余所の学校の売店

 朝7時に国立魔法女学院の生徒ケイシーの訪問を受けたステラは、ボケボケの状態で朝食をせかされ、適当な身支度のまま学院の敷地内にある売店へと連れて行かれた。

 昨日学院の生徒会長サンドリーへのお願いが早々に実現されたのである。


 図書館棟に併設されたそこは、入り口は図書館からになるのだが、カウンター前の戸を開けると外と繋がる。――生徒が校庭を歩くついでに、売店で買い物を出来る仕組みなのだ。

 しかも、図書館棟の重厚感のある外壁に違和感なく収まるくらいに、凝ったデザインになっているため、まともなお店を任されたような気分になる。

 

 ステラは一度行儀悪くカウンターの外へと出て、柱やはりほどこされたドラゴンのレリーフをしげしげと眺める。相棒は自らの姿に似てるなどと言うが、正直数倍かっこいいデザインだ。


「珍しい?」


 ここまで連れて来てくれたケイシーに問われ、素直に頷く。


「こんなに綺麗な売店は初めてみたです。こんな所で働けるケイシーさんが羨ましいです」

「他と比べたらマシなのか」


 ケイシーは適当な返事をしつつ、テキパキと手を動かす。

 なんと彼女は偶然にもステラと同じく、学院の売店で働いている生徒だった。しかし、彼女の場合は売店に立つことでバイト代を受け取っているとのこと。

 ステラの状況と少しばかり異なる。


 ケイシーから伝え聞いたサンドリーの言葉は、『ケイシーと一緒なら、この学院においても売店に関わってよし』だそうなので、ステラがどのくらい働けるかは、ケイシーが同行を許すかどうかが鍵になりそうだ。


「――ステラ。自分で作ったアイテムを売りたいって話だったね? カウンターの隅を使って」

「う、うん。親切にどうもです」

「他の商品とは分けといた方がマシってだけ。正規の売り物と混ぜられたりなんかしたら、客で混雑したときにゴチャゴチャしそうだから」

「あ~、確かにです」


 ケイシーの話しぶりは、ボンヤリ聞いているだけだと無愛想だし、非常に迷惑がっていそうな感じだ。だけど、普段ステラ自身が売店にたつ時のことを思い出せば、ケイシーの気持ちも分かる。

 たぶん、真面目に働きたいってだけなんだろう。


 ステラは彼女に向かってニカッと笑いかけてから、図書館入り口から売店内部へと戻った。


「あんたのアイテムって、事前にこの学院に送っておいたりした? だったら――」

「アイテムはこのドラゴンが持ってきてくれたですよ。アジさん、頼むです」

「うむうむ」


 ステラの求めに応じて、アジ・ダハーカは【無限収納】の中からポーションや忘却役、異界の水、ピリピリの水などを取り出す。

 どんどんと出てくるアイテムの数々に、ケイシーは流石に驚いたのか、目をしばたかせる。


「凄い便利なドラゴン……」

「アジさんは良い相棒なんですよ~! へっへへ~」

「いかにもっ。もっと褒めてくれてもよいのだぞ」


 ステラとアジ・ダハーカがどや顔を見せると、ケイシーはほんの少し口元を緩めたが、すぐに咳払いをし、顔を引き締める。

 そして、ステラ達への興味を無くしたように木箱から商品を取り出す作業を再開してしまった。

 ――楽しく過ごしてはいけない決まりでもあるんだろうか?


 不思議に思いつつも、友達でもない人の心情を考え続けているのも変なので、自分の作業に戻った。

 自作アイテムは、いきなり売れまくるなんてことにはならないだろうし、カウンターに4つずつ並べることとした。


 アイテムが並ぶ光景をみた相棒が、ボソリと呟く。


「ロカの奴、首尾良くやっておるかの?」

「あ……」


 そういえば……、と思い出す。

 ロカにアイテムの梱包。そしてガーラヘル王国の各駅の売店や、帝国の冒険者ギルドへの発送をお願いしてしまっている。

 快諾かいだくしてくれてはいたものの、彼女はもうじきガーラヘル王立魔法学校で臨時講師として働く。当然準備したいことなどがあるだろう。

 もちろんお手伝い料を支払うつもりではいるが、急に悪いことをしている気分になってくる。


(何かお土産とか買っていこう。この学院で親しい人が出来たら、お土産としてよろこばれそうな物を聞いてみることにしよ)


 今一緒に居るケイシーに聞けたら一番いいけれど、黙々と手を動かしている彼女の邪魔はしたくはない。

 ステラがアレコレ考え事をしているうちに、ケイシーの商品陳列ちんれつは完了し、本日初めてのお客さんがやって来た。


 一瞬男かと思ったが、ショートカット姿の、すらりとした女生徒だ。

 

「おはようさん、ケイシー。……その女の子だれ?」


 ステラの制服がガーラヘル魔法学校指定のものなので、やっぱり浮いてしまっているらしい。存在を認知されてしまえば、知らないふりも出来ないため、ステラはぺこりと頭を下げる。


「交換留学で来た子。一緒に売店やることになったんだ」

「コレがっ!? 幼稚園を卒園して、1,2年くらいの歳にしか見えないけど!?」


 ほぼ暴言的なことを言い放たれ、ムッとする。

 アジ・ダハーアが可愛らしい仕草で宥めてくれなかったら、あばれるところだった。


「――普通の学校より、魔法学校のがマシなんじゃない? そんなことより、客がとどこおるから、早く買う物を言って」

「ん~、何にしようかな。【眠気打破ねむけだは】にしようか」

「銅貨一枚だね」

「はい。それと、例のモノも」

「……」


 ショートカットの少女は、綺麗に苺型にたたんだ紙切れをケイシーに手渡した。


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