3分割される勢力図

 レイチェルのお陰で、ステラがアイテム作成を得意としていることが、クラス全員の知ることとなった。彼女達はステラのアイテムを欲しがったが、幸いにもアジ・ダハーカの収納の中に必要分だけの在庫があったため、全員に渡すことが可能だった。

 ただ、残念ながらこのクラスの生徒達はあまりお金持ちではないらしく、値引きの要求が凄かった。

 彼女達に宣伝をする代わりとして、原価(アイテム作成にかかった費用)で売ることにしたものの、ロカが正確な計算をしてくれていなかったら、赤字をくらうところであった……。


 しかし、これだけ熱狂的にアイテムを欲しがられるのは少し意外な感じだ。

 ケイシーにコッソリ聞いてみると、国立魔法女学院の宿舎住まいの生徒達は基本的に学院の外には出られない。だから、目新しい物は何でも歓迎されるのだそうだ。


 外出出来ないと聞き、ステラはこの学院の生徒会長の顔を思い出す。

 彼女にここまで連れてきてもらったわけだけど、彼女は許されるのは何故なのか。

 だけど、よくよく考えると、彼女は宿舎で暮らしてはいなかった。宿舎で生活する生徒達と、実家住みの生徒達は根本的に違いがあるのかもしれない。


 アイテムを配ったおかげなのか、ステラとレイチェルはクラスの皆から好意的に接してもらえた。

 ステラ達の席の近くに椅子を並べ、やかましいほど喋り倒す。学院内のお勧めスポット、そして売店で買っていくべきお土産などなど。ステラ達が質問したことはもちろん、聞いていないことまでも話してくれる。

 この状況をみて、ケイシーは驚いたようだ。


「この子達、いつもは辛気くさい顔ばっかりなのに、今日は随分とマシな表情だ」

「もしかしたら、私たちが新鮮な風を運んで来たったかもですね。うへへ~」

「……そうかも」


 調子に乗ってヘラヘラと笑うステラに気を悪くするでもなく、ケイシーは軽く笑った。

 

「ステラ達が来てくれたの、めんどくさいばかりじゃなかった。オマエ達2人は仲間として、スカル・ゴブレッドから守ることにする」

「有り難うなんですっ!」

「宿舎の皆にも話しておくから」

「おぉ……」


 そういえば、先ほどケイシーは友人らしき女生徒から手紙を受け取り、交換留学生に危険が及んでいることを伝えられていた。ステラ自身もお昼辺りに、ガーラヘル王立魔法学校の生徒達に伝えて回った方がいいだろう。

 伝える対象の名前と顔とを思い出していると、教師がやってきて、ステラ達の状況に目を丸くした。彼女にとっても、珍しい光景だったのかもしれない。


 ホームルームでステラとレイチェルが軽い自己紹介をした後、授業が始まる。


 その内容は、ガーラヘル王立魔法学校よりもずっと専門的だった。

 午前中に行われたのは”バリア構造学”という、耳馴染みのない学問。どうせ訳の分からない話を延々とされてしまうんだろうと、高をくくっていたのだが、聞いてみるとなかなか楽しい。

 バリアというのはそもそも魔法によるもの、アビリティによるもの、そしてアイテムで生成されるものなんかがある。

 それらは生成の仕方は異なるものの、だいたいが反エーテル粒子の構造体となっていて、バリアそのものに目には見えない模様が出来ているのだそうだ。

 その模様を予測することで、もろい部分を砕くことが出来るし、構造体が荒いバリアであれば、攻撃を貫通させれる。

 ”バリア構造学”を極めたなら、かなり強くなれそうな感じだ。


 ただしかし、講義のボリュームが多く、それでいて濃いため、お昼の予鈴が鳴った時には頭がみっちりと詰まった感覚になってしまった……。

 これを毎日こなしている、この学校の生徒達はかなり優秀なことだろう。


 ヨロヨロと教室を出た後、ケイシーの案内でカフェテリアへと向かう。


 すると、エントランスホールに多くの生徒達が集まっていた。

 それぞれの生徒が好奇心をむき出しにした顔をしていながら、緊張感のようなものも漂っており、普通の空気ではない。


 何事かと思い、階段状の棚の上によじ登って見てみれば、知っている人物が中心に居た。


(わわ! エルシィさんが居る!)


 ガーラヘル王女でありながら、ステラの実の姉であるエルシィが到着していて、スタイルの良い女学院生と向き合っているのだ。


 状況はさておき、エルシィの自信満々な表情を確認し、ステラはホッとする。


(エルシィさん、何事もなく着いたんだ! 良かった~)


 それにしても、何故到着早々に上級生らしき生徒に絡まれているか?

 紅色の長い髪を外ハネにセットした、いかにも気の強そうな女生徒なのだが、雰囲気から察するに、金持ちの家の令嬢のようだ。二人は顔見知りとかだろうか?

 不思議に思い、自分のまぶたの上に右手をあてて観察を続けていると、下から声がかかる。


「――貴様、余所の学校に来ているというのに、無作法な真似をするなよ」

「わっ。生徒会長さん……」


 棚の上に乗っかっているのを自分の学校の生徒会長に、見つかり、気まずくなる。

 だけども今は、彼に聞きたいことがあるので、細かいことは気にしないことにした。


「あの紅い髪の女の人は誰なんですか?? エルシィさんと話してるのが気になるです」

「テミセ・ヤ連邦議会の副議長の娘で、国立魔法女学院スカル・ゴブレッド支部のリーダーだな」

「え……、あの人が?」


 スカル・ゴブレッドのリーダーが権力者の娘だなんて、初耳だ。

 こんな相手とまともにやり取り出来るんだろうか?



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