微妙な関係性
メイリン・ナルルの説明により、高純度ナスクーマ大聖水がこのダンジョン内に存在する理由が理解出来た。
しかしながら、時間を操作する効果を持つ術式はこうして魔導兵器に組み込まれてしまっているわけで、メイリンの監督不行きは明らかだ。
アジ・ダハーカを復活させる術式から、該当する部分を分離させた当事者として、これはさすがに酷いのではないだろうか??
ステラが黙り込んでいても、メイリンはかまわずに話し続ける。
「――首都においても、高純度ナスクーマ大聖堂が採取出来るという発見は、この国の上層部の一部でもおおいに話題になったさ。それこそ、他に利用する方法はないのか……などの議論が日々なされるくらいに。オマエの考えた術式は、それだけ利用価値が高かったさ」
「う~~~ん……。ムカムカしてくるです。メイリンさんの責任のなさにはガッカリなんですっ」
ステラはイライラに任せて、メイリンを睨み付ける。
このエリアに使われた魔法は、前世の自分が術式として遺したのかもしれない。
だとしても、自分が生まれ変わるまでの間に悪用されてしまったのでは、どうすることも出来ないに決まっている。
この国に長く住んでいたメイリンに、対処してほしかったと考えてしまうのは、贅沢なんだろうか?
しかし当のメイリンは悪びれる様子もない。
「責任は一応感じているさ。だが、オマエ自身の悪行の結果でもあるのだよな」
「むぅ……。この後に及んで、責任転嫁する気ですか?」
「責任転嫁などではない。これは苦情なのさ。 ――太古の時代、
「でも、それは貴女も同罪な気がするですよ。貴女が開発した魔導具は、どれも性能が高すぎる感じる気がするです。しかも、それらには私が以前考えた術式を使ってる……。貴女に私を
「アタイはあくまでも人間の専門書に準じており、性能面では人間の領分にとどまらせておるぞ? オマエのようなタブーはおかしてはいないさ」
「……」
「――オマエに自分の行動の末路を見せてやる必要があると思ったさ。ヒトの愚かしさを知っていたはずが、ヒトに転生するなど、笑わせてくれる。奴らは幾ら我らを崇めようが、利があると知れば、天罰をも恐れぬ所業をする」
「魅力的な魔導具をぶら下げている時点で、メイリンさんが一番あくどいと思うですっ」
メイリンに言い返しながら、何故彼女がここまで踏み込んだ内容の話をするのか疑問に思う。インドラとすら、前世に関する話はアッサリめに終わったというのに……。
ステラの罵倒を受ければ受けるほど、メイリンの口角が上がる。
「アタイの前世の子等はつれない奴らばかりさ。相手にされない一時の寂しさを紛らわすため、人々に関わってしまう」
「その見た目で子持ちと言われても困るですっ!! というか、そろそろ貴女の前世のお名前を教えてほしいです」
ステラの質問を待っていたのかなんなのか、メイリンの瞳が輝いた。
「――ズルワーンという神を知っているか?」
「ズルワーンって……」
その神の名は、神話関連の知識が少ないステラでも聞いたことがある。
最高神とも、創造神とも呼ばれ、この世界の始まりから存在していたはずだ。
彼(または彼女)は善と悪をつかさどる双子を生み出したはずなのだが、ガーラヘル王国に伝わる神話なので、本当なのかどうかはさだかではない。
(つまり、私の前世の親の可能性があるのかな……? もしかすると今名乗ったのは、一世一代のカミングアウトだったりする??? でも、不思議なことに、一ミリも親しみを感じない)
メイリンの話しぶりから判断するに、だいぶ近しい関係性なのはたしかなんだろう。しかし、今のステラの感覚的にあんまり好感度が高かった相手ではない気はする。
ステラは警戒心を解かないままに、半眼でメイリンを見つめ続ける。
「……それで、メイリンさんが魔法空間にまでノコノコと会いに来たのは、私に何かを期待してるからなんです??」
「そうなのさ! オマエはこのダンジョンを見て、大いに絶望感を抱いたんだな?」
「割と絶望はしたです」
「前世の自分に失望もしたと?」
「だいぶ前からガッカリしてるです!!」
「ふーむ、ふーむ。ならばアタイの目的は達成したともいえるな」
「……何の話をしてるですか?」
「オマエの質問に対する回答さ! オマエは二度と同じ失敗はしないと確信出来た。だから、このダンジョンはアタイにとって用済みなのさ」
つまりメイリンは、前世のステラの行動――神々の領域にヒトが踏み入る余地を生んだ――ことについて、改めさせるため、ここでネタばらしをしたという事なんだろうか? あまりの余計なお世話具合に目眩がするようだ。
「聖水の採取が済んだなら、オマエにこのダンジョンを元に戻してほしいさ」
「――ぐへぇぇ……。自分でやれです……」
腹が立って仕方がないが、この壮絶な鬱陶しさには覚えがあるのも確かなのだった。
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