次期生徒会長の座?
スライムテストを終え、いつも通りの午後を過ごしたステラは、放課後に売店の当番をこなした。
テストのトップ通過者であるステラが店番をするとで、売店には普段よりも多くの生徒達が訪れ、アイテムは飛ぶように売れる。早々に在庫切れを起こしてしまった。
とはいえ、決められた時間よりも早く閉めるわけにもいかず、ステーショナリーやちょっとした雑貨やらをチマチマと販売し続けている。
そんなステラの元に、3年のヘッセニアが訪れる。
怒りを押し殺したような声をかけられたので、ステラはパッと顔を上げた。
すると、目の前に立つ美少女は頭の下で結んだ麦色の髪をパッと後ろに払い、尖った目でステラを見下ろした。
「ステラ・マクスウェル。あんたさっきのテストでいかさましたよね? わーるいんだ」
「イカサマ? って、サギって意味だったですか?」
「それ以外の意味なんかないし!」
「だったら、身に覚えがないですけども……」
「変なアイテムでスライムを分裂させてたじゃん」
ヘッセニアのこの言葉により、彼女が先ほどのスライムテストの結果に不満を抱えているのが分かった。だけれど、テストの案内書にはスライム自体を分裂させてはいけないとは書かれていなかった。それに、あのときステラが分裂してから倒しても、カウント役の教師は”分裂前”と”分裂後”の両方を数えてくれていた。
なので、ステラはさっきの行為を認められたと思っていたりする。
「ヘッセニアさん以外の人からは怒られていないので、さっきのは大丈夫な気がするです」
「スライム分裂させるなんてあり得ない。センセーが用意した個数から変えないでしょ。ふつー」
普通の基準が分からないので、ステラは黙り込む。
こういう時は何を言っても駄目だろう。
「それにさ、あんたが使ってた【連続炎爆】の連鎖数を数えて、必要になるMP値を計算してたんだけど、おかしいっしょ。なんであんたのステータスのMP――」
「やめろ、ヘッセニア。聞き苦しい」
ヘッセニアの後方から現れたのは生徒会長だった。
その途端、ヘッセニアは慌てふためくように取り繕いだしたので、彼女がステラに絡んだ理由が察せられた。
つまり、彼女は生徒会長と仲良しであり、生徒会長がステラに負けたことが認められないってことなんだろう。
ステラは気まずい気分になり、言い争う二人をそのままに、ノロノロと売店のカウンターを片づける。
「――ステラ・マクスウェルは純然とした実力で俺様を下したんだ。スライムを分裂させ、凶暴化したなら、一歩間違えたら自分に危険が及ぶんだぞ。そうなるよりも早く全てを焼き切ったんだから、実力以外の何者でもない」
「でも!!」
「だいたい、さっきの妙なアイテムだって、市販されているのを見たことがない。コイツ自身が作ったんだとしたら、負けるのは当然だ。交換留学から帰った後は、ステラ・マクスウェルを俺様の後任とするぞ」
「嘘でしょっ!? マクスウェルのしょぼいステータスで、生徒会長だなんて、他の生徒に示しが付かない!」
「ステータス情報よりも、こいつはずっと強いってことだ」
二人の会話を盗み聞きしていると、なんだかとんでもなく面倒な事を自分に押しつけられそうになっていた。ステラは手を止め、半眼で生徒会長のご
「後任って、何の話ですか??」
「次期生徒会長を貴様にやってもらう。学校で一番強い者が生徒会長をやることとなっているからな。貴様に拒否権はない」
「うげげっ。かな~り迷惑です。意外かもですが、私にはいっぱいやることがあって、毎日大忙しなんですっ」
実際、学校の売店だけでなく、王都内の駅前売店や隣国の冒険者ギルドの売店など、割と手広く商売をやっているので、生徒会長の役割を果たしているヒマは無い。
しかし、現生徒会長はステラの活動を軽視しているのか、ペラペラと話を続ける。
「いいか。ステラ・マクスウェル。実力を隠すよりも、アピールする方がよっぽど良いチャンスが巡ってくるんだぞ」
たしかにそれは、今回の交換留学に関する担任教師とのやりとりで感じずにはいられなかった。しかし――
「気が進まないです……」
「ゴタゴタ言ってないで、貴様の本来のステータスを公開して、俺様の後任者になれ」
「う~ん……」
生徒会長が言うことには一理ある。
だけども、ステラのステータスにはサブジョブが2つも表示されていて、その片割れは一般的なジョブではない。
奇異の目で見られるよりも、弱いと思われた方がまだマシなんじゃないだろうか?
◇
「ふむ。ステラが生徒会長とな」
「うん。こんな事なら、生徒会長の討伐数よりも少なくなるように、スライムを倒したらよかったかもなんです」
帰宅後、ステラは学校であったことを相棒に話して聞かせている。
このドラゴンときたら、変温動物だからなのか、冬が近づくと極端に引きこもりになる。最近ではステラ自身が強くなってきたので、学校で危険な目にあったとしても、自力で乗り切れたりもするのだが、こうして作業部屋でヌクヌクとしているのを見ると羨ましくなってくる。
そんなステラのことなどお構いなしに、アジ・ダハーカは一度大あくびをし、彼なりの考えを口にする。
「生徒会長と売店係を兼任出来るのであれば、そちらの方が良いのではないか?」
「なんでですか?」
「お主の義兄が以前あの学校の生徒会長をやっていたのだが、あやつの話では、生徒会長になった者は学校の顔になれるのだそうだ。学校外の組織を巻き込んだイベントや、他校との協力、その他モロモロなどを企画出来るのではないか?」
「面倒なだけです!」
「そんな事はないだろう! 人脈が作れるし、何よりも名前を売れる。学生の時分はそのようなツテコネは大して役にたたんかもしれんんが、卒業後に助かることもあるだろう! 『そういえば、○○学校のダレソレに頼れるかもしれない』などとな」
「なるほど……」
何となく分かるが、逆の立場になって考えてみると、やっぱり面倒になるだけのような気がしてくる。
とりあえず、交換留学から帰って来るまでの間に良く考えてみよう。
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