組み合わせ投票の裏側に暗躍するものあり

 両魔法学校の交流会が行われるフィールド・ダンジョンディザーテッド・ストリート遺棄された通りには、ガーラヘル魔法学校からは4人の生徒が参加する。

 ステラはケイシーと、エルシィは彼女の付き人と、グウェルは国立魔法女学院の生徒会長と、そしてレイチェルは何故か元工作員マイアと組みする事になったようだ。

 後の16組は国立魔法女学院生や教師が組むこととなり、選出方法に若干の不平等さを感じてしまう。


 とはいえ、別に交流会の景品はガーラヘル魔法学校の人間にとって魅力があるわけでもない。学院の記念品を貰える程度だったりする。


 思い出の品として欲しがる人もいるかもしれないが、残念ながらステラはそのような物を集める人間ではない(下手をすると相方の収納にしまったきり、一度も取り出されないなんてことにもなりかねない)。

 ケイシーの方もアッサリとしたもので、貰えるなら貰っておくが、無理してまでほしいわけではないらしい。


 そんな彼女との話し合いで、とりあえずダンジョン内では高純度ナスクーマ大聖水の探索を優先し、余裕があれば攻略要件――時間内に校旗を見つけ出すこと――を満たすことになった。


 校旗目当ての学生達との交戦は避けられそうであるが、ダンジョン内にはモンスターなどが蔓延はびこっているらしい。それらに対して優位に立ちまわるため、ステラは金曜日までの間に、大量のアイテムを製作した。


◇◇◇


 交換留学最終日の金曜日。

 ステラは朝から別れを惜しむクラスメイトや、売店での顧客達に捕まり、あまり自由行動を取れなかった。

 午後からは交流会があるのだが、参加者は絞られているため、ここで別れのあいさつをしておきたい生徒達が多かったのだ。

 短期間ではあったが、それなりに親しくなった生徒もおり、なんだか今生の別れのように感じたステラであった……。


 そんな中で頼りになったのはレイチェルだ。強引な行動で、泣き続ける生徒達の輪からステラを引っ張り出し、カフェテリアまで連れていってもらった。


 レイチェルとテーブルを囲んでいると、そこにエルシィと彼女の付き人が加わる。

 この2週間、エルシィは、彼女の付き人にホテルから手の込んだ料理を運びこませていて、ステラやレイチェル等にまでそれらが分け与えられている。

 今日も他のテーブルとは一線をかくする豪華なフルコースが並べられ、ステラは遠慮なくローストビーフを口に入れる。


「……美味ひぃです。これ!」

「これから交流会がありますから、ちゃんと食べてくださいな」

「はい!」

「それにしても……はぁ。どうして私がこのような者と組み、噂のフィールド・ダンジョンに入らなければなりませんの? いつもと変わり映えしませんわ」


 エルシィの話の矛先ほこさきが急に付き人の方を向く。

 彼女の傍に控えていた少年がギョッとしたように目を見開き、手に持っていたタンブラーを丁寧にテーブルの上へ置いてから主張を始める。


「エルシィ様。そんなに嫌がらないでください……。命に代えても貴女様をお守りするつもりでいますので」

「過保護なのが嫌だと言っているのです」

「……はい」


 エルシィは彼女の付き人と共にランキング入りしてからというもの、毎日のように不満を口にしていた。確かに主従関係があったとしても、男女という微妙さから、嫌気を感じるのはわからなくもない。

 しかし、こうして付き人がショックを受けているのを見ると、若干気の毒に思えて来る。


「うぅ……空気が重いです」

「本当はステラさんと共に、ダンジョンを探索したかったのですわ。楽しみが半減いたしました」

「二人だけのパーティじゃなくて、もっと大人数だったらよかったですね。でも、帰国後もいっぱいチャンスはあると思うです。エルシィさんとは今度一緒に行きたいです!」

「是非!」


 エルシィが幸せそうに微笑み、頷いてくれたので、ステラはホッとする。

 実はこの学校で出来た友人ケイシーと探索するのが楽しみだったりするが、この場でそれを言う勇気はなかった……。


 レイチェルはそんなステラ達をニヤニヤと眺めた後、思いもよらないことを話し出す。


「実はさ、あのランキングの組み合わせはね、マイアさんに仕組んでもらったんだ」

「「「ええ!?」」」

「普通の投票にしていたら、絶対あたしや王女様がランキング入りすることなんかないじゃん? だから投票数の改ざんしてもらったんだよ」

「凄くちゃっかりさんなんです」

「体験できるもんは、あまさず体験しときたいからね~」


 悪びれた様子もないレイチェルをエルシィが複雑そうな表情で凝視する。


「レイチェルさん……」

「どうしたの? 王女様」

「か、感謝いたしますわ。本当であれば、私がやるべきでした。ステラさんには例の件があるのですから」

「いーのいーの!」


 ステラは彼女達二人に対しても、今日やろうとしている行動を伝えている。

 メインで動くのはステラやアジ・ダハーカ、エマ。そして宿舎の学院生たちであるが、念のためにレイチェルにもフォローをお願いしたのだ。

 エルシィにはメイリン・ナルルの賠償金を支払う義務はないため、協力してもらわなくても良いのだが、責任感の強い彼女のことだから、想像以上に重く受け止めているのかもしれない。


「というか、ステラさんが危険な目にあうだなんて、耐えられませんわ! メイリンさんへの賠償金は、責任をとって我が王室から支払いをっ――」

「うああ!! そういうのはやめてくださいです!! 自分の力で解決したいです!!」


 こういう情けない件で実の両親に自分の名前が伝わるのは避けたいところである……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る