売店係の唆し

 昼食の後、

 ステラは建物の裏側に立つ、知恵ある神の石像の前までやって来た。

 別にこの神に対して信仰心があるわけではない。

 ちょっとした目的があってのことだ。


(この国の主神さんかぁ。なんか立派な見た目をしてるけど、前世でも関りがあった人なのかなぁ??)


 アジ・ダハーカによれば、邪神の兄にあたるとのことのようだが、この石像を見る限りでは全く親近感のようなものは感じない。


 そのままボンヤリしていると、建物の裏口からパーヴァ・コロニアが出てきた。

 彼女は最初目を伏せていたけれど、ステラの存在に気付くやいなや、その顔を歪ませた。


「あ、パーヴァさん。どうもです」

「……そこは、貴女が居ていい場所ではないわ」

「なんでですか??」


 ステラはとぼけてみせるも、ここに居続けた理由は、パーヴァを待つためだったりする。彼女が知恵ある神の敬虔けいけんな信者なのだと知っているので、もしかしたら来るかもしれないと期待してのことだ。


 なぜかというと、今この時間を使って、パーヴァ・コロニアの現在の主目的を変えたいからだ。


 パーヴァはステラの質問には答えず、彼女自身の問いをステラに投げかけてきた。


「――今日ここで貴女に会ったのは意外だった。まさか、貴女のような方がエルシィ王女の侍女になろうとしているだなんてね」

「エルシィさんは、私のクラスメイトさんなんです。いつも一緒に居られたら、きっと楽しいですよ!」

「……自分が何者なのか、まだ分かっていないの?」

「何者?? 私はマクスウェルの者で、アイテム士をしているです。それ以外に何かあるですか?」


 相対する者はステラの心情を探るような目つきをする。

 『はぐらかそうとしているのではないか?』。そう言いたいのだろう。

 彼女の様子に構わず、ステラは言葉を重ねる。


「私は学校での模擬戦争とか、学外での決闘とかにいっぱい勝っているです。結構腕が立ちますので、侍女になったら、エルシィさんを守れると思ってます」

「貴女の戦果は聞いているわ」

「うんっ! それに、この前王城に努めてる人から、気になる事を聞いちゃって……、とても心配になってるです。警護はあつい方がいいに決まってるです」

「何か言いたいのかしら?」

「エルシィさんが小さい時、妹さんが殺されてしまったみたいです!」

「『妹さん』、ねぇ……」


「実行犯さんが居るみたいなんですけども、その人を操っていた人? 家? があるとも聞いたですよ」


 話しているうちに、やっぱり自分はマクスウェル家の人間なのだと、嫌と言うほど思い知らされる。言葉の効果がパーヴァの顔面にきっちり表れたのを見て、もう後に引けないのだと気が引き締まる。


「私が今、貴女に伝えている意味。ちゃんと通じてるですか?」

「貴女は全て分かっていると言いたいんでしょう? 分かった上で、私を脅しているのよ」

「分かっているかどうかについては、教えてあげたりなんかしないです。でも、気付いてほしいです。、貴女の不安が無くなるのかを」

「ここで私に神殺しをしろと言うのかしら?」

「貴女の信じる神は、完全完璧な存在ですね? じゃあ、不完全で邪悪な存在はどう考えるです?」

「覚醒半ばの貴女になら、きっと勝てるわね」

「ここはお城に近いですし、きっと貴女が信じる神様が、貴女を守ってくれるですよ!」


 謎の勇気付けをした後、第三者が建物の裏口から半身を出した。

 トイレに行っていたはずのレイチェルだ。


「ステラ~! そろそろ”戦闘”実技の説明を始めるみたい! 一緒に行こう!」

「ほい!」


 あまり見られたくない現場を見られてしまったと、少々凹むも、これ以上パーヴァと話すこともないので、立ち去ることにする。


「パーヴァさん。実技試験の時にヨロシクなんです。私を見失わないでくださいです」

「……」


 パーヴァからの返事は無い。

 しかし、建物の内部に戻りながら、ステラは背中にビシビシと殺意を感じ続けた。だからきっと、今の会話は充分なくらいの効果があったということなんだろう。



 先ほど昼食を食べていた部屋に、4人プラス1匹が集まった。

 アジ・ダハーカ、レイチェル、エマそしてロカ。全員の顔を見回してから、ステラは一人一人に手帳型のアイテムを配布した。

 新しい物好きのレイチェルは目を輝かせ、手帳を裏返したり、目を近づけたりする。


「ステラ、これは何?? 可愛い手帳だね!」

「これは”魔導通信手帳”ってアイテムなんです。実は昨日クリスさんに頼んで、レンタルさせてもらったですよ」

「げっ! ろくでも無い物だったりして??」

「便利なアイテムですよ! ページを開いてから、右上のちっこい魔法陣に向かって喋ると、紙に文字が書き出されるです」

「どれどれ~? ”ステラは食べ物”! うわっ! 本当だ!」


 何か不穏な言葉を聞いた気がするが、気のせいということにしておこう。


 レイチェルの言葉は、そっくりそのままステラの手帳にも現れている。ステラも適当な事を喋ると、それも文字化され、手帳に表示される。


「これは、全員が離れていても、文字ベースで連絡を取り合えるですよ。しかも、白紙にも戻せるので、会話の内容が漏れることもありません! 実技試験中はこれを使って、状況を教えあおうです!」

「分かったよ!」


 レイチェルだけでなく、他の皆も手帳には興味をひかれたようだ。

 楽し気に試してみたりしている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る