ごめんなさい、それ私の得意分野ですっっ!

 ヘッセニアはガーラヘル魔法学校の先輩なのだが、彼女がケイシーに毒を盛ったというのは本当なんだろうか?

 信じたくない話ではあるが、現に友人は倒れ伏し、苦しそうに呼吸する。

 顔がどんどんと土の気つちのけ色に変わっているのも気になる。

 命にかかわるような毒を盛られたのかもしれないと思えば、ついつい焦りの気持ちが声に現れてしまう。


「毒を使うだなんて、おかしいです! 狙いが私なら、正々堂々と戦いを挑むべきだと思うです!」


 対するヘッセニアは馬鹿にしたように目を細める。


「正々堂々と? 真っ向勝負したってさー、あんたに勝てる見込みが高くないことくらい、私だって分かってる」

「私のステータスを知ってますよね? もしかしたら勝てるかもしれないですよ」

「あのグウェルが自分の後継者として、あんたを指名してるのに、ただのザコチビだなんて思うわけないっつーの」


 聞きようによってはステラを上げるような物言いだけれど、どこか悔し気な様子を見るに、がヘッセニアがステラを嫌う原因になっていそうでもある。

 彼女の話に引っかかりを覚えつつも、内容について突っ込んでやろうなんて親切心は微塵みじんも湧かない。


「そーいうわけだから、解毒剤が欲しいなら大人しくこっちに来てよ。乱暴にはしないからさ」

「……私を捕まえた後、誰に引き渡す気ですか?」

「イブリン・グリスベルに恩を売ってやるつもり。あいつはあんたの言葉を信用しているみたいで、あんたがスカル・ゴブレッドの儀式の時に何かをしようとしているなんて思ってもいない。ようはエーテル源が有ればいいわけだし、あんたを縛り上げて差し出したら感謝されるってわけ」

「恩?」

「この国の学生ビザって取得が難しいからさー、あいつの父親のコネがあったらこっちの大学に通えるかなってね。あたしのルーツは元々この国なんで」

「イブリンさんのお父さんが政治家の人だからですか」

「だねぇー」


 思い返してみると、数日前ヘッセニアとイブリンに付き合いがあると感じさせられた時があったかもしれない。

 エルシィの案で有名なレストランに行った時、彼女に店を勧めたのは確かヘッセニアだったはずだ。

 イブリンとステラを会わせる為に、エルシィにレストランの情報を与えた可能性が高い。


「……大学留学は素晴らしいと思うですよ。でも、友人に毒を盛るような悪人に協力してあげる気なんか、全く無いです!」

「ならどうするの? 友人の命は私に握られている。ちょっとでも変な真似したら……分かるよねー?」


 ヘッセニアは可愛らしい顔をゆがめ、ゲラゲラとわらう。

 その吊り上り気味の目をジッと見据えながら、ステラは自らの右の手の平を、静かにケイシーに向けた。


「実のところ、あなたのやっている事は私への脅しになってなかったりします」

「強がっちゃって、可愛いー」

「そう言っていられるのは今のうちかもですね。本当はシレっとケイシーさんを直すことも出来たですが、あなたは一回きつい目にあうべきなのかなって思うです」

「はぁ?」

「私の得意分野であなたを害しちゃいますよっ! 【効果移動】!!」

「コウカイドウ? 何なのそ……っう……ぐぅ!?」


 ステラがアイテム士としてのアビリティを使用すると、ヘッセニアは笑みから一変、苦悶くもんの表情を浮かべて苦しみ出した。

 のどと胸を抑えて、崩れ落ちる姿は可哀そうではあるが、全く同じことをケイシーに対してやらかしているのだ、自業自得だろう。

 ステラは駄目押しとばかりに、彼女の手足に”初霜のリンゴの原液”を浴びせかけ、氷漬けにしてしまう。こうしておけば、彼女が持っているはずの解毒剤を使い辛くなる。

 一連の様子を見ていたアジ・ダハーカは、面白そうにクックッと笑う。


「お主、アイテム士のアビリティを使って、ケイシーに盛られた毒をヘッセニアに移してやったのだな」

「【効能倍加】を使わなかったのはせめてもの温情ってやつです! ……それよりも、ケイシーさんっ! 大丈夫ですか!?」


 ステラがケイシーに駆け寄ってみると、彼女はキョトンとした表情で上半身を起こした。


「……凄い苦しかったのに、全くなんでもなくなった。これをやったのはステラなの?」

「私です! えっと……隠していたんですけども、私のメインジョブはアイテム士なんです。だから、アイテムを使って悪さをされたとしても、色々と打つ手があったりするですよ」

「なんか、凄い納得してしまった……。ただの魔法使いにあれだけのアイテムを作れるはずがないもんね。あんたって自分の強さを隠していたんだね」

「そうです! ポーションも飲んでおきますか?」

「本当にもう大丈夫。ステラ、ありがと」


 ケイシーはそういうと、出会ってから初めて笑顔を見せてくれた。


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