スタート地点

 クリスからレンタルした”魔導通信手帳”を全員が問題なく使えるようになってから、試験会場の外へと出る。

 実技試験はまず”戦闘”からスタートするのだが、全体の説明が13時から始まる。


 ステラ達は一番遅かったようで、実技試験の運営係に慌てた様に所定の位置へと連れて行かれる。そこには既にメイド服を着た女性たちがおり、ジッとステラ達を見ていた。


「――もう間もなく戦闘実技に関する説明が始まります! それと、貴方達はこちらの方々をお連れいただきたく!」

「わ、分かったです!」


 既に視界に入っていたので、薄々感じていたが、やはり彼女達がステラに割り当てられたメイド達のようだ。

 10代半ばから60代くらいまでだろうか?

 一目見ただけで不機嫌と分かる形相ぎょうそうをしている。

 その中の一人が、ステラの前に進み出た。

 メイド等の中では一番年嵩としかさの女は、白髪が混ざる髪を頭頂部でひっつめており、丸めがねをかけている。いかにも気難しそうな容貌をしているので、ステラは思わず縮こまる。


「――お初にお目にかかります。貴女がステラ・マクスウェル様ですね?」

「はい! よろしくなんです!」

「私は王城にて、メイド長の役割を担わせていただいている者でございます。このたびはエルシィ・ブロウ殿下の侍女を選ばれるとのことで、このような茶番に付き合っておるのです」

「うぅ……」


 想像以上の当たりの強さに、ステラは少々怯む。

 こんな業務外の事に関わるのが嫌で嫌でたまらない、といったところか。

 しかしながら、試験に対しての責任感はあるようで、丸眼鏡の奥の双眸そうぼうは鋭くとがり、”ステラの人となりを今ここで見極めてやらん”としているかのようである。

 だけども、今のステラはメイド長の態度に弱気になってなどいられない。


「試験の中でのメイドさん達の動きを、伝えちゃってもいいですか??」

「ええ。どうぞ」

「実技試験では、こちらのエマさんに付いて行ってくださいです。強力な防御系のアビリティを持ってるですので、安全だと思うです」


「老婆達、守る」


 傍にいたエマは自らの胸をポンポンと叩き、自信を示すが、メイド長の目はさらに細まった。


「最近の寒さでひざが痛むのです。もし走ったりするのでしたら、遠慮なくリタイアいたします。しからず」

「分かった。低速で歩く」


 ステラはエマとメイド長のやり取りにハラハラした。

 王城で働く者達に無理させる気はなかったものの、戦況によっては、多少走る事だってあるかもしれないのだ。

 この先大丈夫なのか心配になる。


 ミレーネやパーヴァのチームの様子も観察してみると、彼女達もメイドの一団となにやら揉めている雰囲気だ。

 やはりメイド達からすると、余計な仕事を増やされてしまい、腹が立つのだろう。


 ステラはミレーネ及びパーヴァのチームの構成員や、メイド達の顔をなるべく覚え込もうと観察を続ける。すると、その視線に気が付いたのか、パーヴァがこちらを向いた。

 彼女の目には先ほどよりも明確な殺意が籠っている。

 知恵ある神の像で別れた後、彼女なりに事態の深刻さを考え、優先すべきことをシッカリと認識したといったところか。


 そのまま見つめ合っていると、試験の運営者からのアナウンスが聞こえてきた。

 

「見事に筆記試験を合格した皆さま。これから戦闘実技試験の説明をさせていただきます。まずは目的地から――」


 ステラは集中してアナウンスを聞く。

 エルシィの付き人から、戦闘実技に関しての情報を貰っていたものの、筆記試験の様に内容を変えてくる可能性もある。ルール等を聞き違えたら一貫の終わりだ。


 淡々たんたんとした声で説明される内容は、幸いな事に、事前の情報と同様だった。


・目的地はガーラヘル城の城門

・各出願者に20人のメイドが割り当てられており、彼女達は一人1ポイントにカウントされる

・メイドは略奪可能で、彼女達の意思でリタイアも出来る

・出願者本人がリタイア、または戦闘不能になった場合はポイントはゼロになる。助っ人がリタイアまたは戦闘不能になった場合は、問題なし


 説明を一通り聞き終えたステラは、アジ・ダハーカ、レイチェル、エマ、ロカと頷きかわす。各人が打ち合わせ通りに動いたなら、きっとミレーネを最高得点で通過させることが出来る。

 ――と、思ったのだが……。


「今回は6チームしか残りませんでしたので、それぞれのスタート位置を変える事といたしました」

「へっ!?」

「この場に居る全員のステータスを測定いたしまして、その総合力に応じて、こちらで初期位置を決めました。まずは筆記試験首位のパーヴァ・コロニアさんは――」


 運営アナウンスは予想外なことを言い始めた。

 エルシィの付き人によれば、試験会場から一斉にスタートだと言っていたはずなのに、何故ワザワザスタート位置を変えるのか。


 運営による測定で最も戦闘力が弱いとみなされたチームは、共通の制服を着た少女チームだった。そのスタート位置はなんと、正規ルート――ロイヤル・ロード国王の道のすぐ手前だ。

 戦闘力が2番目に低いのは地元商店街チームで、スタート位置はこの試験会場からになる。

 3番目に低いミレーネ達は、そこから100m後方となり、4番目はさらに200m離れる。


 ステラのチームとパーヴァのチームはほぼ同等らしい。

 2チームで序盤のつぶし合いが発生しないようにと、王城の東側(城門までおよそ2km)の位置にステラ。王城に西側(城門までおよそ2km)の位置にパーヴァとされてしまった。

 

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