謎の乱入者(SIDE ステラ)

 【アナザーユニバース】の中から抜け出し、ステラは漸く一息つく。

 エマの義姉パーヴァ・コロニアをどのように封じるかは予め決めておいていたものの、実行してみるとなかなかに後味が悪い。

 だけれど、この方法が相手の生命を奪わないで済む、ただ一つの方法なんじゃないかと考えた。


 これからどう動こうかと考えていると、上空から相棒が降ってきた。


「うわっ! アジさん!」


 アジ・ダハーカには、忘却薬を使うからと、この場から少し離れていてもらっていた。閉鎖空間からステラが出て来るのを見て、戻って来てくれたんだろう。


「ご苦労だったな、ステラよ」

「これで、暫くの間、命を狙われないと思うです」

「ふむ。そもそも、お主が命を狙われたとしても、普通の人間のように死ぬのかどうかは疑問ではあるが……。コロニア家当主のようなやからにまとわりつかれないで済むのは大きいな」

「あー、当主さん……。エマさんの義父さんですか……」


 パーヴァに忘却薬を使用したことで、彼女の口からステラの正体がバラされるリスクは無くなったと思われる。だがしかし、もしかすると彼女がメモ書きや日記に、書き残している可能性もあるわけで……。もしもの事を見越して、用心しておくにこしたことはない。


 なんだか途方もない疲れを感じ、ため息をつく。


 取りあえず、今は侍女選出試験の状況確認が優先だ。

 魔導通信手帳をポケットから取り出し、画面を開く。すると、いつの間にかロカからのメッセージが入っていた。

 それを読んで驚く。


「えっ!? なんだか凄いことが起こってるみたいなんです!」

「詳しく説明してくれ」

「ええと……――」


 ――不測ふそくの事態が起こっているのは、ロカが担当してくれている、ガーラヘル城裏の岸壁付近のようだ。試験参加者が城周辺に張られている障壁を破壊し、その穴を利用して第三者が攻撃をしかけているとのこと。

 現在は王城付きの魔法使い達が応戦しているけれど、数が多すぎるため、手こずっているらしい。

 レイチェルとエマは持ち場を離れないまま、ステラのメッセージを待っている状態だ。


 ステラは彼女達のメッセージを手短に相棒に伝えた後、3人に対しての返事をする。


「レイチェルさんとエマさんは取りあえず、メイドさん達やミレーネさん達を安全な場所――ガーラヘル城へ誘導してくださいです。ロカさんの方には私とアジさんが向かいます!」


 ステラの言葉は一言一句違わずに、文字となる。

 それを確認してから走り出す。


 優秀な魔法使い達が対応してくれているのだから、自分なんかが出しゃばる必要はないかもしれない。だけども、城にはエルシィや国王、王妃がいて、彼等の安否がどうしたって気になる。

 無事でいてくれればいいのだが……。


 とはいえ、横堀が無数に掘られていたエリアから、崖側まではかなり離れている。凍った川を腹で滑って渡り、自分のアイテムで作った氷による極寒の寒さに耐えた後の身体は体力が減ってしまっていて、ポーションを飲みながらじゃないと、座り込んでしまいそうだ。


「う、うへぇ……。しんどいんです。こういう時、自分の弱っちい身体が憎くてたまらないです……」

「もう少しで着くぞ、気合を入れるのだ!」

「うん~」


 ゼェゼェ言いながら、やっとの思いで目的地までたどり着く。


 はたして、崖の下は酷い有様となり果てていた。

 てっきり、人間同士の戦闘が起こっているのかと思っていたのに、なんとそこには大量のミノタウロスがひしめき合っている。

 確かにロカのメッセージにあったように、障壁には大きな穴が開いているようだが、そこにはもう攻撃されていない。魔法使い達が数人がかりで埋めている最中で、他に、ミノタウロス達に魔法を撃ち込んでいる者達も確認出来る。


「な、なんという地獄!!」

「派手にドンパチとやっておるのだな」

「ロカさんがメッセージを送ってくれたあと、何が起こったのかな……」


 目を凝らして彼女を探してみると、ミノタウロス等の頭を蹴りつけるように、華麗にハルバートを振っているのを見つけた。心なしか先ほどよりも生き生きとしているのは気のせいだろうか?


 そんなロカに大きく手を振ってみれば、ハッとしたように一瞬動きを止め、軽い身のこなしでこちらに向かって走って来た。


「ステラさん! 無事なようで何よりです!」

「うん。ロカさんも!」

「ステラさんの担当エリアの方はどのような感じですか?」

「予定通りパーヴァさんが来たので、戦闘出来ないようにしたったです」

「なるほど、流石ですね。こちらの方は見ての通り、グチャグチャな状態になっています。ガーラヘル城に現れたテロリスト集団が大量のミノタウロスを連れて来てしまって、今戦闘中です」

「テ、テロリスト!?」

「あの障壁に穴を開けた張本人たちと少しばかり話をしていたのですが、自分達の侍女選出試験での計画の情報が恋人づてに漏れてしまったかもしれないと言っていました」

「むむむ……。そこに付け込まれたって事なんですね。取りあえず、私とアジさんも戦闘に加わるとするですよ!」

「有難うございます! たくさんミノタウロスを狩って、本日の晩御飯としましょう!」

「お、おーう??」


 なんだか変な目的になった気がしたが、「まぁいいか」とマジックアイテムを手に取った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る