ガーラヘル王城防御施設内でどう戦うか?

 ステラの突然の申し出に、室内に居る人々は良い顔をしなかった。

 しかし、ステラには”忘却薬を使用してパーヴァ・コロニアの記憶を消し去る”という目的があるため、彼女と一対一で戦闘をし、勝ちたいのだ。

 

「個人的に勝ちたいと思っている相手がいるですっ! その人を何とかおびき寄せて、頭の中から――あわわっ! いっぱい闘います!」

「ステラのそういう気持ち、とても良く分かるよっ! でもさ、なんていうか、今やらなくてもいいんじゃないかって思う!」

「うぅ……」


 レイチェルにそう言われてしまうと、”確かにその通りかもしれない”と思えてくる。やっぱり誰がどう考えても、勝手な行動なんだろうか?

 しかし、そんなステラをフォローする者もいた。


「私は、ステラ様に賛成。今のステラ様なら、パーヴァに勝てる」

「!」


 キッチリと言い切ってくれたのはエマだ。

 以前エマに彼女の義姉の実力を聞いたところ、魔法剣士のレベルは120を超えているのだとか。なので、一対一で戦ったとしても、勝てる見込みはかなり薄い。

 それでも、隙を見て忘却薬を使うくらいは出来るだろうと思っていた。


 だけど、その辺の事情をここで言ったなら、止められるだけなのは分かり切っている。エマ以外の人間に認めてもらうために、ステラがここで言えるのは一つだけだ。


「私を信じてほしいです。全く危険はありませんので!」

「う~ん……。そこまで言うなら、分かったよ」

「私は、レイフィールドで命を助けていただいた時から、ステラさんに全幅の信頼を寄せています。貴女の判断を信用していますよ」


 レイチェルとロカにも承諾を得る事が出来た。

 ステラは噛みしめるように『有難うなんです』と言い、自分の胸のあたりを抑える。


(魔法学校に入学した時にくらべて、色んなステータスが上がったし、使えるアイテム種類も増えた。パーヴァさんに勝てるなら、勝ちたいな)


 「はふぅ」とため息をつき、沸き上がる闘争心を抑える。

  パーヴァと対峙した時に冷静さを失った行動をとったなら、平穏な生活が失われてしまう。ここは落ち着いて、出来るだけのことをすべきだろう。


 ステラは声のトーンを一段落とし、手に持っていた”ガーラヘル王城周辺地図”をホワイドボードに貼りつける。


「ええと、ゴホンッ。次は作戦会議と行くです」


 室内に居る三人と一匹がそれぞれの反応を返すのに、ステラは頷き、午前中に考えておいた作戦を説明する。


「今回は私達、3グループに分かれるです」


「ふむ」

「分かった」

「えぇっ!? ヤバくない!?」

「お考えを聞かせてもらえますか??」


 アジ・ダハーカ、エマ、レイチェル、ロカの返答に内心ドキドキする。

 だけど、これにはステラなりの理由があるのだ。


「メインの目的は生徒会長のお姉さんを手助けすることです。だけど、この地図を見てもらえば分かるように、ガーラヘル城は防御構造になっていて、”自分達が防御側に立ったなら有利に”、”攻める側になったなら、圧倒的不利に”なるです」

「あたしは地図を見ても、そこまでは分からないっ! 詳しく教えてほしいっ!」

「ほい。まず、この実技試験はそもそもとてもシンプルで、メイドさん達を連れて、城下街から城門前まで安全に連れていけばいい感じです。でも、それぞれのチームからメイドさんを略奪出来ることで、ポイントの変動要素があるですよね。それと、ガーラヘル城門までが結構デンジャラスなんです。なんでかって言うと――」


 エルシィの付き人から色んな資料を渡されたことで分かったのだが、この城は麗しい外観からは想像出来ないくらいに堅牢な防御構造の施設を備えているようだ。


 キングスコート市中心部には小高い丘があり、ガーラヘル城はそのてっぺんに建っている。

 まず特筆すべきは居城裏側の崖とその下を流れる川だろう。

 城はこの川を天然のバリケードにしている。

 川側から城への侵入をこころみようにも、高さ約70mもの断崖絶壁をほぼ垂直によじ登らねばならない。また、消エーテル障壁の存在の所為で、魔法やアビリティの利用も難しい。


 このようになっているにも関わらず、過去には深窓の姫君に恋い焦がれた若者が無謀な挑戦を試みたようだ。しかしながら途中で足を踏み外し、川の藻屑となったのだとか。


 また、城門に至るまでの道も工夫されている。道が細いだけでなく、大きく蛇行しており、道の両端には幅1mほどの石垣が永延と続いている。このようになっている理由は、正規ルートから入城を試みる者達を石垣に隠れつつ迎え撃ち、駆除する為だ。


 今回の試験でこの正規ルートから城門を目指すなら、”どのチームよりも早くゴール地点を目指す”か、または”石垣の上を目指す”べきだろう。つまりはスピード勝負になってしまい、チームメンバーのフィジカルだけでなく、メイドさん達の能力も問われてしまう。


 正規ルートが難しいのなら、その周囲に広がる獣道を選択しなければならない。

 獣道といっても、大自然がそのままの状態で残されているのではない。

 なだらかな斜面には等高線上に等間隔で横堀が深く掘られ、各処に銃座や砲座――つまり、登ってくる者をピンポイントで狙い撃ち出来る地点――が備えられている。

 獣道から城門を目指すなら、ほんのわずかに高度を上げるだけでも、多くの労力を必要とするだろう。



 ステラはガーラヘル城周辺について、一通り説明し終えた後、メンバーそれぞれの配置場所を告げる。


「レイチェルさんとエマさんはミレーネさん達を守りながら石垣に囲まれた正規ルートを進んでください。そして彼女達を早い段階で石垣の上に誘導してほしいです。ロカさんは川側に行き、崖登りをする人達からメイドさんを奪ってください。30分経過後はレイチェルさんとエマさんに合流してほしいです。」

「分かったよ! ステラとアジちゃんはどうするの?」


「私とアジさんは獣道をすすむです!」


 レイチェルに対し、ステラがそう宣言すると、全員が目を丸くしたのだった。


 

 

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