ありがた迷惑

 家に帰ると、居間にはエディ・マクスウェルが居た。

 義兄と向かい合って話しているので、二人のソックリな見た目をついつい見比べてしまうが、さっきの王妃との会話を思い出し、従兄に対してのイライラが蘇る。


「エディさん! 何てことしてくれちゃったですか!」

「うわっ! 無言で目を見開いてると思ったら、急に怒りだした!」

「どーして王妃様に私の情報を売ったですか!!」


 一瞬キョトンとした顔をしたエディだったが、悪びれるどころか、弾けるように笑いだす。


「あぁ!! ちょうどガーラヘル王国の政治家の身辺を調べなきゃならなくてさ、王妃様と情報交換になったんだ。悪かったな」

「ぐぐぐ……むかつくんです」


 ステラとエディの会話を、ジェレミーはティーカップを傾けながら静かに聞いていたが、エディの返答のうさん臭さが気になったのか、カツンッとソーサーにカップを戻し、寒々とした笑みを浮かべた。


「どういうことなのかな? 僕にも説明してもらえる?」

「エディさんが私と王妃様の関係について、王妃様に伝えちゃたんです!」

「なるほど? エディ、君、よっぽど帝国に逆戻りしたいみたいだね」

「逆戻りは嫌だ! 一応言っとくけど、俺は善意で王妃様にステラさんとの関係を教えてあげたんだ」

「ふんだっ! そんなの信じられるわけねーです!」

「ちょっと待て。ステラさんがそんなに怒っているのはなんでだ? 王妃様に拒絶された?」

「!? 拒絶なんかされてないです! えっと……私はちょっと、どーよーしてるです。だって、エルシィさんは私と結婚する気でいたみたいなのに、今日妹だと知ってガッカリしてたです。知らないでいた方がエルシィさんは幸せでいられたと思うんです」


 ステラがたどたどしく自分の考えを言葉にしてみたのに、居間は少しの間シーンと静まりかえった。

 何か変だったかと、話した内容を振り返えり、だいぶおかしかったと反省する。

 しかし今更出した言葉を引っ込めるのは難しい。

 いつでも逃げれるように、一歩ドアに近づいておく。


 充分な沈黙の後に、義兄が淡々とした口調で話し出す。


「エルシィ様からは時々不穏な空気を感じ取ってはいたんだよね。それがまさか、ステラちゃんとの結婚を目論んでいただなんて、想像もしていなかったな。お姫様だからと甘く見てしまっていたかもね」

「あー……、まぁアレだ! 帝国では極秘裏に性転換アイテムなんかも開発されていたりするんだ。もしかすると、ロイヤルパワーを行使して、手に入れるつもりだったのかもなぁ。どっちかが雄なら子供が出来るわけだし」

「エディ。そういう話は冗談でもやめてもらえるかな」

「ちょっと待ってください! ってことは、私がエルシィさんの妹じゃなかったなら、男の人になった可能性もあったですよね!」


 アイテム士としての性分としてその性転換アイテムとやらに興味津々だし、男になった自分の姿にも妄想がはかどる。


「私が男の人になったら、絶対二人よりもイケメンになるですよ! 女の人にモテモテなんです! うへへ~」

「ふふ。ステラちゃんが男体かぁ……。結婚は許さないけど半ズボンを縫ってあげたい気持ちはあるから、もし性転換したなら、隠さず教えてほしいな」

「ロリからショタに変わるだけだよな。相変わらずぷくぷくしてたら見た目の変化なさそう」

「~~っ! やっぱり腹が立つんです! 私はアイテムを作りに行くから、もうこんな所に用なんかねーですよー!」


 義兄と従兄の馬鹿馬鹿しい会話にウンザリし、ステラは居間を出て行こうとする。

 しかし、ドアに手をかけたところでエディに呼び止められてしまった。


「ステラさん。今回のことは、悪かった。でも、俺の目から見て、ステラさんには王妃様のフォローが必要だと判断したんだ。だから、あの方も自由に動けない身の上だけど、どうにか繋がってほしかった」

「むぅ……。っていうか、何で私の身の上を調べたです? ラインごえだと思うです」

「幼い頃は俺だってここで訓練してたんだ。成長が遅くて、しかも王妃様にソックリな従妹を調べたくなっても不思議じゃないだろ?」

「う~~ん」

「血の繋がった母親と会ってみて、どうだったんだよ?」

「……嬉しかったですよ。娘って、ちゃんと言ってくれたから。とっても嬉しかった。でも、もう二度と勝手に調べ回ったり、私の情報を渡したりはしてほしくないです。エディさんを信用していたいです」

「もうしない。約束する」

「うん」


 王妃様が優しい人だったから、結果としてステラは幸せな気分になれた。

 だけど、もし王妃様がヤバイ人だったなら、認知されないほうがマシな可能性だってあったはずだ。

 だからやっぱり、今回の件は刺しておくので正解なのだ。


 ◇


 作業部屋に入ると、アジ・ダハーカとティターニアがテーブルの上に並んで座り、酒盛りを始めていた。


「まだ夕方なのに、もうアルコール摂取しているですか」

「うむうむ」

「歳をとると、夕方に燃料を補給せぬと、夜中まで元気でいられぬようになるのじゃ」

「ふむぅ? 石油ストーブみたいな体してるです」


 酔っ払い達と適当な話をしながら、リュックの中身を整理し始める。

 そこで、ふと思い出す。

 アジ・ダハーカとティターニアに質問したいことがあったのだ。


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