第6話

 安定した統治のために利用された張りぼての神。それは完全なる張りぼてというわけではなかった。

 お偉いさんの都合のいい推測は的中していた。お椀には付喪神が宿っていた。伊達に長年受け継がれている訳ではないということだった。


 人々に信用されなくなっても、お椀の付喪神は存在し続けた。お社も残り続けた。時々お社を手入れする者はいたものの、その存在は人々には忘れられたようだった。

 道具として使われることもなく、お社の中に収められたお椀の付喪神。そいつは大きな悲しみを抱えた。悲しみながらも存在し続けた。



 俺はそいつに目を付けた。大きな悲しみを抱えるそいつは、それはそれは旨そうだった。


 俺は美食家だ。旨いものに目がないし、旨いもののためなら努力を惜しまない。もっとあいつを美味しくしたい。

 俺は夜な夜な闇に紛れてそいつに近づき、心の傷を抉った。

「お前は誰にも求められてなどいない。お前はニンゲンどもを騙していた。お前は飢えるニンゲンどもから供物を奪っていた、とんだ迷惑な奴だ。」

 

 呪詛を唱え続けると、そいつはさらに旨そうになっていった。やがてそいつの中はほとんどが悲しみになった。思い出すだけで堪らない。

 そして、俺は神を食った。

 今まで食べた中でも屈指の旨さだった。暫らくその旨さに憑りつかれるほどだった。


 神を食ったのち、がらんどうになったお社に俺は留まることにした。

 丁度良い寝床が見つかった。久しぶりに俺は眠りについた。

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