ランキング

 スライムテストを終え、ステラは一年生が集まる場所へと向かう。

 その間、生徒会長や他の生徒達からジットリと見つめ続けられ、かなり居心地が悪かった。しかしこれも、テミセ・ヤに行くための試練と思えば我慢出来る。


 トンガリ帽子とマフラーで顔を隠すように歩くステラの耳に、レイチェルの声が届く。


「ステラ、スライム400体も倒しちゃうなんて! ビックリしたよ!!」


 足音が聞こえたと思ったら、ぎゅむっと抱きつかれる。

 

「レイチェルさん。ぐる゛じぃ……」

「ああ、ごめんごめん! でもさ、この前の日曜日にぶっ倒れてたのって、やっぱスライム対策の為だったんだね。あんな解決策を考えるだなんて、やっぱステラって変わってる~!」

「えへへ……。でも、もうちょい控えめにやるべきだったかもですね」


 良い方法だったとは思うけれど、2位の生徒会長の討伐数とかなり開いてい差があって、悪目立ちもいいところだ。

 魔光掲示板を仰ぎ見ると、いつの間にか全参加者のランキングが表示されていた。


 1位にステラ(400体)、2位生徒会長(160体)、3位チャストラ(136体)になっており、クリスが120体で4位。レイチェルが104体で7位だ。


 交換留学生として選ばれるのは、ランキング上位10名までなので、ステラもレイチェルもテミセ・ヤに行ける。だがしかし、エルシィの名前がランキングに載っていないのが気になる。

 ランキング10位ピッタシに載っているのは3年のヘッセニア。彼女のスライム討伐数は72体なので、エルシィはもう少し頑張ったなら交換留学生の枠をゲット出来たかもしれない。


 エルシィの様子が気になり、観覧席の方を見上げてみると、ガックリとうなだれていた。彼女が今回このテストに参加した目的の一つは、自分の実力を学校の生徒達の前で披露することで、それはちゃんと達成出来たと思うのだが、やっぱり10位以内に入れなかったのは落ち込むらしい。


「うぅ……。エルシィさん、キツそう。行ってみるです」

「うん! 行こっ!」


 二人でエルシィの元へと行くと、周りの空気がジメッとしていた。


「エルシィさん。今回は残念でしたけども、来年と再来年にもチャレンジ出来るですよ。それまでに準備しようです!」


 ステラは必死に言葉をひねり出し、慰めてみる。

 すると、うるんだサファイアブルーの瞳がステラをとらえた。


「私。自分自身の実力のなさに幻滅げんめつしてしまったのです。ステラさんと親しくさせていただいてますのに、こんなんじゃ友人の資格がありませんわ」

「えええ!? 友人の基準に強いかどうかなんて、関係ないですよ! 一緒にいてホッコリしたり、楽しかったら何でもいいです!」

「本当に??」

「本当です!!」


 疑い深いエルシィに対し、胸を張る。

 彼女とテミセ・ヤに行けないのは残念ではあるけれど、お土産話で思い出は共有出来るはずだ。近い未来のそういう時間の使い方を思えば、多少会えない時間が長くとも、大丈夫な気がする。


 エルシィに対し、たどたどしく自分の考えを伝え、ついでにコリンやワトにも声をかけていると2年のチャストラが人間離れした動きで、ステラの目の前の手すりに移動してきた。


「ステラ・マクスウェル!」

「うわっ! うわぁぁ! チャストラさん!!」

「久しぶりだな!」


 ニカッと笑い、片手を挙げる様は好意的な態度だ。

 だけれど、自分に会うためにここまで来たのだと思えば、何となく身構えてしまう。


「なんか、用ですかよぉ……?」

「テストトップの者とサシで勝負だべ! と行きたいところだが、今日は違う目的があってここに来たんだ」

「む? 私にですか?」

「んだ! 実はなー、金さ困ってるだ」

「……」


 金に困っているということは、チャストラはステラにお金の無心に来たのだろうか? いくら顔見知りとはいえ、こういうのはやめてほしいものだ。

 ステラがあからさまに嫌な顔をしてみると、チャストラは「あひゃひゃ」と笑う。

 一体何が面白いのか。


「売店で、”オラの交換留学枠”を売りに出してほしいだ。可能だべ?」

「交換留学枠を売る??? チャストラさんテミセ・ヤに行かなくていいです? せっかくテストに参加したのに」

「まーな。でも、オラが余所の国さ留学行っだら、弟達が困るがらの。しかも金も無いし! 売るべ売るべ!」

「そういう事なら、協力を! ――って、エルシィさん。どうかしたですか?」


 ステラとチャストラが話している最中に、エルシィが二人の間に入ってきた。

 しかも、物言いたげに目を細めて、ステラとチャストラを交互に見る。

 

「……とても言いづらいのですけど。チャストラさんの留学枠、売店ではなく、良ければ私に売ってくださらない? お値段は弾みましてよ……」

「姫さんに? 全然いいべ」


「なぬっ!?」


 てっきりエルシィは交換留学を諦めるものと思っていたので、ちょっと驚く。

 だけれど、思い返してみると、ヴァンパイア達との決闘の際もエルシィはセコイ手を使って参加していたので、目的の為には手段を選ばないタイプなんだろう。

 しかも今回の場合は双方にとって満足度の高い取引だ。なんの問題もないだろう。



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