交換留学生に迫る危機
スカル・ゴブレッドのリーダーと会話している凜とした美少女は、ステラの実の姉エルシィだ。彼女の美貌は整った顔立ちの者が多いこの学院においてもなお、輝きを放つ。ステラはその姿を棚の上からうっとりと眺める。
(いつみても、エルシィさんは素敵だなぁ。うへへ)
緊張感も忘れて、エルシィを観察するステラだったが、少し離れた場所からギリリッと嫌な音が聞こえたので、そちらを向く。
音の出所はステラ達交換留学生の案内役をやってくれているケイシーだ。彼女は階段の手すりを強く握りしめている。
その表情は厳しく、とても暗い。
スカル・ゴブレッドのリーダに対して、個人的な恨みでもあるんだろうか?
ケイシーの様子をまじまじと見つめているうちに、エルシィ達二人の会話は終わったようだ。
スカル・ゴブレッドのリーダーが上品なお辞儀を一つして、立ち去る。
エントランスに集まっていた国立魔法女学院生も三分の二ほどが、彼女に付いていったので、もしかすると彼女達もスカル・ゴブレッドのメンバーなのかもしれない。
人数の多さに圧倒される……。
スカル・ゴブレッド達が消えたエントランスは閑散とし、だいぶ静かになった。
再びエルシィの方を見てみれば、近くには彼女の付き人がいるし、近衛師団からも4名ついてきているようだ。
何かと縁のある彼等の顔は、ステラももう覚えてしまっている。
今なら近づいても問題ないだろう。
棚の上から慎重に下りて、一目散にエルシィへと駆け寄る。
「エルシィさん、皆さん。こんにちわ~! です!」
エルシィはステラの顔を見るやいなや、美しい顔をパッと輝かせた。
「まぁ、ステラさんっ! ご機嫌よう。そのお姿を見るに、ご無事で到着なさっておいでのようですわね」
「エルシィさんも!」
「……ご健在でなによりです。ステラさん」
「付き人さん、どーもです~」
「その者は放っておいても問題ありませんわ。それよりも、ステラさんの旅路を教えてくださいませ」
エルシィのあんまりな言い方に、付き人は苦笑いする。
彼等のヘンテコな関係性が少し面白く、ステラはにやけながら、エルシィ達が居なかった時の話を始めた。
「けっこう死にかけたですが、何とか生きてるです! 交換留学の人たちが強い人が多いからかもですね!」
「聞く話によると、やはりクラーケンやワイバーンが襲ってきたようですわね。ステラさんがご活躍されるのを、傍で拝見したかったですわ! そして、出来ることなら、私も参戦いたしたかったわ……はぁ……」
「私たちが進んだ航路はとても安全でした。モンスターの脅威がないばかりでなく、波も穏やかで……。それがエルシィ様には物足りなかったようですが」
エルシィや付き人の話を、ステラは「ふむふむ」と聞く。
そんなに安全な船旅が出来たのなら、彼女達について行きたかったような気もしてくる。
メイリン・ナルルとの理不尽なやり取りを思い出すとゲンナリしてしまう。
ステラ達がノンビリと現状報告をしあっていると、レイチェルが合流し、エルシィに独特な挨拶をかました。
「ヤッホー、王女様。ついに
「ゴッホン! 相変わらずですわね、レイチェルさん。皆さんも」
エルシィの言葉により、ステラはようやくエントランスホールや階段に、ガーラヘル王国から来た交換留学生達が集まっていることに気がついた。
そして、大事なことを思い出す。
今だったら、先ほど仕入れた情報を全員に伝えやすい。
エルシィとレイチェルの会話が途切れるタイミングを見計らう。
「――先ほどの紅色の髪の女性? あの方はテミセ・ヤ連邦議会の副議長フレッドル・グリスベル氏のご息女イブリン・グリスベルさんですわ」
「へ~、イヴりんって言うんだ。あだ名で呼び合うだなんて、仲いいんだね」
「あだ名? そんなんじゃありませんわ」
「あのっ! あのっ! 会話を遮っちゃってごめんです。ここに居るガーラヘルの人たちにお話したいことがあるです!」
「あら? どうなさいましたの? 遠慮など不要です。お話してくださいませ」
優しく促され、ステラは大きく息を吸い込む。
「えぇと……。心を落ち着かせて聞いてくださいです。私たちのうち、誰かが交換留学期間中に、死ぬかもしれないんです……」
「まぁ!? 本当にっっ!?」
ステラが精一杯怖い顔をしてすごんで見せると、エルシィは衝撃を受けたようによろめいた。
レイチェルとエルシィの付き人はぽかーんとし、他の面々は表情の作り方に困っているような感じだ。
この様子だと、信じていない人もいるだろう。
だけども、スカル・ゴブレッドの危険性を認識し、気をつけてもらえなければ意味がない。仕方がなくステラは後方に居る人物に念押ししてもらうことにした。
「そういう話でしたよね? ケイシーさん」
「そうだよ。デイジーが私に嘘の情報を伝えたことなんかない。マシな情報筋から入手しているから。交換留学生はスカル・ゴブレッドの連中の黒魔術に使われようとしているんだ。この学校の貧乏学生達みたいに」
「なんか、凄くエグいことを聞いてしまったような気がするです……」
ケイシーは、その瞳の中にほの暗い炎を灯す。
彼女はきっと、スカル・ゴブレッドに、そしてイブリン・グリスベルに、何か良くないことをしようとしている。
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