物々しい会場

 セトンス家の応接室に移動した後、ステラはミレーネに対して侍女試験当日の動きを説明し、自作のアイテムを渡した。

 彼女の準備がどうなっているかを聞いてみると、自分の苦手な分野を補完するような助っ人を用意しているとのことのようだ。あとは”戦闘”の実技試験さえどうにかしたなら大丈夫なんだろう。


 ミレーネとの話が途切れると、廊下側が妙に騒がしくなっているのに気が付いた。


「お? 何かが起こったですかね?」

「どうだろう? 見に行ってみるよ」

「ほい」


 ミレーネは部屋を出て行って直ぐに戻って来た。

 一人ではない。どういうわけか、エルシィを連れていた。


「まぁっ! ステラさん、どうしてセトンス家にいらっしゃるの!?」

「え!? どうしてかっていうと……なんて言ったらいいんだろ??」


 まさか、エルシィの前で、”彼女の侍女を選ぶ試験で不正を行うため”、打ち合わせに来ているのだとは言えるはずもなく、ステラは動揺した。

 するとステラの代わりに、ミレーネが答えてくれた。


「ふふ。グウェルがステラさんを紹介してくれたんだよ。学校で親しくしているのだと」

「あ、そうなんです! 最近生徒会長さんとも親しくしてるですよ! もう親友なんですっ!」

「なぜそのような事に?? 理解が追い付きませんわね」


 自然な答えだと思ったのに、エルシィは酷く困惑しているようだ。

 麗しい顔には怒りの色すら混ざっているように見える。


「あのような男性はステラさんには全く不釣り合いですわっ! なんというか、とても偉そうですもの! 貴女にはもっと気品があり、言葉遣いが優美な方が合っています!」

「聞き捨てならないな。グウェルは私の自慢の弟だよ。言葉を撤回してほしい」

「いいえ! セトンス家の教育が間違ったから、あのような傲慢な人間になったのですわ! ミレーネさんの責任もあるのではないかしら?」


 何故いきなりギスギスした雰囲気になっているのか理解出来ず、ステラはエルシィとミレーネの顔を上目遣いで交互に見つめる。

 本音を言わせてもらえるなら、お腹が減ったので、そろそろ帰りたいところだ。


「――とにかく! ミレーネさん。モルフォ・ソレイユを5匹頂けるかしら? 今日はそれでこの家にやってきたのですわ」

「そうか。少し待っていてほしい」


 再びミレーネが部屋を出て行ったことで、ステラとエルシィは二人だけ残された。


「えぇと……、私と生徒会長さんは親友ですけども、その中では一番悪い仲です。だから、ミレーネさんと喧嘩しないで下さいです」

「……喧嘩。言われてみれば、これは喧嘩なのかもしれませんわね。でも、ミレーネさんのような出来た方と喧嘩になるだなんて、不思議なこともありますのね」

「本音で話すと、ちょっとしたことで喧嘩になったりするですよ」

「ステラさんがこの場に居たから、お互い本音が出せたのかもしれませんわ! そうそう、大事なことをお聞きしようと思っていたのです。ステラさんが私の侍女になってくださるのは、本当ですの!?」

「えー、あー……。そうだったような。そうでもなかったような」

「ガセではなかったのですね! 朝から晩までステラさんとご一緒出来るだなんて、夢のようですわ!」

「ヒッ……侍女ってそんなブラックなお仕事ですか。給料がいっぱいでもちょっと……」

「ちょっと?」


 エルシィの喜びようを見ていると、もの凄く罪悪感を感じてしまう。

 自分に対しての期待が少しでも消えるように、ステラはミレーネのことを話題にすることにした。


「エルシィさんのそばにはミレーネさんのような大人の女性が居たらいいと思うです。きっと色んな方面での相談が出来るですよ」

「そうかしら?? でもまぁ、……あの方は特定の団体と関わらないという点は、私にとって都合が良い気はしています」

「結構ドライなんですね」


 エルシィとミレーネは幼馴染のような関係かと思ったけれど、意外とサッパリとした付き合いをしているようだ。こういった割り切り方が出来るエルシィが頼もしく思え、ステラはニカッと笑う。


「結局エルシィさん次第って感じですね。一番侍女さんになってほしい人を選んでください!」

「それはステラさんなのですわ!」

「げげげ……ブラックはちょっと……」


 ミレーネが戻ってくるまでの間、不毛な押し問答が繰り広げられたのだった……。


◇◇◇


 試験当日。

 ガーラヘル城近くの試験会場までやってきたステラ達は、その独特の雰囲気に圧倒された。

 まず周囲が女性だらけだし、一人一人が重装備をしている。

 ある者は杖、ある者は棍棒、そしてある者はフルアーマーを装着しているのだ。


 他にも目立つ者が居て、マントの裏側にカンニング用と思わしき、文章をビッシリと書き込んでいたりする。


 あまりの熱意に、こちらまで苦しくなってくるくらいだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る