売店係は仲間を増やす

 月曜日の夕方、ステラは再びケイシーと共に売店に立つ。

 自分の命が危険にさらされていてもアイテム販売をやめられないのもおかしいが、これはもうライフワークになってしまっていて、やらないと落ち着かないのだ。

 持ち込んだ自作アイテムが全て売り切れると、用が済んだとばかりにアジ・ダハーカがふらふらと飛び立ち、見送るステラにケイシーから声がかかる。


「昨日の。美味しかった。有り難う」

「あ。は~い!」


 一瞬何の事かと思ったが、すぐに朝配った焼き菓子のことだと思い至る。

 土曜日に外出した際、自由に動けない宿舎の皆の為に、大量の焼き菓子を買ってきた。日曜日に配った時、ケイシーはうかない顔をしていたけれど、ちゃんと食べてくれていたようだ。


「流行のお菓子を口にする機会がないから、皆もよろこんでいたよ」

「なら、良かったです!」


 ちなみにガーラヘル王国の家族や友人にもお土産を色々購入してきた。

 義兄にはミスリルインク、コリンやフランチェスカ、ロカ等仲の良い友人達には、ステラが作ったアイテムを入れられるような綺麗なガラス瓶を選び、全部アジ・ダハーカの収納につっこんでいる。


 ケイシー達が焼き菓子の味を気に入ってくれているなら、ガーラヘルに持って行く用にもう一箱買えばよかったかもしれない。

 まだ何か言いたそうにするケイシーを尻目にボンヤリしていると、校庭の方から小柄な少女が小走りで近寄ってくる。


「おぉ?」

「君、ステラ・マクスウェルだよね?」

「そうですけども。もう私のアイテムは売り切れてしまったです」

「アイテム? そんな物に用はないよ。これを渡しに来ただけだから」


 彼女はツヤツヤした布から真っ赤な封筒を取り出し、カウンターの上に乗せた。

 差出人は”イブリン・グリスベル”となっていて、ステラは伸ばした手を一瞬止める。

 その隙に少女はさっさと立ち去ってしまう。


「今の上級生、イブリン・グリスベルの侍女をやっている人だ」

「そうだったですか」


 ケイシーが剣呑な目つきをするのは、ステラとイブリンの仲を疑い始めているからなんだろうか。なんだか心外な気持ちになるも、とりあえずは手紙を優先する。

 封蝋ふうろうで閉じられたそれを、雑に破って中身を取り出す。

 すると、便せんと一緒に地図らしき紙も出てきた。


「地図も入ってるですね」


 実のところ、今朝ステラは3年生の階まで行き、昨日書いた手紙をイブリンの机の上にのせて来た。これはきっとその返事なのだ。


 ケイシーに怖い顔で観察されながら、ステラは便せんを取り出し、文章を読み上げる。


「え~、”親愛なるステラ・マクスウェル様。一昨日は~”」

「っっ!? 普通口に出して読まない! というか、迷惑だからやめてほしい」

「あ、ごめんです。業務妨害だったです」


 配慮の方向が間違ってしまい、ステラはぺこりと頭を下げる。

 気を取り直して、便せんを黙読してみると、内容は想像通りとなっていた。

 高純度ナスクーマ大聖水の場所を地図で教えるとのことと、儀式の予定日が書かれていたのだ。


「……スカル・ゴブレッドの儀式は、この学院の在校生と交換留学生達の交流会の後――深夜0時みたいなんです」


 ステラの言葉を聞き、ケイシーの顔に緊張が走る。


「私にその情報を伝えてもいいの? だって、ステラ。あんたは土曜日にグリスベルの親族の店で、彼女と会食したのに」

「友達とランチしてたらイブリン・グリスベルさんに押しかけられただけなんですっ!」


 まるで、ステラがイブリンと親しく接しているとでも言いたいかのようだ。

 普通に迷惑だったため、力を込めて真実を伝える。

 それでもまだ疑うような様子をみせるケイシーの為、もう一歩踏み込んだ話をすることとした。


「次の儀式のエーテル源は私になったです。ケイシーさんなら、この意味がよく分かるですよね?」

「なんでステラが!? 他にも留学生はいるのに」

「生まれつきMP量が多いんです。ずっとそれを隠してましたが、スカル・ゴブレッドに情報がいっちゃったみたいです」

「……」

「ケイシーさん」

「な、何?」

「貴女はエリーゼさんとは会えましたけど、それとは別に、スカル・ゴブレッドを止めたいですよね?」

「うん……。最初はエリーゼのことしか考えてなかったけど、今はスカル・ゴブレッドを放っておけない。善意というより、復讐の一環みたいなものだけど」


 ケイシーの目に憎悪の炎が灯るのを見とどけ、ステラはユックリと告げる、


「宿舎の皆に協力してほしいです。ケイシーさん、皆さんに私に協力してくれるように呼びかけてくれないですか? 作戦とアイテムは共有しますから」

「呼びかけくらい、いくらでもやるよ。あんたはエリーゼと再会させてくれた恩人なわけだし、なにより、学院に新しい風を運んで来てくれた。このチャンスを逃すわけにはいかない」


 彼女の想いはたしかなようだ。

 本日は月曜日で、儀式がある土曜日の午前0時まであまり時間がないが、多くの人々と協力出来たなら、この学院の悪しき組織を潰すことが出来るだろう。


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