優位なポジションにつくために
戦闘能力が高いからと、実技試験において不利にさせられるだなんて、嫌がらせめいている。感情が表に出やすいアジ・ダハーカやレイチェルはあからさまに嫌な顔をし、文句を言い出した。
だけども、条件に関しては運営者に任せるしかなく、従わなければミレーネを助けることも出来ない。
ステラはグッと不満を飲み込み、次なる案内を待つ。
試験会場での説明が終わった後、ステラ達は試験運営者から所定の場所まで連れて行かれた。
場所は徒歩でおよそ10分。王都の森林公園の噴水前だった。
気温が低いからなのかあまり人はいないが、ステラ達一団を見た犬の散歩中のご婦人や、ランニング中のおじさんは少々驚いたようだ。
ステラ達4人と1匹だけならまだしも、20人のメイド服女性が現れたのだから、無理もない。
「王都育ちの私とエマさんは大丈夫にしても、レイチェルさんとロカさんはこの場所からお城の城門までたどり着けるですか?」
「あたしは、大丈夫だよ! 学校に入学してから7カ月間、トレーニングでこの街を走り回ったからね!」
「おおっ! レイチェルさん、頼もしいです!」
「えっへんっ!」
「ロカさんには、地図を渡しておきますね」
「有難うございます。でも、ここからガーラヘル城の尖塔が見えていますから、目印に出来そうです。心配はいりません」
「確かに見えてるですね」
緑が生い茂る森から、ニョッキリと城の塔が3本見えている。
それに城の側を流れる川が、丘を半分程囲うように流れているので、その形状からも、ロカは自身のポジションを確認出来るかもしれない。
ステラは改めて地図を見て、自分の親指と人差し指でザックリと距離を測ってみる。
「ふむぅ。この公園から城門まで、公道を使うと2km。……私の最初の目的地までの直線距離は300m。ロイヤル・ロード手前までは450mくらいかなぁ?? しかも、二方向への直線状には、建物が無い。むむむ……、これはもしかすると、もしかするかもしれないような……」
良い事を思いつき、ステラはニンマリと笑う。
ステラの様子にいち早く気が付いたのは相棒で、フヨフヨと近寄って来た。
「ステラよ。お主、何を考えておるのだ??」
「ふっふふ~、アジさん。もしかすると、大幅なショートカットが出来るかもなんです」
「なにっ!?」
ポケットから中瓶1本と小瓶1本を取り出し、ラベルを確認する。
この試験の為に事前に採取しておいた水量はかなり多いはずなので、それなりの距離の道を作れるはずだ。
「――ステラ・マクスウェルご一行様。後1分でスタートになります。他のチームも同時に出発になります」
「「「「はい」」」」
試験会場からここまで、そこそこ歩いて来たわけだが、ノンビリと休憩させる気はないらしい。
ステラは自分の懐中時計を見て、時間を確かめる。
「レイチェルさん。スタート直後、ほんの少し時間を下さいです」
「ステラ、何する気なの?」
「私が道を作るです。でも、それほど頑丈ではないと思うので、レイチェルさん一人がまず渡ってほしいです」
運営の方針により、
なので、まずは彼女を真っ先に渡らせる必要がある。
「わ、分かった。渡るよっ! ステラが何をするのかは分からないけど!」
「私に任せてほしいです。エマさんとメイドさん達は、公道からロイヤル・ロードを目指してくださいです。ロカさんも当初の作戦の通りでお願いです」
「分かった」
「了解でありますっ」
戦闘実技開始まで、もう20秒も無い。
ステラ達の雰囲気に飲まれたのか、メイド達もやや緊張している。
「――開始まで5秒前です。3,2,1。健闘をお祈りします」
試験運営者のカウントをしっかり聞き届けてから、ステラは中瓶のキャップを開け、地面にまき散らす。アイテム名は【かしこい氷水】。
メキメキと音を立てて氷が成長してゆき、複雑な術式を形成してゆく。
「これは、ステラ様が創造した魔法……」
「エマさん。半分正解なんです! この瓶には2つの術式を仕込んでいるですよ」
「……凄い」
【キラキラパワーの源】の上に、もう一つの巨大な術式――【アナザー・ユニバース】が形成される。
氷で出来た芸術作品のようなそれらに、公園に居る全員がポカンと口を開け、見入ってしまっている。
しかしその中で、ロカが真っ先に我に返った。
「これ、レイフィールドの空に現れた術式に似ていますね!」
「あ~、帝国に居た時に見て、習得したったですよ~」
まさか、前世の時分が作った魔法だとも言えず、ステラは適当に流しておく。
大袈裟に驚くロカの反応が胸に刺さる……。
それはそうと、まずは道を完成させなければならない。
手袋をはめた手でアナザーユニバースの術式に触れると、大量の球体が放出される。それらの一つ一つに番号があてがわれていて、ステラが呼べば、目的の球体が下降した。
それを噴水のところまで持って行き、手を離す。
「いっぱい水を出しますね!」
人の頭ほどの大きさのボールから、大量の水が流れ出す。
水位の下がった噴水であっても、あっと言う間に溢れ出し、ステラは慌てて小瓶の中の液体を振りかけた。
すると、あっという間に氷柱が成長し、公園の木を通り越した。
そこでステラは重要なことに気が付く。
「あっ、倒れる方向を考えてなかった……。アジさん助けてです!!」
「ふむ、仕方のないやつだ」
アジ・ダハーカは呆れつつも、その口から強力なブレスを吐いたのだった。
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