生徒会長の一撃
誰も呼んでいないというのに、生徒会長は訓練ルームに現れた。
高飛車に振る舞う彼に対し、ステラ達は三者三様にゲンナリとしてみせる。そんな乾いた雰囲気の中、いち早く乱入者に対して反応したのは、三人の中で最も年長な売店係長であった。
「や、やぁ。グウェル・セトンス君。今この訓練ルームは我々が使用しているんだ。順番は守りたまえよ」
係長が額に汗を書き、さらに声を裏返してまで告げた言葉は、残念ながらなんの意味もなさなかった。
「落ちこぼれ売店係ふぜいが俺様に意見するのか? だいたい貴様のようなクズ魔法使いが交換留学を希望してどうするんだ? 女でも引っかけに行くのかよ? 貴様の父親のように」
「なんだってっ!?」
さも眼中にないような態度をとりつつ、ちゃっかり情報収集をしていたあたり、生徒会長の根性の悪さが透けて見える。
しかも、自分から喧嘩を売ったくせに、係長に掴みかかられると鬱陶しそうに突き飛ばす。白い炎をその手に宿したのは、何をしようと考えてのことか。
「【圧縮エーテル砲】」
「ヒッ……」
短い悲鳴をあげてしりもちをついた係長の頭上を、とんでもない威力の白炎が通過する。
係長は無傷だ。
操作精度が悪いから係長に直撃しなかったのではない。生徒会長の狙いは他にあった。
訓練所に20枚もあったコンクリート壁が、生徒会長の一撃により見る影もなく消し飛ぶ。
室内気温が急上昇した所為で、とんでもない居心地の悪さである。
「ステラ・マクスウェル!」
「うっ……」
この状況で、何故自分の名前が呼ばれるのか。
生徒会長がこちらに注意を払っていないうちに、この部屋から逃げてしまおうと思っていたのに、会話しないわけにいかなくなってしまった。
「……こ、ここで三人まとめて丸焼きにして、来週のライバルを減らすつもりですね?」
「そんなわけあるか。いいか? 来週のテストで
「ええと。……それって自分のプライドの為にとかですか??」
「……チッ。とにかく、貴様の本気を見せてもらうからな!」
生徒会長は少し考える素振りを見せた後、白い肌を真っ赤に染め、足早に訓練ルームから出て行った。
図星を指され、恥ずかしかったのかもしれない。
◇
放課後、ステラは昼の一件により訓練ルームを使う気力を失い、来週のテストの実施場所である闘技場までやってきた。
普段とは異なり、ゴツイ骨組みのような物が闘技場全体を覆うように組み立てられており、特殊な環境にされている。
これはもしかすると、来週のテスト用に設置されたのかもしれない。
何かテストが有利に働くような物は無いかと、ステラは闘技場の周辺をジロジロ眺めながら歩き回る。
「テストには生徒会長さんみたいに、すごい人がゾロゾロと出場するんだろうな。シッカリ考えて参加しないと、交換留学の枠をもらうなんて出来なそう」
生徒会長はステラをライバル視するような事を言っていたけれど、攻撃魔法の面では彼の実力に
その差を埋める為の努力を怠ってしまっては、チャンスは回ってこないのだ。
ステラは闘技場の中に入り、観客席から場内のアチコチを見回す。
そうしていると、逆側の入り口から売店係の先輩クリスが現れた。
彼の方もステラを見つけ、軽快な足取りで近寄って来る。
「お前も下見に来たんか?」
「うん。このフレームは何に使われるのかなって、考えていたです」
「あー。そうか。一年生だから、昨年のテストの様子を見てないしな」
「クリスさんは昨年見てたです?」
「見た。闘技場を覆う骨組みは巨大スライムを運搬して、下に落とす為の仕掛け。馬鹿みたいに単純な構造だ」
「そうなんだ!!」
クリスにネタばらしをされてから、フレームを見てみると確かにそんな感じがしてくる。天井から闘技場の外まで伸びるレーンは、よくよく見てみるとベルトコンベアが敷かれているし、天井には大型魔導車がすっぽり入れそうな穴が8つ開いている。
つまり、ベルトコンベアでスライムを天井まで運び、天井の大穴から下に落とすってことなんだろう。
ウッカリ真下になんかいたらペシャンコだ。
そのシュールな光景を想像し、ステラは震えた。
だけども、そのような裏事情を事前に知っておくか知っておかないかで、大きな差が出てきそうに思える。
(位置の情報を魔法陣に組み込んでおくことが出来るかもしれない)
この前自分で魔法を作ってみたからなのか、既存の魔法を改変する方法をフワッと思いつく。ただ、一つ障害がそれ以上の思考を阻害する。
スライムの落下場所をどのように表現すればよいのかが分からないのである。
だから、隣にいる人物に聞いてみる。
「クリスさん」
「なんだぁ?」
「天井のスライム穴……、というかスライムが落下する場所なんですけども。クリスさんが場所を文字に表すとしたら、どうするですか?」
「緯度と経度にしてる。座標とかであらわそうとすると、原点をどうするか~とか、色々前提条件も設定しなきゃならなくなるからな。複雑化しやすいし、ズレやすいし、微妙な感じ」
「なるほど! じゃぁ、地図を持ってきて、それで……」
「アホか。そんなスライムの落下地点みたいな、細かい位置情報なんて乗ってない」
「あ、そうか」
クリスは面倒そうに大げさに肩を竦めたが、ポケットから紙を一枚取り出した。
「やるよ」
「緯度と経度と数字がいっぱい書いてるですね」
「これはお前がほしがっているスライムの落下場所の位置情報。テストの時に利用しようと、事前に測っておいてたんだ」
「え! すごいです。……お幾らになるですか?」
「無料でいい。予想より借金返済してもらったからな」
「無料! やったー!」
この位置情報をうまく利用できるかどうかは不明だが、ステラはとりあえず無料で情報を仕入れられたことを喜んだ。
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