或る化け物の話

第5話

 昔の話だ。

 とある雪国に神がいた。神はその土地の五穀豊穣を司るとして崇められていた。

 その正体は、そんな大層なものではなかった。神の中でもそれほど力を持たない下っ端の神だった。

 

 よくある話だ。米の出来が良くない年が続き、重い年貢にもう我慢ならない農民たちは一揆を起こさんと計画を練っていた。しかし、夜な夜な数名の農民がある家に集まっていく様子が度々見られたことにより、お偉いさんは不穏な気配を感じていた。

 お偉いさんは焦る。明日にでも農民が蜂起するのではないかと日々怯えた。そうなっては困る。精神的に追い詰められたお偉いさんは、ある計画を実行することにした。

 計画というのはこうだ。お偉いさんの家に長年伝わるお椀をご神体として、それを祀るための小さなお社を建てる。長年伝わるお椀なら付喪神でも宿っているだろうと思ったのだった。そして、農民たちに「これは五穀豊穣を司る神を祀っている。この土地は守られているから安心しろ。」といった内容のことを言う。

 それを聞いた農民たちはコロッと騙された。というのも、その小さなお社が完成した年、米の収量が大幅に増えたのである。

 

 幸運にもそれからは豊作が続いた。この神は崇められ続け、小さなお社は古くなり、建て替えが行われた。できる限りの意匠をこらした、立派なお社へと変貌を遂げた。



 その後、大飢饉があった。ニンゲンはばたばた死んでいった。ニンゲンがニンゲンを喰らうほどに、皆飢えに苦しんだ。

 農民たちは飢えに苦しむなか、あの神に祈りを捧げ、食べ物を捧げた。だが救われなかった。

 最早あの神を信じる者はいなくなった。



 

 

 


 

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