日程延期?

 ステラはマジックアイテム――”美形おじさんの汁”を使用してから、ミノタウロスの群れに向かって魔法を放つ。


「取りあえず、牛さん駆除です! 【昏天黒地】!!」


 アイテムにより強化され、魔法で生成された岩はミノタウロス5匹ほどを串刺しにし、ガーラヘル城に迫るほどの高さにまで成長する。

 逃避行動が素早かった個体も無傷とはいかず、アチラコチラにはじき飛ばされる。

 ステラはそれらに向かって追撃の魔法を撃ち込む。

 ロカやアジ・ダハーカも戦闘に加わり、女装男性チームや王城付き魔法使い等も派手な攻撃をドンドン使う。ガーラヘル城裏側はまさに、戦場の様相をていしている。


 ミノタウロスが大量にいたとはいっても、ここはガーラヘル城。国中の猛者が集まる場所だ。僅かな時間で岸壁の下にミノタウロスの死体が山積みになる。


 テロリストの実行犯達はというと、遅れてやってきた近衛師団の面々にあっけなく拘束されている。実に呆気なく終わったのが妙に引っかかる。


 考え事をしながらマジックアイテムの空き瓶を拾い集めていると、ロカが近づいてきた。


「ふぅ……。まったく、良からぬことを企むやからというのは、どこの国にもいるものですね」

「これで終わってくれたならいいですけども……。そうだ! レイチェルさんとエマさんは無事かな?」


 魔導通信手帳を開けば、レイチェルからのメッセージが入っていた。


”あたしとエマちゃんは無事だよ! 一応ミレーネさんに、メイド達を預けてからガーラヘル城に入った! でも、試験官達はゴタゴタしていたから、ちゃんと把握されたかどうかまでは分からない!”


「二人ともなんとも無くて、よかったぁ」


 彼女達は強いので、そんなに心配する必要はないのかもしれないが、不測の事態だから気になっていた。それに、冷静にメイドやミレーネにも対応してくれたようなので、かなりホッとした。

 侍女選出試験に参加したのは、ミレーネを勝たせる為なので、その辺りがグダグダにならずに済んだのは有難い。


 しかし、レイチェルが続けて送って来たメッセージを見て、眉間に皺を寄せる。


「むー。結局ミレーネさんに渡せたメイドさんの人数は38人だったですか……。メイドさんは二人リタイアしちゃったですね……」

「公務員チームのメイドは40人いるようです。缶ジュースなどを買い与え、機嫌をとっていたのが良かったのかもしれませんね」

「えぇ!? そんな事してたですか!」


 たったそれだけのことで、メイド達をキープ出来たというのか。

 気が遣える人間というのは、こういう時に力を発揮するらしい。

 だけども、感心してばかりもいられない。メイド2人の差で、ミレーネが不利になったら、この後の実技試験に響きそうだ。


「あの公務員のおじちゃん達と戦おうです。メイドさんを奪わなきゃです」

「そうですよね」


 再び気合を入れたところに、ガーラヘル城の外周を旋回し終わったアジ・ダハーカが降って来た。


「ステラよ。少し待て」

「アジさん。どうかしたですか?」

「うむ。ここまで試験監督者が来ておる。儂等に何か伝えることがあるのだろう」

「ほへ?」


 アジ・ダハーカが言った通り、1分もしないうちに、試験監督者がやって来た。

 ステラ達と公務員チームに向かって手招きするので、やはり何か連絡事項があるんだろう。

 相棒やロカと顔を見合わせながら近づいて行く。


「あの。どうかしたですか?? まだ決着はついてないですけども」

「どうもこうも……、ガーラヘル城に武装集団が攻め込んで来たんですよ。侍女選出試験など、やってる場合ではありません」

「中止ってことなんです?」


 もしそうなら、今日これだけ頑張った意味がなくなってしまう。

 ショックを受けているのはステラだけでなく、公務員チームの人々も声を荒げる。


「冗談じゃないわよ! これだけの時間をかけて、財布だって痛めたのに、中止ですって!?」

「見損なったぞ」

「わたくし達、とっても頑張ったのよ~~~」


 濃い見た目の面々から、口々に攻め立てられたからなのか、試験官はタジタジだ。


「中止というのではありません。今現在のメイドの保有人数で、戦闘実技試験の点数を決めさせていただくだけです。残りの実技試験は後日実施ということにいたします」

「えぇっ!? じゃ、じゃあミレーネさん達はこの女装の人達の点数に負けたったってことですか??」

「そうなります。というか、心配すべきは貴女の方では? メイドを一人も連れていないのですから……。ミレーネ・コロニアさんの方を気にする理由が何かあるとでも……?」

「い、いえ。別に気になってなんかないですよ。えへへ……」


 試験官はステラの様子を疑わしそうに見つつ、おっくうそうに話をつづけた。


「ならいいですが……。それにしても、十年程ガーラヘル城周辺は平和を保っていたのに、どうしていきなりテロが発生したんでしょうね。ちゃんと調べが付けばいいのですが」

「ですね!」


 エルシィ達の安全を思えば、大袈裟に頷かないわけにはいかない。

 実行犯の情報は後日、国営放送などで知る事となる――そう思ったのだが、この場で意外な人物の名を聞くこととなった。


「テロリストちゃん達の話が聞こえたのだけど、コロニア家の当主ダウニー・コロニアに唆されたらしいわ! 全く! あたしの彼ピを巻き込まないでほしいわよ!」

「ほへぇ……」


 コロニア家当主というと、エマやパーヴァの父にあたる人物だろうか?

 公務員チームのリーダの話に、やっぱりなんだかシックリこない感覚になったステラであった。



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