上げて周りを見る。オークが八匹で周りを取り囲んでいるのが目に入ったようで、叫び声を上げて立ち上がった。


「いつの間に?」

「一匹に時間をかけ過ぎなんだよ。後ろで休んでろ」

 俺は擂旋棍を持って前に出た。エレナは弓に爆裂矢を番えて引き絞る。


 跳び出した俺は、擂旋棍に気を流し込む。最近では回転する先端を『旋刃せんじん』と呼ぶようになっていた。その回転する旋刃をオークの頭に叩き付ける。一撃でオークの頭が消し飛んだ。


 俺の目の端に矢が飛びすぎるのが見えた。エレナが放った爆裂矢である。一番端のオークの腹に矢が突き刺さり、爆発音と同時に胴体が二つに千切れオークが消えた。


 爆裂矢は相当な威力があるようだ。ソードサウルス程度なら、仕留められる威力である。

「凄え、弓矢もいいな」

 河井が声を上げた。


 俺はオークの集団に跳び込んだ。オークの動きを見極めながら、その頭や首に擂旋棍を打ち込む。その一撃でオークの命を刈り取った。


 俺とエレナは瞬く間にオークを壊滅させた。オークの心臓石を回収していると、ホームセンターがある方角で爆発が起きた。


「何事だ?」

 見ると、ホームセンターから黒い煙が上がっている。

「コジローさん、どうします?」

「危険には近付きたくないが、情報収集を怠れば判断を誤る。偵察に行ってみよう」


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