先陣を切る(SIDE レイチェル)

 レイチェルは横倒しになった氷柱にヒラリと飛び乗る。

 ステラが作り出した氷は思った以上に硬質で、人が一人乗っても安定している。


(ステラには驚かされてばっかだな~!)


 彼女が今使って見せた2種のアイテムについては、事前に説明してもらっていたけども、それらのアイテムに組み合わせた魔法2種については全く未知なものだ。

 未知の魔法でもショボイなら『へ~』で終わらすレイチェルだけども、今回見たものはどちらも魔法史に残りそうなもの。

 あれらをどこで、どのようにして身に付けたというのだろう。


 ほんの少し遠い存在に感じられ、慌ててステラを見降ろす。

 彼女はいつも通り、ノホホンとした笑顔で自分を見ている。

 

 入学当初からただ者ではないと感じとり、積極的に絡みに行っていたわけだけど、最近の彼女ときたら、自分の想像も及ばぬ程の実力を身に付けたように思われる。

 数段飛びに成長出来るのは、ポテンシャルの高さゆえなのか?

 彼女への興味は膨らみ続けるばかりである。


 レイチェルは下に居るステラに手を振る。


「んじゃ行ってくるねー!!」

「は~い! がんばって~です~!」


 満面の笑顔の友人に背中を押されたような気分になり、勢いよく走りだす。

 この氷柱にはちょっとした傾斜がついている。一番端が今レイチェル達が居た公園なのはいいにしても、もう一つの端がガーラヘル城の防御障壁に立てかかっているような感じに見えていて、別のリスクがありそうだ。


(あの氷柱、ガーラヘル城の障壁のお陰で、外壁に突き刺さるなんてことにはなってないはずだけど! お城付きの魔法使い達がこれを見つけちゃったら、除去しちゃうんじゃないかな~!? あたし、もしかして落ちる!?)


 自分にしてはあまりよろしくない方向に思考に行きかけ、ブンブンと頭を振る。取りあえずは渡り切ることだけ考えよう。


 レイチェルに与えられた役割は、エマやメイド達、そしてミレーネのチーム全員の安全を確保するためのつゆ払いなのである。

 今ならまだ弱いチームだけしか、ロイヤル・ロードにたどり着いていないはずで、まだまだ優位なポジションを取るチャンスはあるはずなのだ。

 1分程疾走し、ロイヤル・ロード手前のゲートが見えて来る。

 しかも、そこからあまり離れていない地点で戦闘している集団も居た。


(あの緑の制服の子達まだ近くに居るんだ!? 戦ってるのは、作業着姿のおばちゃんたちだねっ!)


 実のところ、レイチェルは待ち時間や休憩時間に試験会場を歩き回り、様々な参加者と交流していた。

 現在戦闘中の2集団とも接触していて、彼等の所属や目的を聞いていたりする。

 

 制服集団の面々は王都キングスコート南区にある進学校の学生達だ。

 彼女達はエルシィのファンなのだそうだ。ファンクラブを作り、学内外で熱心な活動を行っているのだとか。

 確かに同性から見るエルシィは美しいだけじゃなく、凛としており、応援したくなる気持ちは分からないでもない。


 商店街の人々の方は、地元の振興会から選りすぐりの人々が集められたそう。

 ちょっと意外な方々ではあるけれど、今回の参加は完全に商売チャンスを狙う為らしく、目的を聞いてとても納得してしまった。

 城で現在使う食材や日用雑貨の数々の仕入れを、商店街の各店舗を通してもらうように仕向けたいらしく、商店街の発展の為に、それぞれが全力を出し切りたいとのこと。

 人情に弱いレイチェルとしては、ついつい応援したくなるチームではある。


 とはいえ、自分の役割を忘れたわけではない――


 氷柱を飛び降り、思いっきり鉄球を振り回す。

 周囲から悲鳴が上るが、肉にめり込むような感触は無い。代わりにガギンッ! と金属に当たる振動が腕に伝わる。

 鎖が伸びる方向に目を向ければ、パンチパーマの中年女性がフライパンを片手にニタリと嗤っていた。――彼女が鉄球を弾き返したとみて間違いないだろう。


「フライパンを盾代わりにするとは恐れ入ったっ!!」

「舐めてんじゃないよ、小娘がっ!」


 パンチパーマ女性は商店街チームに所属している。

 出刃包丁を構えているところから察するに、それを投げるか、切りつけるかして戦うってところか。

 近距離にも中距離にも強いレイチェルは、鼻で笑う。


「ふふんっ! 聖騎士様の実力を見せてあげないとね!」

「あんたの所のリーダーがこのデカイ氷を出したのかい!?」

「そうだよ! 凄いでしょ!」

「この試験、なかなか面白い奴も居るじゃないかぁ! ハッハー!」


 氷柱に驚きつつも、それを笑い飛ばすとは、なかなかに痛快な女性である。

 

「おい、金髪ロリのところのロールパン頭!!」

「えっ、そういうあだ名を付けられちゃってるの!?」


 威勢よく自分を指さしたのは、エルシィファンクラブの少女だ。

 レイチェルがここに来る前にパンチパーマ女性に切り付けられたのか、制服がザクザクに裂かれ、白い肌には傷を負っている。

 それでも威勢は良いのだから、今回の参加は半端じゃない覚悟で挑んできたのかもしれない。


「おまえを倒してエルシィ様とのイチャコラ生活を手に入れるぞ!!」

「エルシィ王女は喜ぶのかなぁ~?」

「煩いなぁ! おまえなんか、燃やしちゃうからな!! 【火炎】!」


 星の飾りの付いた杖を振り回し、使われたのは初歩もいいところな攻撃魔法。

 レイチェルの顔の前にポムッと現れた炎は貧弱で、片手で握りつぶしてしまえた。


「よっわっ! 最初はあんたから片づけよかっ!」

「な、なによぉ!」


 【重量加算】で魔導車ほどの重さにした鉄球を少女に投げつけ、ロイヤル・ロードの城壁に叩きつける。少女は「げぅ……」とカエルのようなうめき声と共に、崩れ落ちた。





 


 

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