エネルギー不足

 ケイシーが呼んだゴースト達はレイスを取り囲み、動きを封じるように、その周囲を高速で回転する。隣に立つケイシーがブツブツと何かを唱え始めたので、それの補助のつもりなのかもしれない。


 相対するレイスも大人しく待つわけがなく、MPを吸収するワザでゴールド達の数を減らす。

 ステラがどう助太刀すけだちしようか迷っているうちに、ケイシーの呪文が完了した。


「【種族系統遡上】!」


 良く分からない技名を口にするやいなや、レイスは小さく破裂し、小さなゴーストに変化した。これは一体どうしたことだろうか??

 ステラが激しく瞬きしながらケイシーの顔を見上げれば、彼女は古書を閉じ、軽い説明をしてくれる。


「レイスはゴーストの進化版? 成長版? みたいなものなんだ。だから元に戻しただけ……」

「はえぇ……。そんな事が可能だったですか」

「ゴースト系は存在が不明瞭だから、他のモンスターに比べて変化しやすい」

「勉強になるです」


 二人で会話しつつ、レイスに襲われていた少女達にポーションを振りかける。

 寒い中ではあるが、このまま死ぬよりはずっといいだろう。

 一瓶まるまる使い切ると、軽傷の方の少女は話せるくらいまで回復する。

 

「……有難う。ケイシー、そっちは留学生だったわね?」

「はい!」「どうってことない」


 ステラ達が頷けば、黒髪の二年生はこのダンジョンで目にした事を共有しはじめた。


「――このダンジョン内に、かなりの数のレイスが居るみたい」

「レイスは上位種なのに、なんで……」

「さっき測定したら、フィールド内のエーテルが不安定になってたわ。それがゴーストに作用したんだと思う。……卒業生の話では、もしここでレイスに変化する個体が出てしまっても、高純度ナスクーマ大聖水の池から出る霧で、元に戻るという話だった。でもこの状況ってことは、冬になって聖水が氷つき、作用しなくなったのかな」

「ゴーストにとっても詳しいですね!」


 ステラが感心してみせると、少女は「ゴーストの研究をしている」と答えた。

 この学院生にとって、ゴーストというのは非常に興味をそそる存在らしい。


 少女3人の間に緩い空気が流れ始めたことに焦りを覚えたのか、アジ・ダハーカが珍しく急かしてきた。

 

「ステラよ。先を急いだ方がいいだろう。転送装置へと行くぞ」

「あ! そうでした。お二人さん、ごめんです!」

「待って! 言っておかなきゃいけない事があるわ! さっき私達が見たとき、装置が止まってた」

「うえ゛ぇ!?」


 転送装置がうまく動いてくれなければ、年代の異なるエリアに移動することが出来ない。となると、高純度ナスクーマ大聖水を入手出来ず、今後計画しているアレヤコレヤが出来ずじまいに終わる。

 動揺しまくるステラに、2年の学院生は同情的な眼差まなざしを向けてきた。


「たぶん、レイスのさっきのワザで吸われちゃったんだと思う。どうしたら直るかは私にも、そっちの子にも分からないわ」

「ガーーン」


「儂が装置の側面と正面を一発づつ叩けば直るだろう」

「直るわけねーです!」


 相棒は相変わらず乱暴な打開策を口にする。

 そんなことで改善されるわけがないので、本格的にヤバイことに変わりはない。

 もしエマがここに居てくれたなら、彼女のアビリティで直してもらえたかもしれず、この探索に人数制限があることが恨めしく思える。

 そんなステラのマフラーを、ケイシーがグイっと引っ張る。


「う?」

「取りあえず装置に向かおう。こんな所に留まり続けても、打開策は思い浮かばないと思う」

「そうですね!! そうしたいです!」


 2年の学院生は気を失い続けている少女の為に残ると言うので、ステラは彼女にアイテムを分けてから、再びダンジョン内を歩き出す。

 遠方をよく見ると、確かにレイスの姿がアチラコチラに浮かんでいる。

 黒髪の少女の言っていたことは、やはり真実なのかもしれない。


 地図の通りに進んで行くと、それなりの高さを持つコイル状の金属線が見えてきた。近くに寄ればステラの背丈の3倍ほどもあり、随分と目立っている。

 その足元に描かれた術式は恐らく転送の機能を持たされているだろう。


 ステラは装置の正面と思われる場所に立ってみる。

 ちょっとした操作パネルのようになっているそこには、メーターやスイッチなどが備わっている。その中から”手動操作”→”エーテル注入”を適当に選び、押してみるも、うんともすんとも言わない。


「う~ん。駄目っぽいですか」

「儂が検分してみた感じだと、この装置はおそらく、巨大コイルを使ってエーテルを集め、地下の”何か”にため込む仕組みであろうな」

「この手のアジさんの考察はばかにならないですから、合ってるのかもですね。それで、えっと……、時間がたったら動く可能性があるって思っていいです?」

「それは分からんな!」

「困ったです……」


 どうしたものかと、ケイシーの方を向いてみる。

 すると、ボンヤリと通りの方を見ていた彼女が、目を見開いた。


「来る!」

「な、何がですか!?」


 彼女の言った通りだった。

 通りの影から、レイスが2体現れたのだ。

 MPを吸収して強化されるモンスター二体とやり合うなんて、メンドクサイことこの上ない。

 しかし、さっきの戦闘を思い出す途中で、良い方法を思いつく。


「もしかしたら、レイスを使って装置を動かせるかもなんです」


 これでようやく他のエリアに移動出来るはずだ。


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