宿舎のヤバイ事情
スカル・ゴブレッドのリーダー、イヴリン・グリスベルが立ち去った後、ケイシーがこの学校の薄暗い事情を語ってくれた。
数年前から立て続けに起こる事件。それは約3ヶ月に一度の頻度で、宿舎に住む学生が一人ずつ消え失せるというもの。
不審者やモンスターが入り込んだというわけではなく、何かの用事があったわけでもない。前ぶれなく人が居なくなり、そのまま見つからない。見つかったとしても、長雨の後に土の中から変わり果てた姿で出てきたりする有様。
殺人鬼が学院内にいるのではないかと、警察官達が捜査に来たこともあったそうだ。しかし、彼等は満足な調査を行うことなく、数日――ひどい時にはたった1日で、引き上げていく。もちろん何も発見することなく、手ぶらでだ。
ケイシーの幼なじみもまた、長期休暇に実家に帰って来なくなった。
不安に思った親御さんが学院内の友人に手紙で問い合わせたところ、学院から消えてしまっていたことが判明した。
彼女の親と学校、そして警察の間で、何度もやり取りがあったが、結局未解決に終わってしまったらしい。
ぞっとするようなケイシーの話を、ガーラヘル王立魔法学校の面々は最後まで黙って聞いたのだった。
◇◇◇
その日の夜、ステラは自室で先ほどのケイシーの話を思い出す。
「スカル・ゴブレッドの権力は絶大な感じがするなぁ。……はふぅ」
本日の授業の復習をしたいのに、なかなか集中出来ない。
同じ学校に危険人物集団が居ると分かると、なんだか全身がゾワゾワするのだ。
ステラの独り言が気になったのか、アジ・ダハーカとエマがこちらを向いた。
「ぬぅ? もしや、お主。ケイシーとやらが先ほど話していた事件について、考えておったのか?」
「うん。スカル・ゴブレッドの人たちとは、これから関わるですから。どうしたってモヤモヤしちゃうです」
「そうだのぅ。この国は、ほんの数十年前までは階級制度があり、貴族と庶民の区分けがハッキリしておった。今でも元貴族以外は人ならずと、暗黙の了解があるのだ。その所為で、少女達の殺人を黙認するような雰囲気になっているのかもしれん」
「そうだったですか……」
この話が本当なのだとしたら、流石にスカル・ゴブレッドは害悪集団すぎる。メイリン・ナルルが解体を望むのも無理はないのかもしれない。
それともう一つ、心配事が出来てしまった。
ケイシーの発言を重く考えたエルシィが、スカル・ゴブレッドのリーダー、イブリン・グリスベルを直接問いただしてみると言いだしたのだ。
正義感の強い人だから、仕方がないのかもしれないが、相手集団のやばさ加減を思えば、不安になるなという方が難しい。
「――やっぱり、エルシィさんがイヴリンさんと話に行く時、私も同行した方がいいのかな?」
「うぅむ……。王女には近衛の者どもが付いておるのではないか? お主が直々にイヴリンと話したいと言うのであれば、止めはせぬが」
「どうしよ」
エマの揺れる瞳を眺めながら、今後の行動について考え込んでいると、コンコンと部屋の扉が叩かれた。
もうすぐ午後9時を回ろうかという時刻に、一体誰が来たのだろうか?
首をかしげながらも、返事を返す。
「ほいっ! どなた様なんですか??」
「ステラ、今から時間を貰えない?」
「その声、ケイシーさんです??」
「そうだよ」
彼女が訪ねてくるのが意外だけれど、もしかすると重要な事を伝え漏れているのかもしれないので、扉を開ける。
すると、黒い布を頭から被ったケイシーが物
格好がかなり不気味なものの、彼女自身の恵まれた容姿と、まとわりつく人工精霊のおかげで、どこか神秘的な存在に見える。
「もう寝るところだった?」
「えっと……。もう30分は起きてるですよ? それだけで大丈夫なら、付き合えるです」
「オーバーするかな。それでいいなら、付いてきて」
そう言うやいなや、ステラの返事も待たずに歩き出す。
こうして迎えに来てもらったら、応じないわけにもいかず、ステラは足をもつれさせながら彼女について行く。
さらにその後ろからアジ・ダハーカやエマも付いて来たので、足音だけで廊下が
「ケイシーさんは、降霊術でもやるつもりなんですか? なんだかそれっぽい服装をしてるです」
「まぁね。まだ未熟なんだけど……。でも、今日は幼なじみが行方不明になった日。条件的にいつもよりはマシだから、降ろせるかもしれない」
「ひえっ……」
なんてことに付き合わせようとしているんだろう。
ケイシーは行方不明になった幼なじみを死んだと考えていて、彼女をこれから呼ぼうとしているのだ。
というか、もしかしなくても、彼女がこの学校に居る理由は幼なじみのゴーストと接触したかったからなんだろうか?
そして、ネクロマンサーなんてジョブを選んでいる理由もそこにありそうだ。
ケイシーがこれからやろうとしていることを聞いた瞬間は、きついと思ったけれど、彼女の健気さを思えば、付き合わざるをえない。
あわよくば、幼なじみの身に起こったことを、当人の口から聞けるかもしれない。
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