魔法は使いよう

 スライムテストは3年の生徒から開始し、2年の生徒、1年の生徒、と続く。


 一番人数の多い3年生が終了した後は、18名の2年生に順番が回った。

 やはり交換留学を希望している生徒は優秀な者が多いのか、各生徒がそれなりの数のスライムを倒していく。

 知人であるクリスは120体。野人チャストラは136体。と、どちらも多くのスライムを倒し、彼らを知らなかった者まで、その名を知ることとなったようだ。

 一年生の順番になり、まず最初に闘技場に入ったのはコリンで、彼もまた成長の成果を示す結果となった。ステラより1歳上の年齢でありながら、56体ものスライムを倒した。

 続くレイチェルは104体。その次のエルシィは64体……。武器の差でも討伐数に違いが出ていそうな感じだ。


 その後に4人の生徒が挑戦し、最後にステラの番となる。


 運営からのアナウンスに従い、闘技場に入り、その中央でキョロキョロとあたりを見回す。


 ステラは学校の売店係員として知られているが、戦闘能力の方はアジ・ダハーカが改ざんしたステータスの情報で推し量られている。一応決闘やら模擬戦争やらで結果を残しているものの、仲間に恵まれたとか、戦略がはまったとか、まぐれだとか思われていそうだ。

 そんなわけで、大半の生徒には、この純粋な火力勝負の舞台ではステラはあまり活躍しないだろうと予想されている雰囲気である。


 観覧席の雑談が酷い所為で、ステラの開始を求める声は一度目はかき消され、二度目に声を張り上げることで、ようやく担当教師に届いた。


 スライム運搬装置のベルトコンベアがガコンガコン……と音を立てて、動き出す。


 その上にはドッシリとしたピンク色のスライムが8匹乗せられており、なかなかに滑稽こっけいな光景だ。

 ステラはその8匹の動きを凝視し、天井まで来たところで、腰に下げたホルダーから”かしこい氷水”が入った瓶を取り外した。


 数日前の日曜日、ちょうどこの場所で【連続炎爆・改】を試していたわけなのだが、その最中に、スライム運搬装置の欠陥に気がついた。

 偶然装置の起動ボタンを発見し、押してみたところ、ベルトコンベアがノロノロとしか動かなかったのである。


 このスピードでは、一定時間に運ばれるスライムの量に限りがあるだろうと気がついたステラは、急遽きゅうきょなるべく多くのスライムを倒す方法を考えなければならなくなった。


 それでアレコレと試してみて、一番効果があったのが、スライムに分裂を促すという方法だった。

 そもそもスライムというのは夜間に一回だけ分裂することで、その数を増やしている(倒しても倒しても絶滅しないのは、この簡単な増殖が原因だ)。

 スライムテストは日中行われるわけであるが、擬似的に夜と同じ状況を作り出すことで、簡単にスライムの数を増やすことが出来、討伐数を水増し出来るというわけなのだ。


 そんなわけで、ステラは瓶からキャップを取り外し、逆さにして内容物を床にぶちまける。

 氷がくみ上げたのは【暗黒】という魔法の術式。

 半球状のドームを生成し、中に居る生物の凶暴性を上げるという効果なのだが、エルシィから貰った首飾りのおかげで、ステラはその効果を受けずに済む。


 急激に膨らんだ闇に観客達は不安の声を上げる。

 しかし、ステラには彼等の心情よりもスライムの方がずっと気にかかる。


(ちゃんと分裂してくれたかな?)


 ハラハラしながら天井を見上げていると、【暗黒】の効果が消失し、急激な外の光が目を焼く。それでもステラは我慢して目をこらす。


 スライムの落下穴が開き……、――落ちてきた。きっちりとスライム16体が。

 通常より尖った目をした奴らが、ポインッ、ポインッと間抜けな音を立てて床に落ちる。


「やったぁ! さて、倒しちゃうですよ! 【連続炎爆:改】!!」


 北地点から起爆し、まずはそこに居たスライム2体を焼く。爆破は時計回りに繋がり、与えるダメージ値を上昇させる。

 爆破一回ごとにステラのMPは200ずつ魔法陣に吸い取られるので、予め連鎖回数は決まっている。――その枠内で、どれだけのスライムを倒しきれるだろうか??


 生徒が倒したスライムの数は闘技場の魔光掲示板に表示されており、それが100体を超え……、生徒会長の160体を抜き去る。

 観覧席のざわめきが大きくなり、300体を超えたあたりで、何故か完全に無音になった。生徒だけでなく、教師までもが絶句している。


 そして、掲示板に400の数字が表示された後に、スライムが運搬装置に乗せられなくなってしまった。【連続炎爆:改】の連鎖も止まってしまい、ステラは「むむ……」と担当教師の方を見た。


「なんでスライム来ないですか……?」


「すまん……。スライムの用意が足らんかった。在庫切れだ」

「あ、そうなんだ」


 残り時間も、自分のエーテルもまだ余裕が有ったが、倒せるスライムが居なくなってしまったんならどうしようもないだろう。

 

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