妖精の国の頼れる友人

 隣国から帰国してから5日後の夜、マクスウェル家に来客があった。


 「大変美しい女性がいらっしゃいました!」と大慌てで作業部屋に駆けこんできたノジさんに手を引かれ、中庭に行ってみると、小さな池のほとりに絶世の美女がたたずんでいた。


 アゲハのごとき大きな羽は冴えた月の光に淡く輝き、金糸の長い髪が均整の取れた四肢を覆い隠す。

 久し振りに目にする芸術品のように美しい妖精――ティターニアに、ステラは言葉も忘れて見入ってしまう。


「ふぁ……」

「うふふ。相も変わらずわらわの【魅了】に弱いとみえる」

「ティ、ティターニアさん。あわわわわ……。エルシィさんに貰った首飾りを付けておけばよかったです!」


 家の中では自分に状態異常系の魔法を使う人はいないだろうと、たかをくくっていた所為で、同じ相手の同じスキルにかかってしまった。

 ちょっと悔しくなっていると、悪戯好きの妖精にコロコロと笑われる。


「すまぬすまぬ。もう使わぬよ」

「う、うん。えっと……、ティターニアさんがここに来てくれたのって、クローバーさん経由で私からの手紙を受け取ったからですか?」

「そうじゃ」

「ありがとうです!!!」


 テミセ・ヤの国立魔法女学院に住み着いている妖精クローバー777に手紙を出したのは、4日前なので、ティターニアの来訪は随分早いように感じられる。

 人間が使うルートとは別に、妖精達ようの郵便ルートがあるんだろうか?


「長らく妖精の世界に引きこもり続けていたゆえ、人助けのついでにガーラヘル王国の観光でもしようかと思っているのじゃ」

「おお~! 良かったらウチに泊まっていってほしいです!」

「それは断る」

「へ?」

「アジ・ダハーカが居たのでは、自由に遊べぬじゃろう? 何事も気ままがいいのよ」

「なるほどなんです」


 ティターニアはニコリと微笑んでから、パチリと指を鳴らす。

 すると、半裸の姿からお洒落な冬着の姿に変わった。

 背中から羽が消えて無くなり、白いコートにサングラス、高そうなバッグなど、ぱっと見どこかのモデルの様なよそおいだ。


「カッコイイんです! もしかして、人間が読むようなファッション誌を入手していたりするですか??」

「色々勉強しておるよ。お前の友人にレイチェルという娘がおるじゃろう? あの者が何故かピオニーづてに毎月送ってくれていてな」

「レイチェルさん!?」

「読んでみるとなかなか興味深くて、はまってるのじゃ」

「流石レイチェルさん。気遣い上手なんです」

「面白い娘じゃな。それはそうと、お前が手紙の中で気にかけていた人間の元に連れて行け」

「ほいっ! 付いて来てほしいです」


 心配そうに見守ってくれていたノジさんに、礼を言ってから、ティターニアと共に義兄の居る訓練所に向かう。


「MP――エーテルが増加していく体内の状態について、原因を知りたいのじゃったな?」

「そうなんです。専門書を読んでも書いてないし、学校の先生やアジさんも知らなくて……、困ってるんです」

「そのような現象に心当たりがあると言えばある。オスト・オルペジアを鎖国する前に、そのような話をしてくれた者がいたのじゃ」

「本当ですか!? 私にも教えてほしいです!」

「待て。問題のヒトを一度見てから答えさせてもらいたい」

「分かったです~」


 やはりティターニアに手紙を出してみて良かった。

 ここ4日ほどの間、ずっと調べものをし続けのにどこにも答えが載っておらず、焦燥感にかられていたのだ。


 人間が通常持てるMP値は10,000程度とされている。

 それなのにジェレミーの今日のMPは30,000弱にまで膨れ上がっていて、彼の身に何時何が起こるか予想も出来ない。

 ティターニアが来てくれたことで、解決の糸口が見つかってほしい。


 彼女を伴って訓練所まで行くと、建物の外側からでも中で誰かが派手な魔法を使用しているのが分かる。


「中に居る者は、随分と大がかりな魔法を行使しているようじゃな」

「MP量が豊富に有るうちに、アレコレ試すみたいです」

「ヒトは全てにおいて上限が低い生き物。気の毒になるのじゃ」

「一度でいいから制限なく色々やってみたいです。はふぅ」


 とりとめない会話をしながら、訓練所の扉を開く。


「ジェレミーさん。ちょっとお邪魔するです」

「ステラ。……と、そこの女性は誰かな?」


 ティターニアが訓練所に踏み入ったとたん、義兄の目が素っと細まった。

 もしかすると、ティターニアの素性にうっすらと気付いたのかもしれない。

 少々不穏な空気を変えるため、ステラは出来るだけ明るい声を出す。


「オスト・オルペジアから遥々来てくれた私の……私の……えーと?」

「妾はステラの友人じゃ。よろしく頼む」

「ステラの友人ですか。今お茶でも淹れてきます」

「よい。……それよりも、オマエ。随分と光の属性に寄っているようじゃな?」

「光……?」


 ティターニアの気になる一言に、ステラはギュッと眉を寄せた。


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