ダンジョン内廃墟はゴーストだらけ
国立魔法女学院近くのダンジョン:ディザーテッド・ストリートに一歩踏み入る。
廃墟が広がる光景は、先日降った雪でも隠し切れないほどに荒廃している。
真っ昼間だというのにそこかしこにゴーストの姿が見えるのは、このダンジョンがあまり良くない性質を帯び始めているからなんだろうか?
ゴースト達以外にも、複数のモンスターが居た。
石の身体を持つガーゴイルや建物より巨大なオーガなどだ。
それらがうろついている所為で、第一の目的地である貯水池近くに来るまでに5回も戦闘をしなければならなかった。
通りで見かけた国立魔法女学院生たちも、たった2人という状況がきついのか、悪戦苦闘しているようだ。
ステラ達がかつて公園だった場所の奥へと向かって行くと、遠くからでも貯水池の表面に氷が張られているのが見えた。
この寒さなので、凍ってしまうのは想定ないだが、問題は中身である。
氷の下の液体が高純度ナスクーマ大聖水ならいいのだが……。
ステラはドキドキしながら池に手をかざし、【アナライズ】してみる。
名称:濁水
効能:水分補給。腹痛。
効果時間:約6時間
空中に表示された結果を読み、ステラとケイシーは落胆した。
「うあぁ……。ただの汚い水だったです」
「一見マシな状態の水に見えるけど、そのまま飲んだら危ないのか」
「人間どもは軟弱だからな、過剰なほどに不純物をとりのぞき、消毒しないと飲めぬらしいの。それはいいのだが、ダンジョン探索はこれからが長そうだ」
「うん……」
相棒の言葉にステラは頷く。
すんなり行くとは思っていなかったが、寒い中での探索はなるべく早く終わらせたかった。
若干しょんぼりとしながら、イブリンから貰った地図を開く。
次に目指すべき場所は、他の時代のエリアへと飛べる転送装置。一度公園を出てから、西方向へ進めばよさそうな感じである。
シッカリと確認してから、相棒とケイシーの目を交互に見る。
「まだまだ時間はあるので、焦らなくても大丈夫なはずなんです。転送装置に行こうで――」
「――誰か!! 助けてーー!!」
話している最中に、わりと近くから少女の叫び声が聞こえた。
声の主としては国立魔法女学院生しか思い浮かばず、ステラはケイシーと頷き合ってから走り出す。
「近くに誰かが来ていたですね!」
「ここって、霊園からほぼ真っすぐに歩いたら来れるからね。それより、このダンジョンには結構マシな実力の生徒たちばかり入ってると思ってたんだけど……。声から判断するに、だいぶ追い詰められてるみたい」
「強いモンスターと遭遇したですか……」
二人と一匹で建物の影に回り込むと、女学院の制服を着た少女が二人が巨大な布切れ――もとい、ボロボロのローブを頭から被った、空飛ぶ骸骨――と相対していた。
「お二人さん! 大丈夫ですか!?」
ステラが声をかけると、黒髪の美少女が振り返る。
この少女は確か女学院2年の生徒で、人気ペアランキングでは2番目に位置していたはずだ。
「わ、私達……、MPをアイツに吸収されて……。このままじゃ、殺されちゃう!」
「そんなワザを使うです!?」
「ステラよ。あいつはゴーストの上位種:レイスだ。敵対する者のMPを
「うげげ……アジさんめ。脅すなです」
相棒の言葉に恐れるものの、レイスの方は既にステラ達に狙いを定めてしまっている。
腰に巻いたホルダーから”異界の水”の瓶を取り出して、キャップを開ける。
「ぬぬ……。お主、それをどうするつもりだ??」
「ここでMPをごっそりと失ってしまったら、夜の儀式でしんどい思いをするかもなんです! 防御させてもらうです。【雲水】!!」
ステラが久しぶりに使う魔法名を口にするやいなや、瓶からモワモワと蒸気と化した”異界の水”が出て来る。それは密度の濃い雲のようにステラ達の周囲を覆いし、レイスから身体を隠す。
ステラは薄っすらと見える外の様子を観察する。
レイスは白骨化した手から黒いモヤのようなものをステラ達に放ち、それは”異界の水”の雲と混ざり合う。
ステラの肌に触れたそれは、一瞬ザワリとした感覚を呼び起こした。
しかし、体感的にMPが抜き取られてはいない。
”異界の水”の効果――触れた人、または物のエーテル流動を阻害する――がうまいこと発現したようだ。
「良い判断だな、ステラ」
「うへへ。もっと褒めてもいいですよ!」
「何を言う。今夜を無事に乗り切ってからでないと、褒めたりはせぬ!」
「ぐぬぬ……。だったら、アジさんレイスに反撃を頼むです!」
「仕方があるまい」
相棒は雲を飛び出し、まっすぐにレイスに向かって行く。
その間に、ケイシーが呪文を唱え始める。
「この地に住まう幽鬼共よ。我に集い、その力を我がために行使せよ。【火車】!」
ケイシーが右手を挙げると、そこから膨大な炎が巻き起こり、放射状に広がる。
それに触発されたのか、ヒラヒラと白い布切れのようなゴースト達が彼女の周囲に集まって来た。
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