時計塔の秘密について

 100年前の少女達は随分と肩がいかつい……。

 もはやちょっとしたアーマーのようにも見えるワンピースに気をとられつつも、彼女達の声が良く聞こえるように、車道に一歩踏み出す。

 少女達は透明でありながらも、ごく普通の女の子に見える。けれど、時計塔に隠された古の術式の話をしているのだから、魔法使いかなにかなんだろう。

 ちょうどステラもこのダンジョンの後に、時計塔へと向かい、彼女達が口にするいにしえの術式を得ようとしているのだから、どうしたって興味を持ってしまう。


(うぅ……。話がちゃんと聞き取れない。もっと傍に寄ってみよう)


 ここは先ほどのエリアよりも気温が高く、体が動かしやすい。

 なので、ステラは小走りで道路を渡り、二人に近づく。

 少女達の話はちょうどヒートアップしていた所だったが、ステラが彼女達まで後3m程度まで寄ると、急に姿を消した。


「わわっ! 消えてしまったです!」


 キョロキョロと辺りを見回していると、相棒がやってきて、冷静な見解を話してくれる。


「『残像ではないか』と申したであろう。ちょうど、今消えたポイントまでの時間が切り取られたんだと思うぞ」

「うーん……。残念極まりないんです。もうちょっとで、”時間の術式?”に関する情報が聞けそうだったのに」

「仕方がなかろう。ここは特殊な地なのだからの」


 相棒と話していると、通りの向こう側にとどまっていたケイシーがこちらに向かって手まねきしてきた。


「早く貯水池に向かった方が良いと思う。転送装置から、レイスが移動してきたよ」

「え……」


 ケイシーの言葉に驚き、背伸びをして装置の方を見てみると、ボロボロの布をまとったモンスターが3体立て続けに現れたところだった。

 装置が停止していた所為で、現実の時間軸のエリアにとどまっていたのが、稼働したことで、自由気ままに移動出来るようになったということなんだろうか?


 何にしても、あまりに大量のレイスと戦闘するのは事故の元。

 ステラ達はそれらと目を合わせないようにして、道なりに歩き出す。

 

 通りではやはり、先ほどの少女と同じように透明な人間達が現れては消え、消えては現れてを繰り返す。その様子は幽霊街と呼ぶにふさわしい有様なのだが、皮肉にも、本物のゴーストが怖がる素振りをしながら逃げていく。


 ゴースト達の可愛らしい仕草をニマニマと観察しながら歩くと、あっという間に貯水池に到着した。

 ここの池もまた、水が凍り付いてしまっているが、ステラは再び【アナライズ】を使用する。すると、またしてもガッカリな結果が空中に表示されてしまった。


名称:濁水

効能:水分補給。腹痛。

効果時間:約6時間


 ステラはその文字列を力なく読み上げ、肩を落とす。


「ここの水も高純度ナスクーマ大聖水じゃなかったですか……」

「ステラよ、気を落とすな! これから巡るエリアは二分の一の確立で当たりを引けるのだぞ!」

「それはそうですけども~。かなり歩くことになりそうなのが、ちょっと……」


「ここは先ほどよりも気温が高いんだから、ステラにとってはマシなんじゃないの?」


 ケイシーにそう言われてみて、ようやく何かがおかしい事に気がつく。

 なぜ外気が高いというのに、池が凍っているのだろうか?

 間抜け面で池の氷や雪を見続けるステラにはおかまいなしに、相棒が話を続ける。


「さきほどの残像どもが、ここに儂を強化するための古の術式の一部があると言っておったろう?? 何よりも優先して探すべきと思うぞっ」

「あ、うん……。ちょっと考え事をしているので、それは後でにするです」

「ぬぅ……」


 池には薄く氷が張ってあり、その上には雪が積もっている。

 気温の高さから、こうして凍っているのは非常におかしい。そして何よりも奇妙なのは、100年後のエリアでもこの光景を見たような気がする点だ。

 記憶が確かなら、同一の場所の光景と、ここの光景は寸分違わない。


(このエリアの建物とかにも雪は積もっていない。ってことは……、貯水池がここのエリアとは別の時間の流れ――というか、100年後の時間になっている? あ、違うか。なんだ!)


 ステラは両の手のひらをポムッと打つ。

 このダンジョンの起点になっているのは貯水池なのかもしれない。


「――ステラ、何か思いついたりしたの?」


 胡散臭そうに見つめてくるケイシーに、大きく頷いてみせる。


「たぶんなんですが、ここがダンジョン化したキッカケになった実験は、貯水池付近で行われたです」

「どうして分かるの?」

「この貯水池を見てほしいんですが、さっきのエリアの貯水池と全く同じです」

「……気温が高いのに、どうして池が凍っているのか不思議だったけど、おかしい部分ばかりだったから気になってなかった。さっきと全く同じなの?」


「儂もケイシーと同じく気にしていなかったぞ。お主はこの状況から、どうするつもりだ?」

「魔導国家テミセ・ヤの秘密は、私の魔法の中にも隠されているですよ。もしかすると、見つけ出せるかもしれないです」

「ぬ??」


 不思議そうに首をかしげる相棒の前で、右手を突き出す。

 ここで大量のエーテルを使用するのは得策ではないが、今後の作戦の為には仕方がない……。

 


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