交流会のメンツ

 イブリン・グリスベルに渡された地図は、高純度ナスクーマ大聖水の位置を示すものだ。しかし、地図自体にずいぶんクセがあり、初見で読み解くのは厳しかった。

 ステラは一人では無理だと判断し、次の日に学院に来てから、一度フィールドダンジョンに潜った事のある人たちにアレコレと質問してみた。

 それによると、聖水が湧き出るこのダンジョンは、かつては邪神の術式の実験場になっていたことを知った。


 旧実験場はクロックタワータウンの墓地エリアから、郊外方向へと広がっており、墓地入り口から一歩廃墟に踏み出すと、周囲の様子がおかしくなる。

 足元に現在の廃墟街、上空に100年前の同エリア、そして西側に200年前、東側に300年前。と、同じ場所を模しながらも時代がバラバラになっているらしい。

 しかも廃墟の要所には転送的な役割をもつ装置があり、どこに飛ぶかは完全にランダムなんだとか……。


 イブリンの地図では、地面基準で言う北側の貯水池の中身が、時々高純度ナスクーマ大聖水に入れ替わるとのことだが、入れ替わりのタイミングが半日おきらしいので、その時点で四面のうちどこに入っているかは不明らしい。


 ステラが教室の片隅で地図を眺めながら頭を抱えていると、前方のドアからダリアが入って来て、親しげに声をかけてくれた。


「ステラ、こんにちは!」

「わっ! こんにちわです!」


 ダリアもケイシーと同じく宿舎に住んでおり、例に漏れずネクロマンサーだと教えられている。毎日のように売店に顔を出し、ステラのアイテムを買っていってくれるので、今ではすっかり仲良しだ。

 

 しかし、今までステラと会う為に一年の教室まで来たことがなかったため、不思議に思う。


「えっと……。ダリアさん、どうしたですか?」

「朗報だよ! アンタが売っているアイテムをずっと試してみていたんだけどね、重要なことに気づいたの!」

「重要なこと? 教えてほしいです!」

「”異界の水”ってアイテムが、降霊術にも効果があったんだ。術を行う時に、術式を使うんだけどね、その回りに異界の水をたら~とかけてみたの」

「ふむふむ……」

「そうしたら、降霊術の成功率が70%になったんだ!」

「おぉ! ……お? ちなみにいつもは何%なんですか?」


 降霊術についてあまり詳しくないステラにとっては、それが凄いのかどうなのか判断が出来ない。素直に教えをこうてみれば、ニカッと微笑まれる。


「いつもは40%だよ。だから、劇的な改善と言えるんだ!」

「そんなに上がったですか!」

「そうみたい。なんだか、術式に周辺からの余分なエーテルが入らなくなるみたいでね。詳しい事は、ネクロマンサー協会に調べてもらおうと思ってる」

「プロの人に報告するですね」

「大発見だからね! もしかしたら、アンタに大量の注文が来るかもしれない。ガーラヘルにお店を持っているなら、住所を教えてほしいんだ」

「ええ!? お店はまだ持ってなくて……。間借り状態というか……。だから、えーと、家の住所を教えるです!」


 想像もしていなかったのだが、どうやら新たな商売のチャンスが巡ってきたようだ。ステラはその有り難さをジワジワ理解し、ダリアにお礼を言う。


 アタフタとメモ用紙に住所を書いていると、いつの間に近寄って来ていたのか、近くからケイシーに名前を呼ばれる。


「ステラ。交流会の参加投票が終わったよ」

「投票ってなんですか?」

「知らなかったんだ? 交換留学生とウチの学生の組み合わせで、一番仲が良さそうな二名を20組選ぶことになってる。その20組がフィールドダンジョンの中に入れるんだよ。……それで、5位が私とステラの組み合わせ」


 説明するケイシーの顔は微妙に照れくさそうだ。

 彼女の様子が良く分からないので、隣にいるダリアの顔に視線をうつしてみると、楽しげに説明を付け加えてくれる。


「全校生徒と交換留学生を全員ダンジョンに入れるわけにはいかないらしい。だから、留学生が来ている間に、仲良くしてた人たちが選ばれることになってる! 同じ人が、複数人と組になってランキングに入っていたら、上位の組み合わせが選択されるみたいだね」

「なんで私とステラなんかが……。ちょっと不本意」

「ガーン……」


 あからさまに嫌がられると、すこしショックなものだ。

 とはいえ、フィールドダンジョンの中に入れなくなってしまっては困るので、ステラは説得しにかかる。


「ケイシーさん。交流会の間だけでも、マブダチのふりをしてほしいです! じゃないと困るというか……うぅ」

「そこはちゃんと分かってるから。私は変なカップリングなノリが嫌なだけで……。あっ……と、今のは忘れて! というか、今更だけど、友達になって」

「ほい! 今日からケイシーさんはちゃんとした友達なんです!」


 この国に来るまでは、友達が出来るとは考えもしていなかったが、こうして親身になってくれる人と縁が出来たのはとても嬉しいことだ。



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