ここで会ったが○年目

 ステラが大魔法【アナザー・ユニバース】を使うと、大量の球体がポコポコと出現する。その一つ一つが現実の世界を模した空間となっているのだが、ステラが目をこらしてそれらの中身を見てみると、想像していた通りの物がちゃんと存在していた。


「――おっ! 見っけたです!」

「ぬぬぬ……。儂にはお主が一体何をしようとしているのかサッパリ分からんぞ!」


 しかめっ面の相棒と不思議そうな表情のケイシーに向かって、ステラはヒラリと手を振る。


「今から私、ちょっとだけここから離れるです。お二人さんは、私の後を追って来ては駄目なんです!」

「またあの中に入るのだな。また動けなくなってしまってはかなわぬので、待っておるとするが……」

「ステラを待ってるよ」


 二人の信頼に感謝し、ステラは一つの球体に触れる。

 多少の違和感の後に移動したのは、100年くらい未来のこのエリアを模した空間――つまり、今見ているのは先ほどまで居た場所の光景に近い。

 しかしながら、空などには逆さまの街があるわけではなく、ただ地上に普通の住宅街が広がるだけだ。


 ここはかつて人間達が暮らしていた。

 しかし、先ほどのケイシーの話によると、過去の実験をキッカケとして住人の姿が消えたのだそうだ。

 そこでステラが思い出したのは、帝国の地での似たような事例だ。

 帝国の一都市レイフィールドには、テミセ・ヤの工作員が複数入り込んでおり、高度な魔導兵器が使用された。それが原因で多くの帝国調査団員が行方不明となったのだが、数ヶ月前ステラが帝国に行った際に、何とか外の世界に出したのだった。


 あの時、調査団員以外の人間も多く出てきていて、彼等自身の記憶が無かったり、精神的な衰弱から今は帝国内の病院に入院中だったりする。

 ステラは、”その中の何割かはこの街の人間かもしれない”と考え始めている……。


(でもなぁ……。人数的にはこのエリア一つ分って感じじゃなかったし、しぶとく出て行かなかった人が無理矢理退去させられたとかなのかな?)


 決めつけも良くないけれど、取り合えずガーラヘル王国に帰国したら、ロカに相談し、帰る場所の無い人達と手紙などのやり取りをしてみたいところだ。


 アレコレと考え事をしながらも、探索の目は休めない。

 路肩ろかたに止められた軍用と思わしき魔導車や、各魔導兵器。そして、空中で止まった状態のアタッシュケースなどをジロジロと見て回り、ついにそれらしきモノを発見する。


「――もしかして、コレ!?」


 干上がった貯水池がずいぶん深く掘られており、ガラス板がはめられていた。

 それには術式が描かれており、見ればみるほどステラの記憶の断片が反応し、意識が彼方かなた遠くに飛ぶ感覚がある。おそらく、はるか昔にこの術式を見たことがあるんだろう。


 アホ面で術式を見つめるステラだったが、すぐに我に返る。背後からガサゴソと荒々しい音が聞こえてきたのだ。


「ぎゃっ!? 誰ですか!??」


 振り返ってみると、こんもりと生い茂る低木の葉っぱが大きく揺れていた。

 この空間で動けるのは自分の他にはインドラくらいしか知らないので、ステラの心臓はやばいことになる……。


「さっさと出てこないと、石を投げつけちゃるです!」

「わ! ちょっと待つさ!」

「へ??」


 単純な脅しに屈したのか、潜伏していた者が木の後ろから出てきた。

 その姿を見て驚く。

 派手な髪色の個性的な美少女メイリン・ナルルが現れたのだ。

 

「あっはっは! すっごくビックリした顔をしているさ!」

「これで驚かない人間なんかいねーです! な・な・な・なんで、メイリンさんがここに居るですか!? どういう空間が分かってるですか??」


 聞きたいことがありすぎて、一体何から優先して聞いていいのか分からない。


「【アナザー・ユニバース】の中に、自分だけが入れると思ってるさ?」

「違うですか?」

「残念ながら違っている。あの魔法は使用者達の間で空間を共有しているんさ。だから、術式を手元に置き、なおかつ専用の魔導装置を手元におくアタイも入れるというわけ」

「うえぇ……」


 ステラが眉をしかめてブツブツ言うと、メイリンは化け猫染みた笑顔を浮かべる。


「黙ってて悪かったさ。オマエがどこまでやれるのか、試させてもらいたくなってね」

「ん?」


 挑発的な言葉の割に、その目は楽しそうにしか見えない。

 まるで親しい友人と久しぶりにあったかのような、ウキウキとした雰囲気ですらある。そこでようやく、船の上での相方の言葉を思い出す。メイリン・ナルルは神なのかもしれないと、そう言っていたはずだ。


「ステラ・マクスウェル――いや、邪神よ。オマエはこのダンジョンの成り立ちをもう解ったんだろう?」

「何となく解ってきたです。メイリンさんは、アジさんの力を復活させる為の術式の中から、時間を操作させる効果のある部分だけを抜き出したです。そして、今ここで会ったことで、”このエリアにその術式を使ったのも、メイリンさんなんじゃないか”って、思い始めてるです」

「……半分は合っていて、もう半分は異なるさ」

「むぅ?」

「そもそもは、この国は邪神が創造した魔法に興味がありすぎた。邪竜アジ・ダハーカ復活の術式が発見された際も、えらく騒がれてな。アタイが関わるはめになった」

「進んで関わったわけじゃなかったですね」

「楽しんではいたさ。ただな、分割した後の片割れを国家的なプロジェクトに使用しようと目論もくろむ者が現れた。自国の意思で時間を巻き戻せるのなら、戦争などにおいて、これほど有利なものはない」

「うん……」


 大規模に時間を巻き戻せる魔法を手に入れたなら、相手国の出方をみきわめてから自国の動きを決められるようになる。これが出来るようになれば、テミセ・ヤは必勝国となれるだろう。


「しかしそれはアタイの望むことではなかったさ。分解後の術式をひっそりとその辺の池の底に隠した。だけど、それは思わぬ効果を生んだのだ」

「んん???」

「現在はただの貯水池だが、過去にここは聖水が沸く池だったさ。術式を沈めたことにより、時間逆行するようになった。過去の水と入れ替わるようになったのさ」

「あ! それが高純度ナスクーマ大聖水ってことですか!?」

「そうさ」


 そんな事が起こりえるのかと、ステラは気が遠くなった。それも謎めいているが、もう一つ不思議なのは、メイリンが池に沈めたはずの術式が、魔導兵器に組み込まれてしまっている点だ。



 

 


 


 

 

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