異国の地で売れたアイテム

 ショートカットの少女がケイシーに渡した紙切れは、イチゴの形に折られている。そうした細かい気遣い部分に、女子校らしさを感じ、ステラの心はホッコリとする。きっと、あの紙の中には美味しい食べ物の情報など、良い事ばかりが書かれているに違いない。


「……金と情報どーも。また後で」

「また~……ん?」


 少女はそのまま立ち去るものだと思いきや、振り返る途中で、カウンターの上に視線を止めた。


「珍しく新商品が入荷してる」

「新商品じゃないね。ここにいる留学生が作ったアイテム」


 二人の会話を聞き、ステラはハッとする。

 今ここで宣伝しないで、どうするというのだ。

 彼女の視線がアイテムの小瓶の上あたりを彷徨っている間にと、ステラは慌てて説明する。


「えぇと、左から”ポーション”、”忘却薬”、”異界の水”、”ピリピリの水”なんです。使用効果は結構いいので、もしよかったら買っていかないですか?? ……あれ?」


 ステラが懸命に説明する間、彼女はじっとステラの顔を凝視していた。

 それで、何かに合点がてんがいったのか、ステラの言葉が終わるやいなや、ビシリと指さしてきた。


「オマエの名前は、もしかしなくてもステラ・マクスウェル??」

「ギクゥ!? 何故ばれたですか??」

「だってさ、向こうの学校のトップが入れ替わるってんだから、どうしたって記憶に残るよ。アイテムを作るってことは、アイテム士なわけだし、ステラはあのロンゲ野郎をテストか何かで負かしたんだろ?」

「ロンゲ……。グウェル生徒会長です??」

「そそ~~。グウェルって、昨年も一昨年もこの学校に来たじゃん?」

「うん」

「知っての通り、うちの学校は女だらけ。そんな中に男で、しかもイケメンときたもんだから、当然モテていたわけだよ」

「やっぱモテモテだったですか」

「だけど、あいつ。女達に『オレサマよりも、ブス』とか、『頭が悪くて品がない』とか、『クセェ』だのと言いたい放題だったもんだから、生徒・先生問わず、校内中の女たちからヘイト集めてた。んで、『ミンナでアイツを潰しちゃおうぜ~』って、祭みたくなってね」

「ほ、ほ~……」


 なんだか身内の恥を暴露ばくろされている気分になり、反応しづらい。

 

(生徒会長とは、友達ですらないんだから、気にすることな……。あ、違った。この前友人ってことになった気がする)


 それはさておき、どうやってこの話題を切り抜けようか。

 考えこんでいるうちに、ケイシーが間に入ってくれた。


「上級生の話では、グウェルは返り討ちにしたらしい。グウェルはあの人たちよりもマシな実力をもっていた。束になってもかなわなかったんだから、恥ずかしい話だよ」

「そーね。だからこそ、ステラがあのいけ好かないロンゲをやっつけた事に意味があるわけ。ってことで、オマエが作ったアイテムはスゲーんだろうな。”異界の水”……なんて、名前を聞いたこともない」

「これは、私が作ったわけではないです。とある場所から汲んできただけというか」

「どんな効果?」

「この水がかかった人やモンスター、物とかのエーテルの流れを妨害出来るですよ。それと、アイテムの制作に使ったら、質が上がるです」


 ステラがザックリすぎる説明をすれば、少女は目を輝かせた。


「面白い効果なんだ! ちょっと使ってみたさあるかも。一本幾らになる?」

「銀貨2枚もらうです」

「じゃあ、ケイシーの分と合わせて2本買おう」

「わ~い! まいどです!」


 ショートカットの少女からお代を貰い、”異界の水”の小瓶を1本は彼女に、そしてもう一本は隣に座るケイシーに手渡す。

 ケイシーは淡泊な反応を返しそうなものなのに、ステラからアイテムを受け取ると、ワクワクとした表情をした。


「有り難うダリア。こういうちゃんとしたアイテムって使ったことないから、少し楽しみかもしれない」

「いいよ。これ使って、スカル・ゴブレッドをやっつけよう」

「そうだね」


「ん?」


 聞き捨てならない言葉が耳に入り、ステラは二人の顔を交互に眺める。

 だけども、ダリアと呼ばれた生徒はもう売店には用はないとばかりに、きびすを返し、離れて行く。

 二人とも普通の少女に見えるけれど、学院の裏組織に対して、何かしかけようとしているようだ。しくもそれはステラも同じ。もしかするとケイシー達と連携することで、結構簡単に目的を達成することが出来るかもしれない。

 そう思ったステラは、ケイシーへの賄賂として、もう3種類のアイテムを一本ずつ手渡すことにした。


「なんのつもり??」

「ス、スカル・ゴブレッドのことをもうちょっと詳しく教えてほしいんです。ケイシーさん達はあの組織を何でやっつけたいですか?」

「あんまり関わるとマシなことにならないと思うけど。今回はステラ達にも無関係ではないし、教えてあげてもいいよ」

「無関係じゃないですか!」


 ケイシーは苺に折られた紙を広げ、ため息をついてみせた。


「見て。ステラ達は危険な立場になりそう」


 渡された紙には文字が書かれており、ステラは目をまん丸にしてそれを読んでみた。


”明日12月9日。交換留学生の中からが選ばれる。我々で守護する必要があるだろう”


 この学院内で、何か大変なことが起きようとしているようだ。



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