善神に選ばれし青年
オスト・オルペジアからやって来てくれた美しき妖精女王ティターニア。
彼女が義兄を見るなり言い放った言葉に、ステラはギョッとした。
光の属性に寄るとは、どのような状態なのか?
ジェレミーの方も怪訝な表情をしており、言葉の意味をはかりかねているようだ。
「お前達の目にも見えるようにしてあげようぞ。【カレイドスコープ】」
ティターニアはステラ達の察しの悪さを見て、妖精と人間の差を埋めようと考えてくれたみたいだ。
スキルが発動するやいなや、ジェレミーが黄金色の光に包まれる。
この色こそが、光の属性に寄っている状態を示しているんだろう。
「金ぴかなんです!」
「かなり眩しいね」
「この状態は普通ではないのじゃ。知恵ある神アフラ・マズダーを信仰する人間とて、ここまで極端に一つの属性には偏らぬよ」
「ということは、ジェレミーさんは知恵ある神と信者さんとかよりも、もっと近い関係ってことなんです?」
ステラが思ったことをそのまま口に出してみると、地雷を踏んでしまったのか、義兄が不穏な笑みを向けてきた。
「おかしいな。僕はどちらかと言うと、邪神寄りの人間なハズなんだよ」
「ふぁっ!? えーと、あ~~、そうなんですか」
ステラの前世を知っていそうに思えるが、まだ彼にはその辺の事を話していない。
混乱させないためにも、下手な事を言わない方がいいと思われる。
ステラは軽い咳ばらいをしてから、再びティターニアの方を向く。
「ティターニアさん。ジェレミーさんが光の属性に極端に寄っていることと、MP値が増え続けることに、何か関係があったりするですか??」
「……、オスト・オルペジアに来た賢者が話してくれた話――人間に起こったことのある摩訶不思議な現象についてなのじゃが、その中によぅ似ておる症例があった。念入りに調べたわけではないので、嘘とも
「教えてほしいです。原因がサッパリなままじゃ、治す為のアイテムを作れないです」
「僕からもお願いします」
「分かった。では、端的に言わせてもらうのじゃ」
ステラはジェレミーと目を合わせて頷き合う。
どんなに困難な状態でも、乗り越えてやるつもりだ。
「――その男、恐らくは”神の依り代”として選ばれたのだと思う」
「神のヨリ……シロ……?」
聞き覚えの無い単語に、ステラは首を傾げる。
ジェレミーは知っているのかと、彼の顔を見てみれば、随分と神妙な表情をしている。何かしら心当たりがあるのかもしれない。
ティターニアは感情のこもらないような声色で、たんたんと”神の依り代”についての説明をしはじめる。
「”神の依り代”に選ばれし人間は、数年かけて神と同等レベルにまで体内エーテル量を増加させられるのじゃ。それに耐え抜いた者は次に自我を奪われ、記憶も抜き取られる」
「え……?」
「スカスカになった頭には、新たに神の記憶を移植される。……膨大な量の記憶は依り代の精神を破壊するが、その代わりとして魔法の根源とも言える知識――
ティターニアは何故かそこで言葉を区切った。
その先を言ってしまっては、ステラ達に衝撃を与えるとでも思っていそうだ。
しかし、既に今の段階で、ステラは十分すぎるくらいに混乱している。
このままではジェレミーがジェレミーではななくなってしまう。
というか、一体何時彼は”神の依り代”なる存在に選ばれてしまったのか。
ステラは動揺のあまり黙り込んでしまうが、ジェレミーの方は冷静そのものだ。
「続きを話してもらえますか? 遠慮はいりません」
「そうか。……気の毒だが、依り代の魂は消され、肉体の方は完全に神の器となるらしい。魂が壊されるわけであるから、転生も叶わぬと思うよ」
「うぅ……、許せないんです!! ジェレミーさんを依り代にしようとしてるのって、どこの神様なんですか! 私がやっつけて踏んずけてやるです!!」
ステラは泣きそうになりながら叫ぶ。
アジ・ダハーカやメイリンなどが言うように、もし本当に自分が邪神の生まれ変わりなら、義兄に悪事を働いている神と戦えるんじゃないかと思う。
ジェレミーを救うために、いくらでも頑張れそうだ。
ティターニアはステラの方を少し気の毒そうに見つめながら、口を開いた。
「そこの男のエーテルは光の属性に偏っている。このことからも……、おそらくはアフラ・マズダーに選ばれたのじゃろう」
麗しき妖精が挙げたのはガーラヘル王国の主神の名。
ステラは数日後に、アフラ・マズダーを降臨させるためのアイテムを納品しなければならないことになっている。
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