アイテム屋さんからの分け前

 ステラは獣道ルート――ガーラヘル城への公道周辺に広がる大自然の中を通って、城門を目指すと宣言したわけだが、親友のレイチェルは良い顔をしなかった。


「やっぱり無理しない方がいいと思うっ! だって、そのルートは無数の堀を超えていかなきゃなんでしょ? ステラは泳ぎが苦手なんだから、危険だよ!」

「その堀には水が入ってないから大丈夫なんです!」

「そうなの??」

「うん。でも、私はそこに水を流しいれてやるつもりでいます。ふっふふ~~」

「どういうこと??」

「堀がいっぱいですから、この地形を利用しない手はないです。うまくやれば、パーヴァさんを私のところまで誘導できるはずなんですっ」


 ステラが力説すれば、レイチェルは激しくまばたきをし、エマはパチパチと拍手する。

 ロカの方は『水といえば、今日庭にあるプールの水が無くなっていましたね』と言い、鋭い観察眼を披露してくれた。

 実はそうなのだ。魔法で空間利用が出来るようになったので、実技試験の際はこれを使ってみたいと考えた。その仕込みとして、早朝家のプールや海から大量の水を吸い取ったのだった。二日後はこれを使って、大規模な罠とするつもりだ。


 ニマニマとするステラの横で、アジ・ダハーカが【無限収納】の中からマジックアイテムを次々に取り出す。


「ステラよ。この者達の為にアイテムを作ったのを忘れるでないぞ」

「お! そうだったです。皆さんに私が作ったアイテムを使ってほしいです。今からお渡しする物の中には開発したばっかしのアイテムや、未知の素材なんかも混ざっているですので、後から感想なんかも聞きたいです!」

「ステラのアイテムを使わせてもらえるんだ! ラッキー!!」

「楽しみです!」


 レイチェルとロカの二人が目の色を変えるので、俄然がぜん説明するモチベーションが高まってくる。

 

「まず1つ目は【異界の水】。これに触れた人、または物は、エーテルの流れが10秒間止まるです。エーテルに大きく依存するような戦い方をする人に対して使用すれば、大きなアドバンテージになるかもですね」

「自分に付いたら、危険……?」

「エマさんの言う通りです。【異界の水】は自分にかかったらヤバイですので、保管注意なんです! 二つ目のアイテムの紹介にいっちゃいますね。これは先日私が開発した【かしこい氷水】というアイテムなんです。一緒に渡すミスリル鉱の顔料がんりょうでガラス板に魔法の術式を描いて、それをこのアイテムに浸してください。そしたら不思議っ! この溶液をたらすだけで、魔法効果を得られるです!」

「ステラのセールストーク聞いてたら、有り金全部使っちゃいそうだよ!」

「本当ですねっ! ローンは可能ですか??」

「ふっふふ~。聞いて驚くがいいです! これぜーんぶ、今だけ無料なんですっ!」


 両手を大きく広げ、ニパ~と笑えば、歓声が上がる。

 人に喜ばれるのはやっぱり気分がいいものだ。


 続けざまに、【美形おじさんの汁】やら、【初霜のリンゴ】の原液の効果も説明し、ついでとばかりに【ポーション】をセットにし、3人にプレゼントすることとした。


「もし気に入ったアイテムがあったら、後で教えてくださいなんです。今回実技試験に協力してくれるお礼に、1ダースお渡しするですよ」

「やったぁ! ステラの太っ腹っぷりにはホレボレしちゃうよ!」

「太っ……腹。う、うん」


 自分の腹の肉を何気なさを装って摘まむ。

 言葉の意味を分かってはいるが、若干心臓に悪いものである。


 アイテム配布が完了した後は、実技試験や筆記試験に関する細々とした話し合いをし、陽が落ちる前に解散した。


◇◇◇


 マクスウェル家での打ち合わせが終わった後、ステラが向かったのは生徒会長の家――セトンス家の邸宅だ。

 ステラ自身のチームはうまく機能しそうだが、肝心のミレーネとも話し合う必要がある。


 連絡も無しに訪問したステラだったが、セトンスの使用人達に顔を覚えられており、すんなりとミレーネの所まで通してもらうことが出来た。


 ミレーネは先日と同じように中庭の温室で蝶の世話をしていたが、ガラス越しに見る彼女の横顔は少し憂鬱そうだ。しかしステラは気にせず、戸をノックする。


「――おや? ステラ君じゃないか」

「ミレーネさん。こんばんわです」

「こんばんは。……もしかして、二日後の侍女選出試験の事を話しに来たのかな?」

「そうです!」

「そのことなんだけど、やっぱり、君の手は借りない。卑怯な事をして侍女になったとしたら、エルシィ様に合わせる顔が無くなってしまう」

「公平さを気にしてるですか?」

「そうだよ」


 正しくあろうとする姿は美しいものだ。

 だけど――


「綺麗な心で居続けている人は他人に信頼されやすいかもですね。でも、現実って厳しいです。何かを、誰かを守りたい時にはそれが弱さに繋がるかもなんです」

「ハッキリと言うね」

「はっきり言うです。貴女がおねぇ――じゃなかった。エルシィさんの近くに居るのは、彼女の選択肢を狭める事にならないですか。議会の人達に舐められるキッカケを作ったりはしないですか。国を治めるなら、綺麗ごとで済まない事っていっぱいある気がする……」

「ああ……」

「ごめんなさいです。でも、ある程度高潔でいるのも……大切だとも思っていて……。つまり、臨機応変に? 柔軟に? あれれ?? なんて言ったらいいんだろ」


 ミレーネは真っすぐにステラを見ようとしない。

 しかし、彼女なりの考えはキチンと伝えてくれた。


「エルシィ様のお心を守りたい。この国は昔から、宗教・人種・病気……様々な差別があった。ただの迷信から人の命が奪われることも……。エルシィ様の妹姫様もそのことが原因で亡くなっておられるようでね。あの方は人一倍このような偏見をなくそうとお考えなんだ。私はあの方の思想に、自分の理想を重ねている」


 ミレーネの言葉の中に自分の事と思わしき内容があったが、ステラはそのことには触れずコクリと頷くにとどめた。




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