先輩2人の関係

 ヘッセニアが盛った毒で苦しむケイシーを救う為、ステラは自らのアビリティを使用し、ケイシーからヘッセニアに対して毒を移した。

 それに加えて、身動きが取れないように彼女の手足を氷漬けにしている。

 しだいにヘッセニアの顔は赤から青に染まり、苦し気な呼吸を繰り返す。

 ここで苦しめ続けておけば、彼女は死ぬ可能性が高いだろうが、そこまでは望んでいない。

 どうしたものかと、ステラが思案していると、転移装置の方向から背の高い少女と、低い少女が歩いて来た。


「君達何をやってるのかな?」

「わわっ! サンドリー生徒会長!」


 現れたのは、国立魔法女学院の生徒会長サンドリーだった。一緒に居るはずのグウェルがおらず、その代わりに別の少女を連れているのは何故なのか。

 少女の姿を先ほどダンジョンの入口付近で見かけた気がするけれど、名前は知らなかったりする。


 彼女達にはマズイ現場を目撃されてしまった。


 ステラ達がヘッセニアに悪さをしていると思われたら最悪だ。


「こっ、これはですね。ええと……」


 しどろもどろに説明しようとしたのだが、息も絶え絶えなヘッセニアに先を越された。


「――そこにいるのは……、サンドリー会長……?」

「そうだよ。もしかして目があまり見えていない?」

「うん……。ゴホッ……。アイツに、後輩に毒を盛られたから……」


「やってないですっ」


 ヘッセニアが力を振り絞るようにして発したのは、とんでもない濡れ衣だった。

 というか、それをやったのは他でもないヘッセニアなのだ。

 しかし、サンドリーにそれを主張し、信じてもらえるだろうか?

 どう説明しようかと、悩んでしまう。


 その間にサンドリーはヘッセニアに近寄って行く。

 一緒に来た少女はケイシーの近くで止まり、何故か陰鬱な表情でスカートの布を握りしめている。

 

 それに不思議そうにしながら、ケイシーは口を開く。


「サンドリー生徒会長、騙されないで。あの人が言ったのは、全部私がされたことだ。私はあの人に魔法で無理矢理毒を胃に入れられて、ここに連れて来られた。ステラは私を助けてくれたんだよ」

「……そうだったんだね」


 神妙な表情で聞くサンドリーとは逆に、ヘッセニアはあざけるように笑う。


「……はっ……。仲間同士でかばい合っちゃて、ダッサ」


「――ダサいのは……、貴女だ。ヘッセニア!」


 声を荒げたのはサンドリーと共にやってきた少女。

 その声を聞いた瞬間、ヘッセニアの身体が大きく震えた。


「何でアンタがここに居るの?」

「サンドリーさんに助けてもらったんだ! 見つけてもらわなかったら、どうなってたか分からない!」


 ステラは状況が読めず、おろおろする。

 当事者のはずなのに、話の中に入っていけない……。

 微妙なステラの心情を読んだのか、サンドリーが説明する。


「あたしとグウェルが探索している途中、変な場所で寝こけているこの子を見つけた。そのままにしていたら、ゴースト達にエーテルを吸われてしまうから助けてあげたんだよ」

「ヘッセニアさんとその人はどんな関係なんですか?」

「それがね、ダンジョン探索のコンビだったりする」

「えぇ!?」


「楽しく歩いた途中に、ヘッセニアに【スリープ】をかけられたの。あんなノリで人に危害を加えられるなんておかしい!」


 信じがたいけれど、ヘッセニアは自分のパートナーをその辺に寝かせてから、ケイシーを奇襲したらしい。

 

「……私と仲良くしてたのは、イブリンさんに近付く為だったってことだね。サイテーサイテーサイテー!!」

「ゲホッ……。どうでもいいから、さっさとこの氷溶かしてくんない? そろそろキツイっつの」


 ヘッセニアのあまりの言い草に、少女は本格的に泣き出した。

 何とも言えずに気まずい現場だが、このやり取りから察するに、サンドリーは最初からステラを疑っていなかったようだし、ヘッセニアのことも彼女に任せてよさそうだ。

 これ以上この場に居る気はないので、相棒とケイシーに移動しようと言おうとした……が、後方から歩いて来た第三者の姿を見て、口が止まる。


「うげぇ! グウェルさん……」

「なんだぁ、このザマは? ウチの学校の生徒同士でつぶし合いが起きてんじゃねーか」

「グウェル!! 救けてよ。こいつらに虐めらてる!」

「虐められてるだと?」


「虐めてなんかいないです! ヘッセニアさんが私の友人を拉致して脅したので、討ちに来たです!」


 ステラが頬を膨らませて主張すれば、グウェルは半笑いになった。

 

「なるほどな。汚い手を使ったくせに負けて、張り付けにされたってことか。みっともねーな」

「違う! これはこいつが!」

「ヘッセニア。今まで貴様をそれなりに強いと思ってたが、買いかぶり過ぎてたみたいだな。二度と俺様の友人ぶるんじゃねーぞ」

「そんな!」


 友情が壊れる瞬間を見てしまい、嫌な気分になるけれど、もうここに居続ける意味はないはずだ。ステラは相棒と友人を促し、移転装置に向かった。


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