スライムテスト

 ステラは土曜日と日曜日を使って、【連続炎爆】を改造してみた。

 まず一番大きく変えたのは爆発対象を物体ではなく、場所とした点だ。

 こうすることで、クリスから貰った位置情報を利用出来るようになる。

 そして、連続性を保つことも重要な事から、ターゲットの変更についても工夫した――いや、正しくは考慮から外すことを選んだ。

 つまり、爆発対象が物体であったなら、対象物が消失すると魔法効果がなくなる可能性がある(次のターゲット指定は3秒以内にしなければならないので)のだが、爆発対象が場所であれば自動化出来るし、が可能になるのだ。


 魔法を行使した直後などはどうしたって火力が上がらず、スライム一体を倒すのに、数発必要になる。しかし、【連続炎爆】の良い所は回数を重ねるごとに与えるダメージ値が向上する点であり、一周目の攻撃でりそこねても、二周目、三周目では倒しきれるはず。

 だから、次々に供給されるスライムが重なりまくっても、場所ごとの爆破でまとめて倒せるようになる。


 これを効率よく実行するため、【北→北西→西→南西→南東→東→北東】×10周となるような記述を魔法陣に組み込んだ。


 うまく発動するのかどうか気になったステラは、日曜日の夕方に魔法学校に忍び込み、闘技場で試してみたのだが、バッチリであった。

 ステラは改造した魔法を、【連続炎爆:改】と命名した。


 この魔法の花火じみた動きが気に入ったステラは、何度も何度もやってみて……、その課程でそもそもスライムの供給システムに問題があるのだと気がついた。

 その問題点を克服すべくあれこれと試しているうちにエーテル不足で気を失ってしまい、なかなかにやばかった。

 偶然学校付近でトレーニングしていたレイチェルに救助されなかったら、夕飯を食べられないところであった。


◇◇◇


 既存魔法の試し撃ちや、ロカ達と出品計画について話し合ったりしているうちに、あっという間に交換留学生選抜テストの実施日となった。

 今回の希望者は、

 3年生からは生徒会長、売店係長、園芸係長等25名。

 2年生からはクリスやチャストラ等18名。

 1年生からはステラ、エルシィ、レイチェル、コリン、ワト等8名。

 総勢51名らしい。


 だいたい2クラス分の生徒数なのが、ステラには少し意外に思えた。

 もしかすると、生徒会長が先週ステラ達にしたように、見込みの無い生徒達に酷い圧をかけて回ったのかもしれない。

 汚い手をためらいなく使える者は強い……。



 一限目から開始されたこのテストは、観覧自由となっている。

 教師達の話によると、強い生徒達はいわゆる模範的な生徒であり、そういう者達を見ることは大いに意義あることらしい。

 そんなわけで、観客席に集まった生徒達は、人気の高い生徒の活躍に大盛り上がりだ。


「うぉぉぉ!! ヘッセニア先輩最高!!」

「可愛い!!」

「もう40体目!? すっご~~い」


 今闘技場に立つ先輩の前は売店係長だったのだが、制限時間10分でなんとか1体倒せたという有様なので、40体以上の討伐数はとても強い感じに見えている。

 観覧席の隅に固まるように座るステラ達1年生も、彼女の話題に花を咲かす。


「制限時間を3分残して、50体目ですのね。やはりあの方の実力は本物……王宮付きの魔法使いにスカウトしてもいいかもしれませんわ」

「3年生のヘッセニア先輩は可愛いし、強いしで、かな~り目立つよね」

「ふむふむ~」


 エルシィやレイチェルの話に、ステラはニコニコと頷く。

 こういう時、魔法学校の生徒についての情報を聞けるのはとても楽しい。

 しかし、コリンやワトの方を見ると、二人はかなり青ざめた顔をしている。

 ヘッセニアの討伐数が60を超えたあたりで、エルシィもレイピアの刃をハンカチで拭いだし、落ち着かない様子だ。

 やっぱり、強い人を見るとそれぞれに刺激を受けるものらしい。


 ヘッセニアは最終的には72体のスライムを倒しきり、テスト参加者中でトップの討滅数になった。

 闘技場の中心でクルリと一回転し、お辞儀する姿はアイドルもかくやというほどに愛らしく、観覧席全体が歓声に包まれる。

 そんな彼女と入れ替わるように、闘技場に進み出てきたのは生徒会長だ。


 今度は歓声どころか、観覧席のそこかしこからヒソヒソと悪口が聞こえてくる……。

 

「用意はいいぞ。さっさと開始しろ」


 生徒会長が偉そうに片手を上げれば、担当の教師がイラついた態度でスライム運搬システムを起動した。

 8匹のスライムがベルトコンベアで、スルスルと上昇してゆき天井へと持ち上げられる。そして8方向に配置され、落下――と思ったら、落ちきる前に霧散した。


 生徒会長が例の魔法で、木っ端みじんにしたのだ。

 その衝撃は激しく、スライムの破片が観覧席にまで飛び散るほどだ。

 彼が9体~16体目、17体目~24体目、25体目~32体目……と焼くごとに、観覧席はスライムの破片の雨が降り、迷惑なことこの上ない。


「うげぇ……っ! こんなの嫌がらせじゃね~か!」

「てか、倒すスピードの速さよ!」

「学生レベルじゃない!」


 観覧中の生徒達は色々な意味で彼にドン引きだ。


 結局生徒会長は全部で160体ものスライムを倒しきり、自信満々な顔でステラを見上げてきた。『お前には絶対に、この数字を超せないだろう』とでも言いたいのだろう。

 



 

 

 

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