一目瞭然な火力差

 金曜日の二限目、

 講義が終わった後、ステラは大半の生徒が教室を出て行くのを待ってから、担任教師の元に向かった。

 

「あら、ステラさん。どうかしたのですか?」

「ええと、テミセ・ヤへの交換留学についてなのですが……。まだ希望を受け付けてるですか?」

「大丈夫ですが」

「あ、じゃあ私も候補になりたいです!」


 温厚な担任教師は、ステラに対して困ったような顔をする。

 

「貴女の実力では、選ばれることはないでしょう」

「うぅ……」


 ハッキリと告げられた言葉の矢はグサリとステラの胸を貫いた。

 一応自分はステータスの多くを改ざんしているわけだけど、この教師はそれを知らない。だから決めつけているんだろうか?

 その辺は良く分からないが、ここで諦めてしまっては、”黎明の香”を作るための材料――”高純度ナスクーマ大聖水”を無料で入手出来ない。

 無理矢理頭をひねり、この老婆の了解を得られるような言葉をつむぐ。


「来週のテスト……お祭り騒ぎみたいになりそうだから、楽しそうかなって……。上級生の人たちと交流する機会が少ないですので、来週のスライムテストで、ちょっとばかし混ざりたいだけなんです。ただそれだけで……」


 教師という生き物は気弱な生徒と接すると安心するらしい。

 担任教師も例に漏れず、表情を明るくさせた。


「そういうことですか。優秀な上級生の活躍を傍で見ることは、大変有意義な時間かもしれませんね」

「はい! はいっ!」

「ステラ・マクスウェルさんも、交換留学を希望ということで、管理委員会に私から申請しておきます」

「よろしくなんです!」


 承諾させてしまえば、こっちのものだ。

 弾むような足取りで教室を出て、そのまま階下へと進む。

 地下にある訓練ルームを講義のない午後の時間に使おうかと思っているのだけど、面倒なことに、事前に予約が必要なのだ。

 昼食の前にサインしておかなければならない。


 無骨な石造りの廊下を歩き、訓練ルームのドアまでくると、中の音が僅かに聞こえてきた。

 誰が使っているのかと、窓から覗いてみれば、意外にも知った人物二名が居た。

 売店係長と、売店係の先輩クリスだ。

 彼らは室内に整然とならぶコンクリート壁を対象として、戦闘訓練を行っているようである。


 今は係長の方が、魔導書を片手に魔法を使用し、クリスは壁にもたれてマシンをメンテナンスしている。


(係長さん……。この前ステータスを測ったら、魔法使いのレベルが3つくらい上がってたな)


 ステラが見つめる先で、係長の魔法が発動する。

 バレーボール大の炎を片手に宿し、それをコンクリート壁に放る。

 何枚破れるのかと期待したのだが、残念ながら彼は一枚も破壊出来なかった。

 先頭の壁をえぐった後、炎はそのまま消失する。しかも連続して撃ち続けたなら、壊せそうなのに、係長は床に膝をつき、呼吸を整えてしまう。


(今の魔法、全力だったんだ……)


 あまり見続けていては申し訳ないかもしれない。

 急に気まずくなってきたステラは、窓から離れようとしたのだが、クリスがそれを許さなかった。いつからステラの存在に気がついていたのか、座ったままステラを手招きする。


(無視しづらいなぁ)


 ステラは仕方が無しに訓練ルームに入室する。


「こんにちわです。係長さん。クリスさん!」

「こんにちは。ステラ・マクスウェル君」

「おーっす。お前もここを使いに来たのか?」


「今は予約だけしようかなって思ってたです。……なんで二人で訓練してるですか? 珍しい感じです」

「なんでって、来週に交換留学希望者に対するテストが実施されるからだね! 必死にもなる!」


 係長に熱弁され、ステラはコクコクと頷く。

 クリスの方はどうなのかと、彼に視線を移すと、聞きたかった内容を先に問われてしまった。

 

「お前は交換留学どうすんの? 向こうの国行ったら、販路拡大とかさー。アイテム士としてやれそうなこと色々ある気がするけど」

「行きたいですっ! 来週は二人をやっつけてでも、留学生枠を貰ったるです!」

「言うじゃん。まー俺も、気になっている発明家が向こうの国に居るんでね。負ける気はしねーー」

「ふむ~」


 帝国に行った際に、テミセ・ヤのすごい発明家の話を聞いた気がするけれど、同じ人物だろうか? ステラがその人物の名前を思い出している間に、クリスはマシンの整備を終えたようで、係長と位置を交換した。


「先週作ったばかりの兵器――キラーシステムMS-1だ。コイツの火力を見て驚け」

「「おおっ」」


 ステラと係長が目を丸くして見守る中、人型兵器キラーシステムMS-1は肩に背負ったロケットランシャーで、あり得ないほどの威力の砲撃をした。

 たった一発でコンクリート壁を10枚撃ち抜いたのだ。

 その轟音の所為で、ステラの耳はキーンんと耳鳴りする。


「クリス先輩ヤベーやつなんですっっ!」

「ぐぅぅ……。これは負けてしまいそうだ」


 この威力だったなら、Lv60のスライムにだって、通用するだろう。

 どや顔をするクリスに対して焦燥感をつのらせていると、不意に第三者が訓練ルームに入り込んで来た。


「フンッ! 雑魚共が寄ってたかって悪あがきか。俺様の前では総じて塵芥ちりあくただというのになぁ?」


 入室してきたのは生徒会長で、彼の登場により、一気に場の雰囲気は悪くなった。


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