星のかけら

ふるふる

『星のかけら』

金魚のポン太が死んだとき、お母さんは「ポン太はお星様になったのよ」と言った。

猫のマロンが死んだときも、お母さんは「マロンはお星様になったのよ」と言った。

そんなのウソだ。

夜空を探してもポン太もマロンもいない。

ポン太は庭に埋まっているし、マロンは焼かれてペット霊園のお墓の中だ。

星にはなっていない。


おじいちゃんが亡くなったと連絡があった。

飛行機で行く距離に住んでいるので何年かに一度会うくらいだったけど、物知りでお茶目な人だった。

最期は家でおばあちゃんに看取られて亡くなったらしい。

私は両親と一緒におじいちゃんのお葬式に出かけた。


遺影のおじいちゃんは笑っていた。

棺の中のおじいちゃんは硬く冷たかった。

おばあちゃんは泣かなかった。

お葬式に来た人に挨拶したり、お礼を言ったりしていた。

おじいちゃんとおばあちゃんは仲が良くて、毎年2人で旅行に行った写真が年賀状で送られてきていた。

そんなに仲が良かったのに、おばあちゃんはおじいちゃんが死んじゃってさみしくないの?


お葬式が終わって、おばあちゃんと私の家族だけになったときに聞いてみた。

「おばあちゃんは、おじいちゃんがいなくなってさみしくないの?」

「さみしくないよ。おじいちゃんは星のかけらになったんだからね」

「星のかけら?星じゃなくて?」

おばあちゃんはうなずいた。

「私も、おじいちゃんから聞いたんだけどね」

夕焼けに染まった縁側に座って、おばあちゃんは話し始めた。


『星間物質』って知ってるかい?

宇宙に漂ってる小さな分子だよ。

それに衝撃が加わると星ができる。

星のかけらだね。

生き物も星のかけらから出来たんだよ。

大昔の大気に電気を当てたら、生き物の元になるアミノ酸が作られたっていう実験で科学的にも証明されてるんだよ。

私たちは星のかけらから生まれたんだよ。


『色即是空』って知ってるかい?

仏教の教えで、この世のあらゆるものは形をもっているけれど、その形は仮のもので、本質は空(くう)であり、変わらないものはないっていうことだよ。

今の姿は仮の姿で、死んだら、煙になって、灰になって、土に溶けて、空(くう)になるんだよ。

おじいちゃんはおじいちゃんの姿が終わって、星のかけらに戻ったんだよ。

星のかけらから生まれて、星のかけらに戻る。

それをおじいちゃんが教えてくれたから、おばあちゃんはさみしくないんだよ。


そう言って、おばあちゃんはお茶を啜った。


ポン太もマロンもおじいちゃんも星のかけらになったんだ。

永い永い時間をかけて、また生き物の姿になるかもしれない。

そう考えると、少しさみしくなくなった。


「まあ、生きてるうちにやりたいことがたくさんあるから、私は星のかけらにはならないけどね」そう言って、おばあちゃんは笑った。







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