100年前のエリア
装置の付近までやってきた2体のレイスを見て、ステラは良いことを思いついた。
レイスはゴーストの上位互換とも言える存在。
エーテルを吸収して変化、強化するようなので、逆にゴーストの状態まで戻したなら、そこからエーテルが出てきそうだ。
すかさず腰のホルダーから”異界の水”を取り外し、相棒とケイシーに頼み事をする。
「アジさん、レイスを装置まで誘ってくださいです」
「むむ? 了解した」
「ケイシーさんはさっきの……、ええと、【種族系統遡上】を使ってレイスをゴーストにしてみてほしいです」
「分かったよ」
二人にそう告げた後、ステラは異界の水のキャップを取り外す。
それを装置の回りに振りかけているうちに、レイスは二体とも周辺に寄ってきて、予定通りにケイシーの術により、ゴーストに変化させられた。
ステラはしっかりと二人の仕事ぶりを見届けてから、異界の水を魔法で気化する。
こうしておけば、レイスから漏れ出たはずのエーテルが、外部に拡散されずに済むはずだ。
どうなることかと、ドキドキしながら装置の様子を観察すること約3分。
パネルに付いたランプがピカッと点灯する。
「おお! うまくいったです!」
「なるほど。お主、レイスのエーテルを利用して装置を再起動させたか」
「そうなんです!」
「良い考えだと思うよ」
相棒もケイシーも感心したような表情で見てくるので、少し照れくさくなってくる。
そうこうしているうちに、装置の下の術式にも充分なエーテルが供給されたようで、ジワジワと紫色に発光しだした。
「他のエリアに移転できそうなんです!」
「そうだな。どれ、儂が試しに転移してみるかの。自力でエリアに入る事も出来ようが、正規ルートから入らねば、重力も引力も正しく入らないだろうし」
「転移が成功したかどうかはどうやって判断したらいいですか?」
「知らん、分からん」
アジ・ダハーカは薄情な事を言ったあと、術式の上に乗り、スッと消え失せた。
成功した……と考えてよいだろうか??
今更ながらに不安を感じるけれど、ここに長居するわけもいかず、ソロリと足をのせてみる。
すると、不快な浮遊感の後に、周囲の景色が変化した。
相変わらず、上空や左右には変な角度の街が見えている。だけども、地上エリアには、随分とレトロな雰囲気になっていた。
ガーラヘル王国に今でも残っていそうな古めかしい建物や、旧式の丸っこい形の魔導車などなど、妙にワクワクするような物や建造物であふれかえっていた。
「うわぁぁ~。まるでどっかのアトラクションみたいなんです」
周囲に相棒がいなかったことに少々不安を覚えつつも、街並が気に入り、若干観光気分になる。
そうこうしているうちに、ケイシーも同じエリアにやってきて、目をパチパチと瞬かせた。
「さっきのエリアの一昔前……?」
「100年前って感じしますよね。ケイシーさんがさっき言っていたように、この頃は栄えていたですね」
「うん……。想像していたよりも住み心地がよさそう」
二人で好き勝手に感想を言い合っていると、先に飛んでいた相棒が上から降ってきた。
「上からザックリと見た感じ、100年後のエリアと道路の配置は変わっておらんようだった」
「あ、だったら、貯水池にすぐに着きそうですね。確認有り難うなんです~」
イブリンの地図を疑っているわけではないが、相棒が目視で確認してくれると、安心するものだ。二人と一匹でさっきと同じ位置にあるはずの貯水池を目指す。
少し歩くと、ケイシーが道の向こう側を指さす。
「見て。向こう側の歩道に人間が歩いてる。透明っぽいけど、ゴーストではないな」
「うわ、本当なんです! ゴーストじゃないなら、アレはなんだろ??」
ケイシーの言う通り、道路を挟んだ向こう側に、二人の女性が歩いていた。
肩パットがガッツリ入っているような、昔風のワンピースを着ているので、学院生ではなさそうなのだ。しかも彼等の姿は透明なので、どこからどうみてもゴーストの
ゴーストでないなら、一体なんなのか?
その答えは相棒からもたらされた。
「おそらくは、アレらは過去の残像か何かだろう。このエリアごと切り取られ、こうして儂等の目の前に映し出されている」
「じゃあ、本人達はもうこのエリアには居ないんですね」
「100年前だとするなら、死んでてもおかしくないね」
ケイシーの言葉に、ステラはコクリと頷く。
もしかすると、先ほど通ってきたお墓の下に埋葬されてしまっているかもしれない。
ステラが複雑な気分になっているにも関わらず、少女の残像達は楽しげに話しだす。
『――ねぇ、時計塔の噂を聞いたことがある?』
『あ! 最近学院内で話題のアレ??』
『そうそう。時計盤の中にやばい魔法の術式が入ってるそうね!』
『もしかして手に入れようとしてる?』
『もちろん!』
『やめときなって! あの意地の悪いメイリンが巧妙な細工をしたって聞いたよ。術式を得ようとチャレンジしても、誰も成功しないらしい』
『はぁ? 最悪だね』
『伝説のドラゴンの力を元に戻す為の術式を得るには、時間を操れなきゃならない』
『ふーん? 針を動かすくらいなら、誰でも出来そうなのにね――』
聞き捨てならない内容に、ステラは思わず立ち止まったのだった。
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