実の姉妹

 霊廟れいびょうから出た後、ステラは王妃の私室に招かれ、暖かい室内で暫く身体を温めた。その間に、王妃の侍女がステラの”黎明れいめいの香”の納品状態を聞きに行ってくれ、大変楽することが出来た。


 アイテムの方の品質は問題ないと思われたが、”黄昏の香”に半分ほど使ったため、かなり量が少ない。だから魔法省でも嫌みを言われたりして、時間がかかっていた。

 しかし、王室の神事部では何ら問題は無かったようだ。

 

 侍女が戻った際、待機所で待っていてくれたエマを連れて来てくれたので、ステラは彼女と共に、王城を出ることにした。

 しかしながら先ほど王妃に渡された剣を所持していては、衛兵に見つかった時に大変だ。なので、王妃の侍女に剣を厳重に包んでもらったうえで、彼女達にロイヤル・ロードまで送ってもらうことになった。


 こうすれば、衛兵の持ち物検査を免れられるとのことだったが、実際ステラは誰からも止められずにロイヤル・ロードまで来れてしまった。


 正門に整列中の衛兵の目が届かなくなってから、ステラは王妃にギュムッと抱きしめられる。


「ふぁ? ど、どうしたですか??」

「こんな事言える立場じゃないのは分かっているけれど……、ステラ。貴女の無事を祈っているわ。何が起ころうと、ヒトとしての、私の娘としての貴女の命を最優先にしてほしい」

「……」


 王妃はステラと国王の微妙な関係を知らないと思われる。

 だから、数日後ステラがやろうとしている事も分からないはずなのだが、こうして心配されているのは何故なのか? 彼女の直感とやらが働いているのだろうか?

 

「……大丈夫なんです。おかーさ……ん」


 ついポロッと敬意を忘れた言葉が出てしまう。

 マズイと思ったが、王妃の腕の力がより強くなり、肺の圧迫感で謝りそびえる。


(お母さん。周りから信用されていないって言ってたな。もし王室の儀式の後も無事だったら、支えてあげたり出来ないかな)


 王妃の侍女からは変な目で見られているけれど、こうして抱きしめられていると、心がポカポカしてくる。今日みたいな冷え込みの厳しい日でも、冷気を意識しなくなるのは初めてかもしれない。


 暫く二人でそうしていたのだが、聞き覚えのある声が耳に入り、現実に戻された。


「あら! そこにいらっしゃるのは、ステラさんではありませんのっ!?」

「わ! エルシィさん!」


 学校の友達であり、ステラの実の姉でもあるエルシィが、公道の方から付き人を伴って走って来た。

 彼女はまだステラが実の妹だとは知らないと思われるので、ステラと王妃の今の体勢には不信感を持たれそうだ。

 それでもエルシィは不審がるような素振りなど一切見せず、軽快に近寄って来る。


「エルシィ、トレーニング中だったのかしら?」

「えぇ、お母様。寒くなってからは屋内でばかり訓練をしておりましたから、気分転換に公道を走ってまいりましたのよ」

「若いっていいわね。こんな寒さでも身体が動くだなんて、考えられないわ」

「余裕ですわ! それよりも、ステラさんはどうなさったの? お母様とも知り合っていただなんて、とても嬉しく思います」

「よく聞きなさい、エルシィ」

「どうしましたの? なんでも聞きましてよ」


 ステラはハッとし、もそもそと王妃の腕の中から脱出する。

 もしかすると王妃は今ここで、ステラとエルシィの関係を伝えてしまうのかもしれない。やめた方が良いと伝えるために王妃の顔を見上げるが、ステラが止めるよりも早く、しかも明確に、本当の関係について口に出されてしまう。


「貴女とここに居るステラ・マクスウェルは血が繋がっているのよ。この子は私が産んだ実の娘。貴女達は姉妹なの」

「え……?」


 エルシィは大きく目を見開き、二、三歩後ずさる。

 酷く傷ついているようであり、ステラは申し訳ない気分になった。

 やっぱり自分と姉妹なのだと、知らないほうが良かったのだ。


「……私とステラさんは、結婚できないと言うのですか? お母様? また夢の中のお話なのでは?」

「違うわ。これは本当よ。マクスウェル家筋の情報屋に調べさせたの。貴女が紹介してくれたんじゃない」

「エディさんが!?」


 彼女達の話の中に出てきた親族の名前に、ステラは眉を寄せた。

 ガーラヘル王国に来ているのは知っているけれど、よりによってステラの情報を売るとは、良い根性をしている。

 そのうち文句を言ってやらないと気が済まない。


 腹を立てるステラを余所に、王族達は何故か結婚の話で盛り上がる。


「エルシィ、女の子と結婚は流石にさせられないわね」

「どうしてですの、お母様! 王族が同性婚をしたなら、国民の皆さんに多様な考え方をしてもらう良いキッカケになルでしょう!?」

「で、ですが、エルシィ様。貴女は世継ぎを生まなければならない身。女性であるステラさんと結婚なされては、いろいろと弊害があると思います!」

「お黙りなさい!」


 エルシィは付き人の頬を平手打ちした後、ボロボロと涙を流す。

 そして、とりつく島もなく、王城に向かって走り去ってしまった。


「うぅ……。エルシィさんが私の所為で、心に傷をおってしまったです。どうしよう」

「仕方がないわ。時が解決してくれるまで、待ちましょう」

「……うん」


 もしかしたら、実の姉妹だと分かったなら、エルシィは喜んでくれるかもしれないと期待していた。だけど、現実はそううまくいかないものだった。



 

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