第8話
ネコの瞳には沢山の新しいものが映った。
赤や青や黄に光る頭を持つのっぽ。道端に落ちている、二股の頭を持つ紐。筒状の、赤くて甘い匂いがする汁が少し入った、カラカラと音の鳴るもの。透明な壁越しにこちらを見ているネコ。
俺が眠っている間に何があったというのだ。大方、この変化はニンゲンによってもたらされたものだろう。ニンゲンとは本当に恐ろしい。俺は長い間ニンゲンを見てきた。ニンゲンたちはその知性を活用し、発展してきた。
ニンゲンという種族は俺に衝撃を与えた。非力であるにもかかわらず、今目の前にその結果が表れているように急激に発展し続けている。いや、非力であるからそれを補うために発展せざるを得ないのだろうか。兎に角、異様な生き物である。
ひどい目にあった。
黄色い帽子をかぶり、黒い箱を背負ったニンゲンの子に追いかけ回された挙句捕らえられ、体中を撫でまわされた。不快極まりない。不愉快だ。許せない。俺はニンゲンの子の腕に爪を突き立てて怯ませ、逃げ出した。
食ってやろうかと思ったが俺の体の一部に過ぎないネコの姿では食うことができないし、あのニンゲンの子はまずそうだった。あのニンゲンの子からは幸福の臭い、愛されている臭い、喜びの臭いがした。俺の糧となるには最悪である。やはりニンゲンは恐ろしい。
そうこうしている間に暗くなってきた。夜が来た。記憶にあるなかでも、一段と月が煌々と輝いているように感じられた。
夜になると悲しみが増える。旨そうな臭いが漂ってくる。俺は夜が好きだ。
今日は疲れた。歩き回ったし、ニンゲンの子に襲われた。それに、起きてから何も食べていない。
今日は探索をこの辺で切り上げよう。
またニンゲンに追い回されたらと思うと恐ろしい。細い道をわざわざ選び、ネコはあのお社へと歩き始めた。
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