第7話
ここはどこだ?俺はどんどん沈んでいく。粒が俺を避け、通り抜けていく。この粒はなんだ?黒、白、赤、黄…挙げればきりがないほどに色とりどりの粒の海の深みにはまっていく。
手で粒を掴み、よくよく観察してみる。大小さまざまな大きさだ。
眼だ。この粒全てが眼だ。
全ての眼が落ちる俺を見つめている。ある眼はうっとりと何かに見惚れているようであり、ある眼は肉親を殺されたかのような憎悪を表しているようである。
ああそうか。これらは俺が今まで食ってきた、悲しみを抱えていたものたちの眼だ。
俺が食うのはニンゲンだけではないのだが、食われる間際の表情というのは十人十色である。食われることで悲しみから逃れられる、と笑みを浮かべるものもいれば、食われるなんて御免だと睨みつけるものもいる。前者は味が落ちる。俺は断然後者を好む。
ひとつひとつ眼を見る。今までの食事についての記憶が甦る。こいつはそれほど旨くなかったな、あいつはものすごく旨かったなぁ。
ああ、目が覚めた。俺は夢を見ていたらしい。何年眠っていたのだろうか。
扉の隙間から外を覗いてみる。眩しい。
ほうほう、様変わりしている。地面は平らな岩で覆われており、その上を時々塊に車輪を付けたようなものが走り抜けていく。地面には石の柱が何本も生えている。石の柱の上の方には紐がついており、その紐で石の柱同士が繋がれている。なんだこれは。
もっとどうなっているのか詳しく見たい。さて、どうしようか。もしもニンゲンに気づかれたら面倒なことになる。
稀に俺の姿を見ることができるニンゲンがいる。経験上、そいつに見つかると水やら塩やらかけられてごにょごにょと何か唱えられる。すると俺は力が抜けていくような感覚に襲われる。俺はあの感覚が嫌いだ。
思考を巡らせながら外を眺めていると、毛に覆われた動物がやってきた。以前ニンゲンが「ネコ」と呼んでいたような、呼んでいなかったような。
長いしっぽに三角形の耳を持ったそいつは、俺と目が合うなり逃げていった。
「ネコ」に化けて外に出てみようか。
俺は体の一部を切り離し、ネコの形にした。色を付けるのは面倒だ。真っ白にしよう。そして俺の眼を二つつけてやった。
白いネコは外へと出かけて行った。
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